第2話
翌日満を持して登校すると、教室に入るや否や
「龍太郎ーーー!!」
と叫ぶ声と共に何者かが俺にタックルをかましてきた。
特に具合が悪い訳じゃないが病み上がりである俺に対してタックルとはどんなやつか…と思い見てみると、金色の長い髪をしたそいつが、泣きながら俺の服に鼻水をつけていた。
「ぎゃあ〜!!」
俺は思わずそいつを押しのけた。
下を見ると、べっとりと汚いのがついている。
こいつは
俺の幼馴染だ。
「おい遥ァ…お前いつになったら成長するんだ!!」
と叱る。
気づけば周りには人が集まっていた。
中にはニヤニヤしながら口笛で冷やかす人も居た。
次第に恥ずかしくなって遥かに近づき
「おい、お前急にどうしたんだ?」
と言うと
「だって、昨日龍太郎が休んでて寂しかったんだもん…」
とか言い出す。
不意にドキッとして下を向いてしまった。
すると遥がニヤニヤしながら覗き込んできて
「だって昨日の課題1人でやらないと行けない羽目になったし?笑」
と。
俺はさっきのドキドキを返せと言わんばかりに遥の頭にチョップを叩き込んでやった。
「痛ァーー!!」
と叫ぶ遥を横目に俺はさっと席に着く。
あんなんじゃなかったら顔も良いしモテるだろうに。
すぐに教室のドアが音を立てて開き
「さぁーHRの時間だぞー。」
と木村先生が
あの人、いっつもクマが凄いけど毎晩何してんのかな…
HRが終わると、遥と俺の親友、
「おぉ龍太郎、お前が学校休むなんて珍しいな。」
「本当。何かあったの?サボり?」
颯太と渡辺さんが訊いてきた。
「まーちょっとなー。」
俺は頭の後ろで手を組みながら、軽く受け流す。
昨日の事は、何となく人に言ってはいけない気がしたから。
「それはそうと、龍太郎昨日の授業のノート誰かに貸してもらった?」
遥が俺の机に顎を乗せて首を
「いや、まだ貰ってないけど…」
「そうなの?昨日の授業相当難しかったわよ。何か奢ってくれるんなら、この私が昨日のノートを貸してあげても――」
「いや、お前字汚いじゃん。読めんわ。」
「はぁ〜?!」
刹那、遥が俺に飛びついてくる。
「それどーいうことよ!!」
「いや、そのままの意味だって…!」
ふと周りを見渡すと、やっぱりみんながこっちをニヤつきながら見つめて来る。
颯太と渡辺さんも、どことなく気まずそうだ。
この状況を打破するために
「あとお前近すぎだって!俺らが付き合ってるとか勘違いされたらどうするんだよ!」
「この私とあんたなんかが付き合えるなんて光栄じゃないの?!」
「どこがだよ!死んでも嫌だわ!」
なんて言い合いをしながら組み合っていると、数学の佐藤先生が
「そこ授業始めるぞ〜!」
とこちらを指さしながら怒鳴ってきた。
俺たちは
「「はぁーい」」
とぼやきながら、渋々席に着いた。
――「ここで判別式を使って…」
先生が授業をしている間でも、俺たちの喧嘩は止まらない。
きっかけはいつもどっちかがどっちかに消しゴムのカスを投げつけるとか、そんな些細な事だ。
俺は授業中暇になったので、遥の席まで紙飛行機を飛ばした。
それは遥の机に見事に着地する予定だったが、突如突風が吹き、紙飛行機はこれまた見事に遥の頭に突き刺さった。
それまでは静かにノートをとっていた遥だったが、突如殺気立ち、静かにこちらを向いて不意に笑顔になった。
そしてその笑顔を貼り付けたまま俺の紙飛行機をぐしゃっと握りつぶし、丸めてこちらに投げつけてきた。
「うおっ?!」
俺はそれを間一髪でよけ、紙くずは開いていた教室の窓から外に放り出された。
それを見送って遥の方を向き直すと、俺に中指を立てている遥。
――の後ろには、怒り狂った佐藤先生が。
「榎戸ォーーー!!!」
「キャーーーッッッ!!!」
先生の怒りは爆発。
遥は尊い犠牲となった。
放課後、授業中に遊んでいた罰として遥と、何故か俺まで教室の居残り掃除を命じられた。
そこでも俺たちの言い争いは止むことなく
「大体、あんたが紙飛行機を私に刺してくるからいけないんでしょ!」
「いや、あれはお前の席に着地させる予定だったし、頭に刺さったくらいで俺の大事な紙飛行機を潰すなんてやりすぎだろ!」
「はぁ?!逆ギレとかまじありえないんですけど!」
「なんだと?!」
俺たちは顔を突き合わせる。
しばらくして、俺たちは盛大に笑った。
掃除に戻り暫くすると、遥が訊いてくる。
「龍太郎、ほんとに昨日は何もなかったの?」
「ん?あぁ、大丈夫だよ。」
「そう。」
それだけ言って、遥はぷいと顔を背けてしまう。
今日はやけに
そう思っていると
「じゃあ、今日は久しぶりに
「あぁ、
最近は暫くやっていなかったが、久しぶりにやるのもいいかもしれない。
「今は俺が10連勝で、勝ち越してること忘れてないよな?」
俺が腕を組みながら見下ろすと
「そうやって余裕ぶれるのも今のうちよ。なんてったって、私は昨日コソ練してきたもの。」
遥が顔をずいと近寄らせて言ってくる。
遥は頭が良いが、運動はあまり良くない。
俺はその逆だ。
このホームランダービーは俺のプライドにかけて、負けるわけにはいかないのだ。
結果、今日も俺の圧勝。
遥にジュースを奢らせて、気持ちよく帰路についた。
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