2話で描く覇王誕生編
22.ウチ、覇王にされる
楽園の外って治安が悪いんだなぁ。
ビックリしたよ。気持ちよくランニングしてる途中、洞窟を見つけたから興味本位で入ってみたらグロテスクな現場に遭遇しちゃった。
ライムさん曰く、ちょっと移動した隙に攫われたっぽい。
何それ、こわぁ……。
楽園、でっかい壁に囲まれてると思ったら、外が危険だからなのか。
ウチも気を付けよう。
今回の悪い人は弱かったけど、いつか危険な人と会うかもしれない。せっかく亡命したのに、わざわざ危ない目に会うとか嫌過ぎるからね。
あと、ライムさんの助手のアイビーさん。
彼女の腕はノエルがくっつけた。流石は聖女って感じだ。
ウチには白魔法が使えないけど、練習したら似たようなことはできるかな?
日課に追加してみよう。ダメ元だけどね。
それから入国審査。
ノエルがアイビーさんを治療するついでに話をして、認めて貰えたみたいだ。
やったね。
これで亡命成功。
「イッくん様、ご提案があります」
ここは青の楽園にある旅館っぽい場所。
ウチはノエルと二人でのんびりしている。
空が青いなぁと窓の外を見ていたら、彼女が言った。
「その瞳には遥か先の未来まで映っていることと思われます。ですが、足元の些事について、ほんの少しばかり進言させてください」
あー、ノエルが陰謀論モードに入っちゃった。
ちょっと治安が悪かっただけなのに、あの……なんだっけ? ゼクス? とかいうおっさんを悪の組織の幹部に見立てて、色々と設定を作ってるみたいだ。
まあでもノエルには助けられてるからね。
ちょっとくらいは付き合ってあげよう。そのうち飽きるでしょ。
「沈黙を肯定と受け取ります。感謝します」
ウチは振り返る。
ノエルは床に跪いていた。本格的だ。
「この度、イッくん様は楽園の代表に認められました」
「……うん、とてもめでたい」
入国審査が終わった。
これで心置きなく楽園を満喫できる。
……いや、次は仕事を探さないとダメか。
「その表情、何か心配事でも?」
「なんでもない。続けて」
「承知しました。それでは、まずは名前を決めませんか?」
「……名前?」
「はい。もちろん今のイーロンという名も素敵ですが、その……」
あー、そういう感じか。
ウチ達は亡命したわけだから、心機一転、ということなのだろう。
「……いろは」
一応、前世の名前がある。
とりあえず言ってみたけど、女の子の名前だからな……。
「いろは……?」
やっぱりノエルも違和感があるみたいだ。
ここはもっと真剣に考えて……。
「はゎぁ~!? いろは……つまり、色の覇王! 魔力には色があります。すなわち色とは魔力を示す言葉。それを支配する者に相応しいお名前。流石はイッくん様……いえ、イロハ様ァ♡」
……なんか納得してるからいっか。
「次に、組織の名前も決めて頂けませんか?」
「……組織?」
「はい! イロハ様を支える組織に相応しきお名前を!」
ああ、きっとこれも陰謀論の話だね。
悪の組織に対抗する正義の……みたいな感じだ。
…………。
やば、なんも思い付かない。
「何かイメージとかある?」
「イメージですか? そうですね……イロハ様がその神の如き魔力を駆使して新世界を描く為の組織、ですかね……」
なんか壮大だね。
簡単に言えば、絵を描くイメージってことかな?
「……キャンバス」
「きゃん、ばす?」
あれ、ダメっぽい?
どうしよう。ノエル、色っぽい名前が好きだから、何か付け加えてみようか。
聖女の白い魔力……ホワイト・キャンバス?
いやでも魔族も居るからな……白と黒の間か。
「グレイ・キャンバス」
「……はゎぁ」
よし、気に入ったっぽい。
「グレイ・キャンバス! 早速、広めてまいります!」
「いやそれはちょっと……行っちゃったか」
ウチの考えた名前が楽園中に広まるってことだよね?
何それめっちゃ恥ずかしい。でも楽しそうなノエルに水を差すのも……。
「まあ、いっか」
──イロハは知らない。
この短い会話が、歴史を動かすきっかけになるのだった。
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