第71話 待ちに待った新学期(ギャルside)

「メイクよし、髪型よし……うん、完璧!」


 鏡に映る自分を見て、にっこりと笑ってみせる。


「なんか、制服着るの久しぶりな気がするな」


 今まで、冬休みを長いと思ったことは一度もない。

 でも、今回の冬休みはやけに長く感じた。


「前に比べて、ちょっと髪も伸びた気がするし」


 金髪を保つためには、定期的に美容院へ行かなければならない。

 ブリーチした髪の毛で綺麗なロングヘアを維持するのは大変だし、ウィッグをかぶりやすいからという理由で最近はずっとショートだ。


「そろそろ、美容院行かないとなあ」


 頭のてっぺんあたりは既に、少し黒くなってしまっている。


 よし。電車の中で美容院を予約しよう。


 そう決めて、私は家を出た。

 学校に行くのが楽しみで、自然と早足になってしまう。


 新学期を楽しみにする日がくるなんて、想像もしていなかった。

 委員長のおかげだ。





「おはよう、委員長!」


 早めについたからか、まだ教室内にほとんど人はいない。

 でも委員長はもうきていて、机の上には数学の問題集が広がっていた。


「おはよう、天野さん」


 こうして委員長と挨拶をするのも久しぶりだ。

 何気ないことなのに、嬉しくてついにやにやしてしまう。


「天野さん、髪伸びた?」

「そうなの」

「また切るの?」

「そうしようかなとは思ってるんだけど……どう思う?」


 私がそう尋ねると、委員長は真剣な表情で黙り込んでしまった。


 何気ない質問を、こんなにじっくりと考えてくれるなんて。


「悩むわ。絶対、ロングも似合うから」


 委員長の眼差しは真剣そのものだ。


「委員長はどっちが好みとか、あるの?」


 冗談っぽく言って、委員長の顔を覗き込む。


「天野さんなら全部好みだけど」


 言った直後に、委員長は慌てて口をふさいだ。

 どうやら、頭の中で考えたことがそのまま口に出てしまったらしい。


 委員長、私のこと好きでしょ。


 正直、それは間違いない……と思う。分からないのは、それが恋愛的な意味なのかどうかだ。


 委員長、私とキスとかできるのかな。

 ……しようって言ったら、してくれそうだけど。


 いやいや、そういうもんじゃないよね?

 普通、もっといい雰囲気になって、みたいな感じよね?


 まあ、普通のキスの流れなんて、私は分かんないんだけど。


 委員長が気づいているかどうかは分からないけれど、私は誰かと付き合ったことなんてない。

 告白されたことはあるけれど、全員断った。

 告白してくれた相手を、一人だけの特別な存在にしようとは思えなかったから。


「……天野さん、私の口になにかついてる?」

「えっ?」

「さっきから、ずっと口元を見られてる気がするんだけど」

「あ、えっと、なんでもない、ごめん!」


 どうやら、キスのことを考えすぎて、委員長の唇をじろじろと見ていたらしい。


 委員長の唇って、薄めだよね。

 色はついてないけど荒れてる様子はないから、無着色のリップでも塗ってるのかな。

 それとも、薄く色がついたやつ?


 使っているリップの種類なんてどうだっていい。でも、委員長のことになると、私はどうだっていいことまで気になってしまうのだ。


 委員長のことなら、全部知りたいもん。


 私って、独占欲が強いタイプなのかもしれない。 





「じゃあ、新学期になったし、席替えするか」


 朝のホームルームが始まると、先生がそう言い出した。


 予想はしてたけど、初日から席替えなんてしなくていいのに……!


「くじ引きするから、順番に前に引きにきてくれ」


 みんなが席を立ってくじを引きに行く。

 本当はくじなんて引きたくないけれど、そういうわけにもいかない。


 お願いします、神様。

 どうかまた、委員長と隣の席に……せめて、委員長の近くの席になれますように……!

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