2.白い杖と呪い
その日は年に一度の成人の儀式を行う日だった。
この国では15才となって、成人の儀式を行う事で成人と認められる。
そして成人として認められると同時にそれぞれに加護が付与され、加護の開花が行われる。
加護の開花とは本人の才能を開花させ、加護に合わせてスキルが発現する事である。
加護は基本5種類の赤青黄緑白に大別される。
15才となったフレデリクやレオは成人の儀式を受けた。
フレデリクは白の加護と【身体強化】のスキル。
レオは赤の加護と【火炎】のスキルが発現した。
==========加護とスキルの発現==========
白の加護は生命や身体に関係するスキルが多く、フレデリクの【身体強化】は身体能力を全般的に向上させる事が出来る。これは日常生活においても、戦闘においても非常に有用なスキルである。
白の加護は【身体強化】の他に白の剣技、白の弓技などの武技に【治癒】【浄化】などが有名。
武技は各色の加護にそれぞれあり、各色の特徴を色濃く反映するものとなっている。
【治癒】【浄化】は有名ではあるが発現そのものが非常に稀で、また発現してもその効果は微々たるものが多い。
ただし、過去に強い【治癒】【浄化】が発現した者は聖者や聖女と呼ばれ、国に迎えられ、大きく貢献し、伝承が残る程である。
赤の加護は火を扱うスキルが多く、【小火】のような小さな火を出せる程度でも日常生活で非常に便利なため、重宝される。
レオに発現した【火炎】は大きな炎を発生させ、目標にぶつけて燃焼させる、戦いにおいて強いスキルとされている。
他にも赤の剣技【火焔剣】などの各武技と【超強化】などがある。
このように、他の色もそれぞれ特徴として、青=水、緑=大地、黄=風となっている。
スキルの効果という意味では、今回の成人の儀式ではレオの【火炎】が飛び抜けて強い効果で回数も多かった。
成人の儀式で発動できるスキルは殆どが効果は小さく、【小火】程度がせいぜい、それも一度に使える回数も少ないのが普通である。
それでも非常に有用である事には変わりないのだが。
またスキル発現は一つではなく、切っ掛けがあれば加護に合わせて複数個のスキルが発現する事もある。
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「レオは【火炎】か、おめでとう。まあ俺の【身体強化】も悪くないけどな、欲を言えば剣技が欲しかったけど」
「ありがとう、僕も剣技が良かったけどね、でも【火炎】か、……うん、これはこれで良かったかも」
そのまま成人の儀式は宴会になり、お酒が振る舞われ、始めてのお酒に酔う新成人達とそれに絡む酔った大人達の宴が始まる。
「残念だったなフレデリク~、剣技が発動しなくてよー」
「【身体強化】なら純粋なパワーアップみたいなもんだし、これで良いんだよ!」
「ああ全くだ、剣技があった所でそのまま強さに繋がるわけじゃねーしな、フレデリクならそっちのほうが良いかもな~。分かってるじゃねーか」
「酔っ払いめんどくさッ、もういいからあっちいけよ!」
「そんな事言うなよ~、ほらもっと飲め飲め!」
「分かった!分かったから!絡むな!」
そんなやりとりが各所で行われ、発現したスキルの有用性を力強く説く者、嘆く者がいて、それを肴に騒ぎ、飲み、皆が皆酔っ払うのであった。
◇◆◇
「おい!レオ!起きろ!」
フレデリクがレオの頬をペチペチと叩き、起こす。
「ん~、なんだよフレデリク、気持ちよく眠ってたのに」
「まあまあ、目覚ましに水でも飲め!」
水を受け取り口を付け、酔い冷ましと喉を潤す。
「さっき見てきたんだけどよ、今なら見張りも居ないし、祠の中がどうなってるか見に行こうぜ!」
「……マジで言ってんの」
「マジだよマジ!今しかチャンスは無いって!行こうぜ!」
明らかに普段とテンションが違う、レオはフレデリクがまだ酔ってると判断した。
しかし祠は昔から立ち入り禁止の場所で、小さい頃から入ってみたいと2人で話していた場所でもある。
レオ自身もまだ酔ってるとは自覚しつつも、好奇心には勝てず、祠に行く事に同意した。
フレデリクからすればこんなチャンスは滅多にない事だった、入っちゃ駄目だと言われていたら余計に入りたくなる、人間とはそういうものだ、それに酔ってる今は理性のブレーキが効きにくくなっていて、普段ならやらないであろう行動をとってしまっていた。
2人は辺りに人が居ない事を確認し、注意しつつ祠に入り、奥へと進んだ。
突き当りは祭壇のような場所になっていて、棺らしきものが置かれていた。
何かを祀っているのだろうか、しかし何も聞かされておらず、酔っていてタガが外れたフレデリクは、あろうことか棺を開けてしまった。
辺りの空気が一変する、しかし2人は気づかなかった。
中には骨と立派な杖が入っていて、高貴な方の墓か何かだったのだろうと推測出来る。
「なんか凄そうな杖が入ってんな、なんだこれ」
フレデリクはそのまま杖を手に取ってしまった。
その瞬間、男とも女ともつきにくい、しわがれた声が2人の頭に響く。
「私の墓を荒らす者はだれか!杖を奪おうとする者はだれか!」
「ヤバいよフレデリク!怒らせちゃってるよ!」
「逃げるぞレオ!」
フレデリクは杖を抱え、その場から逃げ出そうとする。
しかし逃げ出そうとした先に白くぼんやりとした人影のような者が現れた。
「逃がすと思うか!汝らに災いを与える!」
白い影がフレデリク達に構えた。
フレデリクはレオの前に立ち、言い放つ。
「杖を盗ったのは俺だ!棺を開けたのも俺、ここに誘ったのも俺だ!やるなら俺だけをやれ!」
「駄目だよフレデリク!誘いに乗った僕も同罪なんだから同じだけ罰を受けるよ!」
「良いんだよレオ!俺が悪いんだから!お前は悪くない!」
「それじゃ俺の気が済まない!」
「ほう……」
その後も似たような、俺が悪い、僕も悪いと責任の請け合いが続いた。
「そこまでだ!黙れ!」
白くぼんやりとした影の一喝で場は静まり、2人は大人しくなった。
白い影は瞳の無い眼で2人をジロジロと品定めするかの様に見て、ニヤリと笑った、ように見えた。
「では……お前だ!」
フレデリクを指差し、指先から白い塊のようなものが飛んでいきフレデリクの体内に入っていった。
フレデリクは胸を押さえたが痛みや苦しみは一切感じず、特に体外的な変化は感じられなかった。
「お前に呪いを掛けた、ヒヒヒ、頑張って抗っておくれよ」
「呪いって……なんともないぞ?」
「直に分かる、ああそうだ、その杖は餞別にくれてやろう、白の加護があるんだろ?」
「なんでそれを……」
「舐めるんじゃないよ、それくらい分かるさ、……上手くいくか、楽しみだねぇ」
そう言い残すと白くぼんやりした影はすぅと消えた。
「何だったんだ一体」
「ねえフレデリク、棺は元に戻しておこうよ、バレたらまずいよ」
「ああそうだな、でもなんか調子狂うな」
棺は元に戻したが杖はフレデリクの手の中にあった。
持ち主?から餞別で貰った物だからとそのまま頂いたのである。
すっかり酔いが冷めてしまった2人は祠を後にして、飲み直す気にもならず、そのまま家に戻った。
そして翌朝、フレデリクは呪いにより金髪巨乳の女の子になっていた。
「これが呪いって……嘘だろ……」
荷物を整え、こっそり家を抜け出してレオの家へ向かうフレデリクだった。
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