第2話

   

 友人の田中から奇妙な噂話を聞かされて、数日後の午後。

 駅前の大通りを歩いている途中、小腹がいた私は「そうだ、あの店へ行こう。ピザでも食べよう」という気分になり、ファミレスSへ向かった。


 田中の話が意識に残っていたせいもあって、ファミレスSが頭に浮かんだのかもしれない。とはいえ、彼の話を鵜呑みにしたわけではなかった。

 そもそも「恐ろしいテーブルがある」なんて話を信じたのであれば、むしろその店は避けるはず。私がファミレスSを選んだことこそ、全く気にしていないあかしだったのだろう。


 食事時ではなかったため、店内はかなりいていた。

「こちらのお席へどうぞ」

 と案内されたのは、1人用や2人用ではなく、4人で使えるテーブル席。ゆったりと食べられる環境であり、ちょっとラッキーに感じたほどだ。

 少し気が大きくなった私は、元々頼むつもりだったピザとドリンクバーに加えて、ドリアとサラダも注文。所定の場所から汲んできたアイスティーを飲みながら、運ばれてくる料理を1人で楽しんでいたのだが……。

「あっ!」

 置いた場所が悪かったらしい。左肘がぶつかってグラスが倒れて、アイスティーをこぼしてしまった。


 茶色の液体が手前に向かって広がってくる。テーブルは完全な水平でなく、少しだけ傾いていたようだ。

 私はサッと数枚の紙ナプキンを手に取り、テーブルの端の方から押さえた。川や湖を堰き止めるダムみたいな感じで、アイスティーの流れはそこで止まる。

「セーフ……」

 思わず小声で呟いてしまう。

 まだテーブルの上はビショビショであり、事態は完全に収拾したわけではなかった。それでも、とりあえず端からこぼれ落ちる心配がなくなった以上、自分の服やズボンは汚れずに済む。そう思えるだけで、ホッと一安心だったのだ。

 しかし……。


 ポタッポタッと嫌な音が聞こえたかと思ったら、太ももに冷たい感触が走る。

 慌ててテーブルの下を覗き込めば、テーブルの裏側から私のズボンに向かって、アイスティーがしたたり落ちていた。

 しかも1滴や2滴にとどまらない。ジワジワと広がっていき、あっというまに股間の辺りまで茶色く汚れてしまった。

 追加の紙ナプキンを取ろうと、慌ててナプキンスタンドに手を伸ばしたところで、視界の片隅に入ってきたのは、テーブル横に記された数字。


 それは13だった。

 つまり私が着席したのは、噂の13番テーブルだったのだ。

   

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