第24話 委員長の推し語り(ギャルside)

「ねえ、委員長、この後どうする?」


 昼食をとって、コスメを買って、実際にメイクをして。

 予定していたことは全部終わったけれど、まだ時間に余裕はある。


「そうね……天野さん、まだ時間あるのよね?」

「うん、バイト、夕方からだから」

「カフェでも行かない?」


 委員長から提案してくれたことが嬉しくて、私は大声でうん! と返事をしてしまった。

 そんな私を見て、委員長も楽しそうに笑う。


「じゃあ、カフェ探そっか!」

「ええ」





 ビル内のカフェはどこも混雑していたから、私たちは少し歩いて外のカフェへ入った。

 レトロな純喫茶風で店内も広く、ここならゆっくりとくつろげそうだ。


 私と委員長は、色違いのクリームソーダを頼んだ。

 私がソーダ味の青色で、委員長がストロベリー味のピンク色。


 並べると色味が可愛くて、つい写真を撮ってしまう。


「委員長って、苺好きだよね」


 なんでもない風を装って、さらりと口にする。

 委員長は優しい顔で頷いて、クリームソーダを一口飲んだ。


「実は、推しの影響なの」


 思わず口に含んでいたクリームソーダを吹き出しそうになってしまい、慌てて紙ナプキンで口をおさえる。


「天野さん?」

「え、あ、いや、なんでもない」

「私に推しがいるなんて、驚いた?」


 いや、元から知ってたし、なんなら委員長の推しは私です。


 ……なんて、言えるはずもなく。

 私にできるのは、曖昧に頷くことだけだ。


「私らしくないし、なんか恥ずかしくて。だから、周りには隠してたんだけど」


 委員長が私を見て、ふにゃりと笑った。

 気が抜けるような、柔らかい笑顔。


「天野さんなら、笑わずに聞いてくれる気がして」

「委員長……」


 周りに言えなかったことを打ち明ける相手に、私を選んでくれた。

 その事実が、どうしようもなく嬉しい。


「私の推し、この子なの」


 委員長が見せてくれたのは、もちろんいちごの写真だ。

 白いロリータワンピースをしたアップの写真。


「配信者? って言えばいいのかな。動画配信とかしてる子なの」

「か、可愛いね」


 自分で自分を褒めるのは照れ臭い。

 でも私のその一言が、委員長の心に火をつけたみたいだった。


「そうなの! めちゃくちゃ可愛いの!」


 委員長は大声で言った。一瞬、店内にいた人々の視線が私たちに集中する。


「ごめん、急に大声出して」

「ううん」

「それでね、見てわかる通りいちごちゃんは最高で最強に可愛いんだけど、それだけじゃなくて」


 委員長は急に早口になった。


「可愛い服が大好きで、そういう話をする時はいつも目がキラキラしてるの。

 配信ではちゃんとコメントに答えるし、みんなの気持ちも分かってくれるし。

 しかもメンションしてるわけじゃなくても、私の投稿にいいねくれたりするし。

 写真だけじゃなくて動画も可愛いの。配信で一瞬フィルターが外れちゃった時もただの美人だったんだよね」


 ここまで、息継ぎなし。


「そ、そうなんだ……」


 委員長がストロベリーナイトさんだということは知っていた。

 ストロベリーナイトさんが私の強オタだということも。


 でも、知っていたからと言って、冷静でいられるわけじゃない。


「私、いちごちゃんにたくさん救われてきたの。辛い時も、悲しい時も」

「委員長……」

「だから私も、いちごちゃんになにかしてあげたくて。まあ、投げ銭することしかできないけど」

「きっと、いちごちゃん、すごく助かってるよ」


 それがなければ買えていない物も多いし、なにより、私を応援してくれることが嬉しいから。


「いちごちゃんにとっては、きっと委員長は大切なファンだよ」

「天野さん……」


 ごめんね、委員長。

 でも今はまだ、私がいちごだってことは、秘密にしておきたいんだ。

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