第2話 顔だけはいいギャル(委員長side)
私はいつも、一番最初に教室につく。高校が徒歩圏内にあるし、なにより、朝の教室が好きだからだ。
「なんか、落ち着くんだよね」
誰もいない教室で、思う存分深呼吸する。机の上に、英語の問題集を広げた。
今日の放課後は、塾でクラス分けテストがある。
塾では一ヶ月ごとにテストが行われ、点数によってクラスが変わるのだ。
私は中学生の時から、ずっと一番上のクラス。成績を落とすわけにはいかない。
クラスが落ちれば、お小遣いも減らされてしまうし。
「早く、学校も成績別クラスになっちゃえばいいのに」
呟きながら、ちら、と隣の席を見る。まだ彼女はきていないのに、机の中には大量の教科書が入っている。
どうせ、家で勉強なんてしていないのだろう。
天野翼。いつも遅刻寸前で登校してくる問題児だ。
しかも、いつもメイクとヘアセットは完璧。
「学校になにをしにきてるのよ」
目を閉じなくても、天野さんの顔が頭に浮かぶ。
すらっとした身体つきはモデルみたいで、金髪ショートヘアがよく似合う。
猫のような瞳が印象的で、ついつい、目で追いたくなってしまうような美少女だ。
本当に、顔だけは最高にいいのがむかつく!
頭を振って、脳内から天野さんを追い出す。
今はとにかく、勉強に集中しなくては!
♡
「おはようございまーす!」
今日も、ホームルームの途中に天野さんはやってきた。
いつも通り、完璧な顔で。
「今日もぎりぎりだぞ」
そう言う先生は相変わらずにやけ面で嫌になる。
昔からずっとそうだ。私みたいに真面目にやっている子より、天野さんみたいに愛想が良くて可愛い子がみんなから好かれる。
納得いかない。
「あ、おはよう、委員長」
天野さんは座りながら私に挨拶した。
みんなに挨拶するような天野さんからしてみれば、きっとこんな挨拶に意味はない。
分かっているのに、なぜか、胸が騒ぐ。
「おはよう」
視線を前に向けたまま、なんでもないような顔で返す。
天野さんはそれ以上、何も話しかけてこない。
天野さん、私なんかと隣の席になって、ついてないって思ってるだろうな。
私だって、天野さんの隣は嫌だ。
他の人ならきっと、こんな風に心が騒いだりしないだろうから。
♡
「本当先生、人づかいが荒い……!」
思わず、口から不満が漏れてしまう。
今日は早く塾へ行くつもりだったのに、先生に雑用を頼まれて時間をとられてしまったのだ。
学級委員長だから、という理由で、私はよく仕事を押しつけられる。
副学級委員の男子は、部活があるからと雑用を手伝ってくれることはない。
委員長なんて、損なことばっかりだわ。
早く教室においてある荷物をとって、塾へ向かわないと。
教室の前までやってきて、私は足を止めた。
中で談笑しているクラスメートの声が聞こえたからだ。
「それにしてもさ、委員長って真面目すぎねえ?」
「分かるわ。全然、融通きかないよな」
この声は、副学級委員の
もう一人は、たぶん彼とよく一緒にいる男子の誰かだろう。
部活って言って、先生からの頼みを断ったくせに!
サボりなのか、元々部活がなかったのかは分からない。
どっちでもいいけれど。
「天野も、委員長なんかと隣で本当災難だな」
「はあ?」
天野さんの声だ。何を言われるのだろうと、心臓がうるさくなる。
「そうやって裏でこそこそ言うようなアンタと隣になるより、全然マシだけど」
笑っているのに、冷ややかな声。
そしてすぐ、天野さんは帰る、と言い放った。
目の前の扉が開く。天野さんは、驚いたように目を見開いた。
「わっ、委員長……!」
教室の中にいる男子たちがざわめく。でも彼らの声なんてもう、気にもならない。
「あ、えっと……また明日ね、委員長!」
そう言うと、天野さんはどたばたと足音を立てて去っていった。
お礼、言うべきだったかも。
私は、天野さんの顔を見ることすらできなかった。
だって……。
両手で頬を包む。鏡を見なくたって、熱い頬が真っ赤なことは分かった。
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