神様にケンカを売った青年

ザイン

第1話 宣戦布告

ここは私達が生きる世界と非常に良く似た世界。


人間がいて、家があり、家族と呼ばれる集団が途方も無く存在し、それらを纏める為に町と呼ばれる集団を形成しその数多の町を管理する為に地方自治体があり、その地方自治体を纏める為に200近い国家が存在する。私達の生きる世界となんら変わらぬ世界。


唯一私達の生きる世界と違う点それは…………


『神様』が実在し、私達が見ることの出来ない遥か彼方宇宙(そら)の上から見守っているということ


私達の想像する『神様』となんら変わりは無い。


私達が到達するには限り無く不可能に近い力を有しそれぞれの『神様』が万物の頂点に君臨している。


そのような『神様』を私達は時に畏怖し崇拝している。


この世界の私達の『神様』に対する印象も全く同じだ。


『神様』が何故私達を見守っているのか?って?


『神様』の中でも特に偉い『神様』に聞いたら


【いつか人間が私達と共に肩を並べ、この宇宙(そら)を護る存在になると信じている】


からだそうだ。


この世界には無数の宇宙(そら)が広がっていて、無数の惑星(ほし)が存在する。『神様』は惑星(ほし)一つ一つに存在し、その惑星(ほし)ごとに


大地の神、水の神、森の神・・・・・といった『神様』が存在し惑星(ほし)々に存在する。


しかしである。いかせん崇め敬う対象が惑星(ほし)々に多すぎて、『神様』が足りない。


『神様』同士で新しい『神様』を誕生させるのに途方もない時間と労力がかかる。


苦悩した末『神様』が導き出した結論が・・・・・


【自分達で新たな『神様』を誕生させつつ自分達の最低限の能力を持った生物を創り出し、その者達が自分達の高みに到達する】


ことだという


そうして誕生したのが私達『人間』だ、それが俺がこの世界に遣わされる時に俺を遣わした『神様』に言われたこの世界の真理だそうだ。




「やってらんねー」


この世界に遣わされ20年。それが今の俺の心情だ。


期待して待ち続けている『神様』が気の毒だ。ユニバーシティに通えば、何かに熱中し取り組むヤツはごく少数。大半は特に考え無しにレクチャーを受け、フレンドと意味の無いトークを延々としユニバーシティ終わりにワイワイ騒ぐホームパーティーでストレスを発散する。


外に目を向ければ、自分達の住むこの惑星(ほし)を汚し、惑星(ほし)との調和を無視した人工物を作りだし世の中に流通させ、隣人を蹴落とし合い、騙し、奪い合い、搾取する。強い者と弱い者を作り優越感に浸り、劣等感を抱く者が現状を変えようと足掻くわけではなく強い者に付き従う。


我々人間が誕生し約2000年・・・・・『神様』はこの『創造物』に何を期待しているのだろう


家に帰りTVをつければまたどこかで殺し合いが起きている。別に殺さなければ生きられないわけでは無い


自分の所属するコミュニティの正義や自分の信じる思想を守る為に殺し合いをしている。


相対する正義やら思想やらを尊重し理解出来る面は受け入れ、理解出来ない面は相対する者が不快感を得ないよう自分達のコミュニティ内で繁栄していけば良い事だ。相対する者を殺し、殺した者を愛する者に憎まれ殺される。そんなことを約2000年間今度こそしないと誓いながら愚かにも続ける。


そして殺されるのはただ幸せに暮らしたいと今を懸命に生きる者達。殺し合いを起こした者達は自分の正義やら思想を守る為に自ら手を汚すこと無く自分達が勝利の2文字を手にするまで続ける。


こんなこと間違っているとわかっていながら繰り返す『創造物』に俺はもう何も期待してはいない。俺が『神様』から遣わされた命を守るのはもはや俺の義務感だ。そこに意味を感じ無い。


そんな俺も皮肉なことに『創造物』に染まっているのだろう。家に帰ればネットを繋げる。遣わされた使命を実行する為に情報収集をしているといえば聞こえはいいが、散りばめられた情報を眺めながら時を進めている。


「いつになれば俺はあっちに戻れるんだろう」


そんな小言を呟きながら毎度のように眺める画面。


「なんだこれ?」


何故か気になった1本の動画


【今回起きてしまった悲劇について・・・・・】


10分程で纏められたその動画には気になる紋章が刻まれていた。それは今回起きてしまった悲劇の主役となる者達が崇拝しているという思想のシンボル。本編に入ると今時顔も隠さず殺風景な白い背景を背に男が1人こちらを見ていた。


その男が言うには今回起きてしまった悲劇の原因の1つに異なる主義主張があるとのことだ。・・・・・言ってしまえば在り来たりだ。そんなものが統一されえいればこんなことは起きないのだから


(・・・・・この紋章は確かおじきのだ。違う神様を崇拝しているらしいけど、名前が違うだけで結局はおじきを崇拝してるんじゃねーのか?・・・・・俺もこんな浅い内容に釣られるとは情けない)


「・・・・・と散々今回起きてしまった悲劇についての考察を述べてきたが、私が言いたいのはそんなことではない」


動画を消そうとした右腕が止まる。


「今回起きてしまった悲劇には3つ・・・・・いや2つの主義主張を持つ思想が出てきました。起きてしまった争いについて今更あーだこーだ述べても仕方がないです。ですがよくよく考えてみてください。今争っている人達はそれらの主義主張を持つ思想を信じることでこの辛く苦しい世界でも救われると信じその主義主張を持つ思想を信仰しているはずです。ですが実際はどうでしょう?信じた主義主張を持つ思想が一因として故郷を失い、家を失い、愛する家族を失っています。その主義主張を持つ思想を広めた者はどうして今救いの手を差し伸べてくれないのですか?既に死んだから?確かにその者はもうこの世にはいないでしょう。ですが本当にその主義主張を持つ思想が正しいのなら。故郷を失い、家を失い、愛する家族を失うと言った信仰している人達をその苦しみから解放できるはずです」


俺はいつの間にか食い入るようにその男を見ていた。


「実際はどうでしょう?私達が見る映像にはその苦しみから解放されている人達は誰一人いません。これが何を意味するかお分かりでしょうか?そうです!その主義主張を持つ思想で信仰している『神様』という存在はそもそも存在しないのです!!」


(なにを言ってるんだこいつは・・・・・)


俺はその男の一挙手一投足に自分の額から落ちる雫を感じ取る。


「私達はいい加減に目覚めなければいけません。存在しない『神様』という名の『創作物』を信じてしまう己の弱さを!無心で1つのモノに依存してしまう『信仰』という行いを!!」


(なんだこいつ・・・・・何者なんだ)


俺は目の前の男によくわからない感情を抱きながらその動画の終わりを見る。


「私、『山田太郎』はそのような偶像を信仰させようとする主義主張を持つ思想を持つ人々の解放する為に闘う事を今ここに宣言します。」


こうして1人の男による『神様』との喧嘩が幕を開けた。


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