第26話 近づく文化祭(委員長side)

 文化祭まで、あと1週間。

 ようやく、本格的な準備が始まった。


 うちのクラスの出し物はコスプレ喫茶だ。しかし喫茶店といっても、販売していいのは既製品だけ。

 ドリンクやちょっとしたフードの発注はもう済ませているし、意外とやることは少ない。


「シフトを組めるのは、私たち実行委員の特権だよね」


 天野さんが私を見てくすっと笑った。


「うん、私もそう思う」


 文化祭は2日間あるけれど、全員がずっとコスプレ喫茶で働く必要はない。

 あらかじめ部活の出し物で出られない時間をみんなに聞き、シフトを組むのは私たちの仕事だ。


 つまり、私たちは好きな時間に休むこともできる。


「委員長、見たい出し物とかある?」


 体育館と校庭に設置されるステージでは、いろいろな出し物が行われる。

 ダンス、バンド、演劇、漫才……。

 部活の出し物もあるし、個人の出し物もある。


「特に……」


 友達が出し物に出るわけでもないし、絶対見たいイベントはない。

 行こうかな、と思っているクラスはいくつかあるけれど。


「文化祭、一緒にまわらない?」

「……いいの?」

「もちろん! 愛梨沙は彼氏とまわるらしいし」


 私は頭の中で、顔も知らない近藤さんの彼氏に頭を下げた。


 ありがとう、本当に。


 もし近藤さんがいても、天野さんは一人の私を誘ってくれたかも知れない。

 でも、近藤さんがいないおかげで、私は天野さんと二人になれる。


 別に、近藤さんが嫌いとか、そういうわけじゃないけど。

 でもやっぱり、二人と三人ではかなり違うから。


「私、2-Bのわたあめ屋行きたい」


 天野さんは鞄から、先日配られたばかりの文化祭パンフレットを取り出した。


「委員長は? あっ、別にとか、今回はなしだからね!」


 ほら、と天野さんがパンフレットを渡してくれた。


 行こうかな、と思っているクラスはある。

 でも、絶対行きたいってわけじゃない。

 天野さんに行きたいところがあるなら、全部天野さんが決めたっていい。


 でも、天野さん、私の希望もちゃんと聞こうとしてくれてるんだよね。


 天野さんの気遣いや優しさを感じて嬉しくなる。

 にやけそうになった口元をおさえ、改めてパンフレットを見つめた。


 焼きそば屋にでも行こうかと思ってたけど、天野さんと行くなら……。


「これ」

「……占いの館?」

「相性占い、どうかなって」


 3-Aの出し物だ。

 3年生は受験が近いため、手の込んだ出し物はしない。

 そのため占いの館も本格的なものではないことは明白だ。


「水晶占い、やるらしいし」


 たぶん誰かが水晶を持ってきて、適当なことを言うだけだ。

 一人なら絶対に行かないけれど、天野さんとなら楽しい気がする。


「いいね。これ、やってもらう?」


 天野さんが指さしたのは、相性占い、という文字だ。


「うん、やってもらおう」

「私と委員長、相性どうなのかな」

「……私は、かなりいいと思うけど」


 自分で言っておいて恥ずかしくなる。

 笑われるかと思ったけれど、天野さんの顔も赤くなっていた。


 やっぱり私たち、結構相性いいでしょ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る