ep8 バタフライ星団の将星

 この世界にはいわゆるダンジョンというものが数多く存在する。他の多くのゲームと同じようにその最深部にはボスがいて、倒すとレアアイテムや経験値なんかをドロップする。また、ダンジョンには現実世界の建築物をモデルにしてあるものも多数存在する。

 ダンジョンにはストーリーに関係のあるものもあれば、無いものもある。俺たち最前線の攻略組は既に全てのストーリーに関係があるダンジョンは踏破している。ストーリーはもう終わっているので必然的にこのダンジョンはストーリーに関係ない、所謂クエストのダンジョンか、もしくは裏ダンジョン的な何かだろう。ストーリー以外のボスは倒しても数時間で再スポーンするため十中八九ボスも居るだろう。そんなことを考えながら俺はダンジョンの奥へ歩いていく。


「"炎熱閃舞"!!」


 炎刀スキルの上位技で大量の巨大サソリをまとめて薙ぎ払う。


「なかなか敵が多いな」


 かなり難易度高めのダンジョンだ。まあ本来ダンジョンってソロ攻略するものじゃないんだけど。もしかしたらラスボス討伐後に新規生成、もしくは解放されたのかもしれない。

 その他にも気になることがいくつかある。ここは徹底的に探っておくか。



「ボス部屋だ」


 2時間ほどかけてようやく辿り着いたダンジョンの最深部。目の前には巨大な金属の扉。いかにもなボス部屋だ。消耗してはいるけどなんとかなるだろう。


「よし、行くか」


 ボス部屋の扉を開ける。奥の玉座に座って目を閉じていた巨大な獣人のボスがゆっくりと目を開ける。


「バオオオオオオオオオオ!!!!」


 名前は”axe mad beast”。HPバーは6本。攻撃力も斧だったら相当高い。結構強敵だ。たがやるしかない。刀を抜き、左上段に構える。ボスも大きく斧を振りかぶる。そしてボスが斧を振り下ろすのと同時に俺は技を発動した。


「”炎熱瞬閃”!!」

「バガァァァ⁉⁉」


 炎刀の最速技で振り下ろされる直前のボスの腕を断ち切った。斧を持った腕が地面に落ち、1本目のHPバーが3割ほど削れる。そのうち再生するだろうが腕のない今が大きなチャンスだ。


「”炎剣閃舞”!!」

「バオオオオオオオオオオオ‼‼‼‼」


 両足を切り落とし、さらに首、腹と連続でダメージを与える。連撃でHPバーがゴリゴリ削れ、あっという間に1本目と2本目のHPが無くなった。


 パチ、パチ、パチ、パチ。


「いやー、さすがアマノサカホコのナンバー2。そこらのやつとはレベルが違うっすね」


 拍手の音と共に10人くらいのパーティーがボス部屋に入ってくる。その先頭にいるチャラそうな男がふざけた喋り方で俺の戦いを賞賛する。


「なんだテメェら?」


 おっと思わず口が悪くなってしまった。だが見るだけでイライラする顔をしてやがる。


「あっしはギルド・バタフライ星団の将星・ララワグっす。以後、お見知りおきをっす」


 バタフライ星団? 確か序列十何位の。


「どうもご丁寧に。で、俺に何か用かな? 見ての通りボス戦の最中なんだが。終わったらでもいい?」

「まあまあそう言わずに。あっしらとも遊んでくださいよぉ」

「はあ?」

「行くっすよ、お前ら! アマノサカホコのNo.2、殺せば大きな手柄になるっすよ!! 早い者勝ちっすよ!!」

「はあ?」

「うおおおぉぉぉ!!」

「殺せぇぇ!」

「こいつを殺せば将星も夢じゃねえ!!」


 ララワグが指示を飛ばすと同時に一気にボス戦中の俺に襲いかかってくるバタフライ星団のメンバーたち。


「おいおいおいおい! ふざけんなよ! こっちはボス戦の最中だぞ!?」

「だからっすよ! こんな時じゃないとあなたは倒せない!! ”風神の加護”!!」


 風魔法のバフにより敵全員の速度が上がる。


「なめんな! ”炎剣熱波”!!」

「”絶対防御”」

「ッ!」


 最上位技の絶対融解を使わなかったことが悔やまれる。まさか絶対防御持ちがいるとは。俺の技は絶対防御に阻まれる。絶対融解なら最上位同士で相殺できるのだがこの技では無理だ。

 そして技を打った直後の隙を狙って敵が多数接近する。


「”身体強化”!」

「”鈍化”」

「”暗黒獄炎”!!」

「”流麗斬波”」

「”超電導”ッ!」


 敵にはバフ、俺にはデバフがかけられ、その後高レベルの攻撃技が俺を襲う。しかもよりにもよって融解で対処しづらい魔法系の技ばかりだ。

 ”炎熱閃舞”で対応しようと剣を構えた瞬間、俺の後方で存在が忘れられている間に腕を再生したダンジョンボスが斧を大きく振った。


「バオオオオオオオオオオ!!!!」

「ッ!? こんな時に! いや、むしろ好都合だ!!」


 俺が斧を避けると、ボスの次の標的は俺に攻撃しようとしていたバタフライ星団の面々に変わった。バタフライ星団のメンバーはまさかのボスからの攻撃に対応できず魔法で攻撃してきていた3人が腹を両断され、そのままこの場から消えた。

 さらにボスは再び斧を振り、バフ魔法使いとデバフ魔法使いの2人を葬った。さらに壁際の方にバタフライ星団を追い込んでいく。


「なッ!? クソ、なんでイザナギは襲わないんすか。つーかあいつどこ行った?」

「ここだよ」


 俺はボスの頭の上でボスとバタフライ星団の戦いを眺めていた。

 ボス戦中の俺に襲いかかってきたのに何故かボスと戦うことになってキレているララワグ。


「高みの見物とは良い御身分っすね!」

「序列2位ギルドのナンバー2だしまあそこそこいい御身分なんじゃないかな」

「それ真面目に答える奴いないっすよ!!」

 

 真面目に答えて怒られるってこれ如何に。あ、また一人死んだ。まあそろそろ見飽きてきたし


「よっと! ”絶対融解”」

「バオオオオオオオオオオオ⁉⁉⁉⁉」


 頭蓋の中心に剣を突き立て、炎刀スキルの最高奥義を発動させる。残り2割ほどだったHPを残さず消し飛ばした。congratulationの文字が浮かび上がり、報酬が表示される。だが今はそれを確認する余裕はない。


「”粘着糸縛”!! 将星様、今です!!」

「よくやったっすよ!! ”風神の加護”、”多重風波”!!」


 白い糸で捕縛され、それに続きララワグがスキルを連続発動させる。”風神の加護”は速度と攻撃力にバフがかかる。

 ”多重風波”は手足に風の弾を生成し敵にぶつけることで敵を吹き飛ばすことができるスキルだがこのスキルの真価はは自分に使うことで高速で読みずらい動きをすることができるという所だ。もちろんララワグは後者の使い方をした。レベルが上がるにつれて生成する玉の数が増える。

 さて、まずは糸をどうにかしないと。


「”融解”」


 さすがに炎刀相手に糸じゃ弱すぎる。俺の拘束はあっという間に解かれた。次は迫ってくるララワグ。わざわざ来てくれるんだから待てばいい。俺は刀を居合に構える。そしてララワグが間合いに入った瞬間に最速の”炎閃”を放とうと力を籠める。


「”炎せ」「”破裂バースト”」


 俺が刀を振るうと同時にララワグが俺の足元で”多重風波”の玉を一つ破裂させる。結果、俺の”炎閃”は不発。


「わお、上手いね」

「そんなこと言ってる余裕はないっすよ!! そんな体勢からこの攻撃は受けれない!! ”破裂バースト”!! ”風覇乱邪”!!」


 ”風覇乱邪”は風魔法の上位スキルで高威力の技だ。”多重風波”の”破裂”で速度を底上げたうえで広範囲殲滅型魔法を超至近距離で撃ち込もうとしてくる。

 ……これはちょっとまずいか? いや、まだ耐える方法はある。


「”炎熱瞬閃”!!」

「え? あたし!? ”絶対防御”!!」

「ありがとう。そうしてくれると信じてたよ」


 俺は”絶対防御”の裏に入り広範囲殲滅型魔法”風覇乱邪”をしのぐ。敵の”絶対防御”を利用する高等テクだ。そしてスキル発動直後の隙ができたララワグに再び接近する。”絶対防御”の女の子も殺そうと思えば殺せたけど一回守って貰ったので見逃してあげた。


「”炎火刺突”!!」

「クソォォ!!」


 俺の刺突技にララワグの杖を持った右腕が落ちた。


「クソっくそっ!! イザナギィィ!!」

「なんだよ。お前らが売ってきた喧嘩だろ? ボス戦中に割り込むマナー違反を犯したうえ、10対1の圧倒的有利な状況で俺を殺しに来た。そのうえで負けてんだよ。潔く認めろ」

「クソがぁ!! ”煙煙旋風”!!」


 煙幕がボス部屋を覆う。このパターンは煙に巻かれて逃げられる奴だ。だがそんなことは許さない。


「”炎熱閃舞”!!」

「”破裂”!!」

 

 俺が煙を吹き飛ばすのとほぼ同時に”破裂”が発動しボス部屋から離脱するララワグの後姿が見えた。逃げられた。でもあいつ高い身分としては最悪だな。だって……


「あれ?」

「しょ、将星様?」

「あ、あ、あああ!? こ、殺される!?」


 味方置いて逃げてんだもん。


「投稿しろ。殺さないから」

「は、はい!」

「もちろんです!!」


 あっさり投降してきた女の子3人。じゃあ俺の配下にしようかな。


「お前ら、うちに来るか? 序列2位ギルドのサブリーダーの直属。悪くないんじゃない?」

「え?」

「い、いいんですか?」

「殺そうとしたのに?」

「いいよ。お前らだけじゃ俺は殺せないだろ。まず名前は? あとスキルもな。”絶対防御”のお前からだ」

「は、はい。イクリールです。ご存じの通りスキルは”防御魔法”です」

「ピピリマです。スキルは”蜘蛛糸”です」

「レサトです。スキルは”回復魔法”です」


 見事にアシスト系ばっか。でもこのスキルなら他のダンジョンも行けそうだな。これならサズにも勝てるかも。


「よし、全員の入団を認める。俺のことはボスと呼ぶように。じゃあ行くぞ」

「はい! ボス!」

「どこに行くんですか? ボス?」

「ニジェールエリアを落としに行くぞ。お前らの将星がいるギルドともやりあうことになるかもな」

「え!?」

「そ、それは……さすがにこのメンバーでは厳しいと思いますよ」

「いくらボスが強くてもあっちに将星は6名いますから」

「特にアンタレス様は……」

「アンタレス? 魔王戦の生き残りか。確か魔剣の」

「とにかく今すぐバタフライ星団と戦争は止めた方がいいと思うです」

 

 うーん、そこまで言うか。サズとの勝負はあと2日。あっちは兵も大勢いるし今から巻き返せないか。成果もあったし後はこっち側にも軍を送らせてニジェールはその時に取ろう。


「わかった。アマノサカホコのアジトに案内するからついて来い。バタフライ星団との戦争はまた今度だ。あと情報は洗いざらいはいて貰うからな」


 本日の成果、ニジェールの重要拠点ダンジョンを制圧。高レベルプレイヤー3人獲得。


 

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