第6話 ストロベリーナイトの秘密②(委員長side)
「いよいよだ……!」
パソコンの前にカップ麺を用意し、今か今かと配信が始まるのを待つ。
今日やらなければならない勉強はもう終わったし、いちごちゃんを楽しむための準備は万全だ。
家に誰もいないから、思いっきり叫んでも怒られないし!
お母さんもお父さんも、きっと私が配信者にハマってお小遣いのほとんどをスパチャに使っていることを知ったら、きっといい顔はしない。
まあ、反対されたって、絶対いちごちゃんのファンはやめないけど!
「始まった!」
『みんな、いちごちゃんだよ〜!』
「うわあああああ! 可愛い! え!? やば!! 今日も大天使……!」
画面いっぱいに映ったいちごちゃんが、両手で手を振っている。
今日のお洋服はピンクと白のギンガムチェックのワンピース。
いちごちゃんが配信でこの服を着るのは、確か一ヶ月ぶりだ。
「本当これめちゃくちゃ似合ってて好き、可愛すぎる、いやいちごちゃんに似合わない服なんて存在しないんだけど……」
私が悶えているうちに、いちごちゃんは立ち上がって服の全体を紹介してくれた。
可愛らしさが全面に押し出されたこの服が似合う子なんてきっと滅多にいない。
洋服の知識なんて全然なかったけれど、いちごちゃんのおかげでロリータのことは少しずつ分かってきた。
今、いちごちゃんにプレゼントを渡せる手段はない。
だけどいつか、いちごちゃんにとびきり素敵なお洋服を渡すのが私の夢。
そしてそれを、配信で着てもらいたい。
「そんなのもう、匂わせみたいなものだもんね?」
自分でも気持ち悪いと感じてしまうような笑い声が出てしまったが、仕方ない。
いちごちゃんの可愛さを前にして冷静さを保っていられるはずがないのだ。
にやにやしていると、いちごちゃんがなでなでのふりを始めた。
どうやら、誰かがスパチャを入れたらしい。
「いちごちゃんの可愛さが広まるのは嬉しいけど……」
スパチャを送った人を確認する。
けんけんという人は、ちょくちょく名前を見かける。
SNSを特定したところ、いちごちゃんのように駆け出しの配信者を何人か応援しているようだった。
「いちごちゃんを一番愛してるのは、私なんだから!」
私は配信者が好きなわけじゃなくて、いちごちゃんが大好きなのだ。
だから、他の人に負けるわけにはいかない。
『いちごちゃん、私も褒めて。今日も勉強頑張ったよ!』
5000円のスパチャを投げる。いちごちゃんはびっくりしたように目を見開いた。
いちごちゃんに投げられるスパチャは数百円〜1000円のものがほとんど。
いちごちゃんは、少ない額のスパチャだってちゃんと喜んでくれる。
だけど、高めのスパチャを入れると、もっと特別扱いしてくれるのだ。
『わあ! ストロベリーナイトさん、いつもありがとう!』
いつも、という言葉に胸がときめく。
「完全に認知してくれてるもん、いちごちゃんは!」
『ストロベリーナイトさん、今日もお疲れ様! いつも勉強頑張って偉いね。いちご、ストロベリーナイトさんのこと、いつも応援してるよ!』
ああ、もうだめ。
私、この言葉だけで、死ぬほど頑張れちゃう。
「いちごちゃんのこと、私が守るからね……!」
いつもいちごちゃんが笑っていられるように、いつも幸せな気持ちでいられるように。
画面越しに私ができることなんて限られているけれど、いちごちゃんのためならなんだってやってあげたい。
「次のテストも、頑張ろう」
いい成績をとって、お母さんやお父さんからお小遣いをもらう。
そしてそれを、いちごちゃんへのスパチャじ使う。
いちごちゃんは、私の原動力なのだ。
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