4.決死の戦い
すっかり日が落ち、暗闇に包まれた森の中。
フレデリクとレオは食事を終え、焚き火を挟んで座っていた。
フレデリクの言葉は少なく、元気なように振る舞っていても、それが空元気なのは明らかだった。
レオはなんとかフレデリクに自信を取り戻してもらい、いつものフレデリクに戻って欲しかった。
剣の強さだけじゃない、憧れたフレデリクの良いところを取り戻して欲しかった。
ただ、その為に何をすれば良いのかは全く見当もつかなかったが。
「──!!」
レオは周囲の空気が変わった事に気付いた。
辺りの気配を探ると何者かに囲まれているようだった。
魔物臭が漂い、魔物だろうと想定する。
レオは立ち上がり、フレデリクの側に立つ。
「どうした?」
「何かに囲まれてるみたいだ、この焚き火から離れないようにしてね」
「え!?……ああ、分かった……」
以前のフレデリクならとっくに感じていたであろう魔物の気配を感じられず意気消沈してしまう。
レオはフレデリクが余計な事を考えないように声を掛ける。
「フレデリク、【身体強化】をお願い、目一杯ね」
「お、おう、任せろ」
魔物がジリジリと包囲網を狭めて姿を現した、フォレストウルフのようだ。
ゴブリンより動きが素早く鋭い牙が厄介だが、単体ならそこまで強くはない魔物。
フォレストウルフもゴブリンと同様に集団行動を取るが、厄介なところはリーダーの命令で連携する為、より危険な魔物となる。
見た所どうやら10匹程度の集団のようだ。
昨日までのフレデリクならば2人でなんとかなったかも知れないが今の状況では絶望的に思えた。
フレデリクは剣の代わりに、祠で白い影に餞別として貰った杖を両手に持っていた。
杖を構え、レオに向けて【身体強化】を掛ける。
その時、杖が光り【身体強化】を受けたレオが強い光りを帯びた。
それは明らかに杖無しで自身に【身体強化】を掛けた時より遥かに強い光を放ち、強い効果が発生した事を物語っていた。
【身体強化】を受けたレオは全身に力が漲り、身体がいつもより軽く、剣は羽のように軽く、五感も研ぎ澄まされ、周囲の気配を的確に感じ取れるようになっていた。
フレデリクは強い効果が発生した事に驚き、杖をじっと見ている。
レオは驚きつつもフォレストウルフへの警戒は緩めない。
強い強化を受けても、それでも状況は変わらず絶望的なまま、相当に厳しい戦いになるだろうとレオは考えている。
レオの光が収まった頃を見計らい、側面のフォレストウルフが挟み撃ちにするように攻撃を仕掛けてきた。
攻撃目標はフレデリクだった。
「しゃがんで!!」
慌ててフレデリクは頭を抱えてしゃがんだ。
フレデリクに声をかけ、レオは即座に【火炎】を左手側のフォレストウルフにぶつけ、右手側のフォレストウルフをフレデリクの頭上から横薙ぎに切り払った。
フォレストウルフは火を恐れる習性があり、その為に燃え盛る同胞から距離を取り、包囲が少し崩れる。
しかしそこを突破口に逃げるほどの隙は無いし、フレデリクは付いてこれないだろう。
リーダーを倒せば指示系統を失った集団は散開する。
やはりフォレストウルフのリーダーを狙うしかこの危機を脱する方法は無いようにレオには思えた。
リーダーを倒したいが包囲している状況でわざわざ前に出てくるほど知能は低くない。
ある程度は数を減らさないと駄目だろう、とはいえ前に飛び出す事はフレデリクを見殺す事にイコールとなるので動けない。
レオはリーダーのフォレストウルフに【火炎】を放った。
運良く当たればそれで良し、外れても自分に向けて攻撃が来るだろうと考えての行動だった。
フレデリクが狙われる事はこの数を相手に庇いつつ戦う事になるため、万に一つの勝ち目がない事になる。
【火炎】は避けられたが攻撃された事で怒るフォレストウルフのリーダーが雄叫びを上げ、5体のフォレストウルフがレオ目掛けて飛びかかってきた。
想定通り自分を狙ってくれた事に安堵した、被害を覚悟で先程と同様にまずは左手側に【火炎】を放ち、反対側に踏み込み、フォレストウルフの口から切り裂く。
返す刀で正面から飛びかかってきたフォレストウルフを切り上げるが流石に5体は捌ききれず、残り2体はほぼ同時にレオの左腕、右脇腹に牙を立てた。
脇腹に喰らいついたフォレストウルフはそのまま深く牙を立て、身体を捻って牙を離した。
レオは強烈な痛みと共に内臓ごと噛みちぎられた事を悟った。
「ぐッ!!」
「レオッ!!」
フレデリクは叫び、杖を構えて【身体強化】をレオに掛ける。
再び身体が強い光を帯びるが特に変化は無い、それは当然で、今の状態が既に【身体強化】状態であるからだ。
フレデリクはいても立ってもいられず無駄と分かっててもやらずにはいられなかった。
しかし身体が強い光を放った事で脇腹を噛みちぎったフォレストウルフは怯み、レオはその隙を見逃さず首を落とした。
レオは激痛に耐え、立ち、食いしばっていた。特に脇腹のダメージは大きく、大量の血を流している。
もう何度も剣を振れないだろう、出血のしすぎで寒気を感じ、身体は重く意識も朦朧としてきていた。
しかし、ここで自分が倒れたらフレデリクがやられてしまう、それだけは避けなければ、その思いでまだ、立っていた。
フォレストウルフのリーダーは自らと合わせて、残り4匹で攻撃を仕掛けてきた。
チャンスだ。ここでリーダーを倒さなければいけない、強い意思で残る力を振り絞り、脇腹の痛みも左腕の痛みも身体の重みも無視して剣を構え、リーダーだけに集中し、残る力を全て、全身全霊を込めて振り被った。
その瞬間、スキルが発現した。
「赤の剣技【
剣が炎を帯び、轟轟と燃え盛る。まるで今のレオの様に、燃え盛る
僅かにフォレストウルフ達が怯むとそのままフォレストウルフのリーダーに【火焔剣】を叩きつけ皮膚を、骨を、全てを焼き切りながらズバリと真っ二つに両断した。
そして炎が燃え移り、2つに分かれたまま燃える。
レオは燃え盛る【火焔剣】を構えたまま残りのフォレストウルフを睨みつけた。
リーダーがやられた残り3匹のフォレストウルフは統率を失い、炎を恐れ、散り散りに逃げていった。
逃げていく様を見届け、フレデリクに振り向き無事を確認して、ニコリと微笑み安堵した、その瞬間、血を吐き出し、レオの意識は途切れて倒れた。
[レオッッ!!!!」
フレデリクは悲痛の叫び声を上げた。
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