第78話 こっち見てよ、委員長!(ギャルside)

 委員長と付き合い始めてから、世界が鮮やかになった気がする。

 もちろん変わったのは世界じゃなくて私の方だってことくらい、ちゃんと分かってるんだけど。


「おはよう、委員長」

「おはよう、天野さん」


 私たちが友達から恋人になって、もうすぐ一週間。

 変わらないことも多いけれど、ちょっぴり変わったこともある。


 椅子に座り、眠いね、なんて言いながら委員長の肩に頭を預ける。

 そして、机の下でそっと委員長の手を握った。


「……天野さん」

「どうかした?」

「ここ、教室よ」


 注意しているつもりなのかもしれないけれど、にやけた顔で言われても、反省なんてするわけない。


「いいじゃん、別に」


 私と委員長は女同士で、元々仲がいい。

 私たちがちょっといちゃついたところで、不思議に思う人なんていないはずだ。


 まあ私は、付き合ってるってバレても、全然いいんだけど。


「こうやって隣の席に座るのも、あと少しなんだし」

「……それもそうね」


 諦めたようにそう言って、委員長は私の手をぎゅっと握り返してくれた。


 ここ一週間で、私と委員長のスキンシップは格段に増えた。

 恋人になった、という事実が、私の背中を後押ししてくれるからだ。


 しかし実は告白の時以来、まだキスはできていない。


 キスできる場所とタイミングって、そんなにないんだよね。


 あの時は、放課後の空き教室に二人きりという、キスにぴったりな状況だった。

 でもあれから、私たちはまだ二人きりになれていない。


「ねえ、委員長。今日の放課後、ちょっと時間もらっていい? 塾があるのは分かってるから」

「いいけど、どうかしたの?」

「ちょっと、充電したいだけ」


 自分でそう言ったくせに、恥ずかしくなって私は俯いた。

 恋人らしく甘えることに、まだ慣れていないのだ。


 とはいえ、それは委員長も同じようで。


「……そういう可愛すぎることは、二人の時に言ってくれない?」


 とんでもなくにやけた顔で、委員長はそう言った。





 放課後、私たちは空き教室に移動した。

 委員長が告白してくれた、思い出の空き教室である。


 ここにきただけで、やたらとどきどきしてしまう。

 きっと私はこれから、ここへくるたびにあの日のことを思い出すのだろう。


「ねえ、委員長」

「なにかしら?」

「こっち見てよ」


 委員長の腕を軽く引っ張る。委員長は私を見たのに、すぐに少しだけ目を逸らしてしまった。


 恋人同士になったというのに、真っ直ぐ目を見てくれないのは相変わらずだ。


 まあ、そういうところも、大好きなんだけど。


 委員長が私の目を真っ直ぐ見ないのは、照れているからだ。恋人なんだから、それくらい分かる。

 それに、普段あまり目が合わない分、じっと見つめられた時の威力は凄まじい。


「委員長、もっと、ちゃんと私のこと見て」

「見てるじゃない」

「もっと、ちゃんと真っ直ぐ見て。なんで、いっつも目逸らすの?」

「……絶対、分かってて聞いてるでしょ」


 うん、委員長の言う通り。

 分かってるけど、委員長の口から聞きたいんだもん。


「天野さんの顔が好きすぎて、照れるのよ……」


 真っ赤になった顔が可愛い。

 どうしようもなく胸がときめいて、私は委員長に勢いよく抱き着いた。

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