その世界で僕は関係ない。

春羽 羊馬

その世界で僕は関係ない。

 その青年 小石木こいわき立也たつやは、自身が握ったドアノブをゆっくりと回し、部屋の扉を開けて中へと入って行く。部屋に入った立也の跡を追うように扉がゆっくりと閉まる。

 部屋は真っ暗で立也は、そんな部屋の中へ入って扉のすぐ傍の壁に手をあてる。

 立也の手と壁の間には、小さな凹凸おうとつが1つ。その凹凸を立也が押すと『パチン!』と鳴る音とともに部屋の天井に付けられている電気が光り出す。

 電気の光によって明るく照らされた部屋の内部が、立也の眼に映る。

 部屋の中は、扉から左側のすぐ傍の位置でモニターとそれ専用のワイヤレスキーボードが置かれているデスクが1つ。と、そのデスクから離れたところに長机が置かれている。

 デスクには、高さが変わるキャスター付きの椅子が。長机には、展開されたパイプ椅子が2つと長机の脇に畳まれたものが2つ置かれている。

 そしてそれらのデスクと長机の反対で部屋の右側の位置にロッカーが6つ設置されている。ロッカーにはそれぞれ2名ずつ名前の入ったパネルが差し込まれている。

 立也は、自身の名前が書かれたパネルが差し込まれている左から4番目のロッカーへと近づく。

 立也は、ロッカーの前で来ると制服を脱ぎ始めた。制服を脱いでいく最中、先に空いた右手でロッカーを開ける。

 開いたロッカーの中へ右手を伸ばし、ハンガーを取り出す。取り出したハンガーに制服を掛け、それをロッカーの中へと戻す。そのまま立也は、制服と入れ替わりでフードの付いた上着が掛かったハンガーに手を伸ばし、ハンガーから無理に剥がす形で上着を取り出す。

 上着を頭から被り、頭を先に出したのち順番に両腕を袖に通していく。

 着替えを終えロッカーから財布とデバイス(この世界での携帯端末)を上着のポケットに入れる。

 ロッカーを閉め、部屋の電気を消し、再び扉のドアノブを回し部屋を出る。

 部屋を出て、すれ違う制服を着ている人に「お疲れ様です」と言い。後ろから帰ってくる「お疲れ様」と言う声を耳にしながら立也は、その場を後にする。

 立也は、夕方から夜にかけてアルバイトをしている。この日もいつものように仕事を終え、家路への道を歩き出す。

 

 「はぁ~疲れた」


 大きなため息をつき、仕事への疲れを吐露する。

 立也は、真っ暗な夜道を歩いているとある異変に気付いた。

 この時間。いつもなら心地よい夜風が吹き周りの静かな空間を辺りを覆ているはずだ。周りがうるさくてもせいぜい2.3台のバイクや車が、ドでかいエンジン音を響かせながら疾走するぐらいだった。がこの日は違った。

 立也の目の前から息を切らせながら走ってくる1人の青年。

 青年は、目の前から歩いてくる立也に声をかけ、デバイスの画面に映っている1枚の画像を見せる。


 「はぁ、はぁ、すいません。この人、見ませんでしたか?」


 「いえ、見て無いですね」


 「そうですか。ありがとうございます」


 青年の質問に立也は、淡々と答える。

 それを聞き、青年は軽くお辞儀をしたあとまた走り出した。

 走り去る青年の後ろ姿を振り返るもその青年に首を突っ込むことは無く。立也の視線は、家のある方向へと戻る。

 それから少し歩くとアルバイト先と家の中間地点である十字路の横断歩道が見えてくる。

 十字路に着くも信号は青から赤に丁度変わったところだった。ここの信号は赤から青に変わるのに約1分ほどかかり、信号が変わるのを待つ間立也は、辺りに目を配っていた。すると反対側の歩道に急ぎ足で動く人の集まりを目にする。

 その人たちは、皆同じような服を着ており、その後ろには【KEEP OUT】の文字が入ったテープが張られていた。

 その光景を見る立也の口からは、


 「なんかあったのか?」


 その様子に対する感想が出る。

 やがて信号が青に変わり、反対側を見ていたせいか?信号のメータが中間になってから気づいた立也が足早に道路を渡る。


 「おっとと、ふー、セーフ」


 道路渡り切った立也の口からその言葉が漏れる。

 (特犯がいるなんて珍しいな)

 そんなことを考えながら立也は、また家に向け足を進める。

 十字路での様子を目にしてからまた少し。

 立也の眼に自分の家が入っている建物が、見えてくる辺りまで歩き進んでいたころだ。

 遠くのほうから大きな爆発音が1つ聞こえて来た。

 突然の大きな音にビックリした立也は、道の壁際に寄りつつ防御姿勢を取っていた。


 「ッ、ビックリしたー」


 大きな音への感想を口にする立也。

 立也は、その危険から離れる様に家に向かって足早に進む。



 ガチャン!と鍵を閉め、家の玄関で靴を脱ぐ。

 「ただいま~」と声に出し、立也はリビングへ足を入れる。しかし部屋のどこからも「お帰り」の返事は聞こえてこない。

 それもそのはずだ。この家に住んでいるのは、立也ただ1人なのだから。

 部屋の電気を点け、テーブルに置かれているリモコンを手に取り、テレビに向けてスイッチを押す。

 真っ暗な画面から明るくなったテレビには、ニュースが流れ1人キャスターが語っていた。

 耳に流れてくるニュースの音声に対し「大変なことで」と、感想を口にする。

 リモコンを操作し、チャンネルを変える。

 面白いものがやっていなかったのか?気になるものがなかったのか?立也は、先ほどのニュースを少しばかり耳に入れたのち、テレビを切った。

 鼻歌を歌いながらシャワー浴びて、着替えに袖を通す。

 リビングへ戻り、兼用型ソファをベッドに変形させる。

 ベットへダイブする立也。


 「おやすみなさい」


 テーブルに置いてある遠隔操作用のリモコンで部屋の電気を消し、上から毛布を掛け眠りに着き始めた。



 「おはよー、立也」


 「…はよー」


 「なぁ立也、昨日の夜のニュース見た」


 「あー、見たけど覚えて無いや」


 次の日、いつもの時間いつものように学校へ行った立也。

 教室へ入り、声をかけてくる友人に対して気の抜けた返事をする。


 「えー、なんで⁉」


 「…どうでもいいから」


 友人の話題に対してすら立也は、昨夜見たはずのニュースを思い出そうとせず淡々と答えるのだった。


 

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その世界で僕は関係ない。 春羽 羊馬 @Haruakuma

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