TSっ娘は呪いを解きたい!

エイジアモン

1.親友と女の子

異世界TS物です。

楽しんでいただければ幸いです。

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 プログレイス王国の村の一つロッジ村。

 村の回りには柵があり、村の入り口には門番が立ち、簡易な見張り台もある。

 村としては中規模から大規模と呼べる住民数と環境である。

 そんなロッジ村にひっそりと事件が起きる。


 年に一度の成人の儀式が終わった翌朝の事。


 ドンドンドン!ドンドンドン!


 部屋の窓を激しく叩く音がする。

 ベッドから身体を起こしたレオは面倒くさそうに木の窓をみやる。


 こんな事をするのは決まってる、親友のフレデリクだ。

 昨日成人の儀式があって、その後も大変だったんだから今日くらいゆっくりすればいいのに……。

 そんな事を思いながらも朝から元気な親友を迎えるべく、外開きの窓を開ける。


「はいはい、今開けるよ」


 窓を開け外を見るといつものフレデリクの顔の位置には何も無く、そこから頭一つ下の位置に金髪の女の子が居て、必死な顔をしてレオに訴えかけてきた。


「おい!レオ!やべぇよ!あの呪いマジだったんだよ!」


 レオの記憶にこんな金髪の女の子の知り合いは居ない、それにこの女の子は一度でも見かけたら忘れようが無いくらいに、とても可愛く綺麗だ。


「……えーと、君は誰?」


「何言ってんだレオ!俺だよ!フレデリクだよ!分かんねーか!?……いやすまん、分かんねーよな、こんな姿だし」


 フレデリ……ク?いや、フレデリカの聞き間違いかな。


「えーと、うん、ごめん、分かんない」


「とりあえず話は後だ、部屋に入れてくれ」


 金髪の女の子がぴょんと飛び上がり、窓から侵入を試みるも上手くよじ登れないようで、ジタバタと一生懸命に藻掻いている。

 その様子がレオには可愛く映り、しばらく眺めていたが金髪の女の子から声が掛かって正気に戻る。


「おい!ぼーっと見てないで手伝えって!」


「あ、ごめん、じゃあ身体、持つよ」


 そう言って気付く、女の子の身体を抱えてしまっても良いのだろうか。

 健全な男子であるレオにとって、女の子を抱えるという行為は躊躇してしまう事だった。


「早くしてくれ!もう限界だ!」


「ちょっとまってて!」


 慌ててレオは金髪の女の子の上半身を正面から抱え込む、瞬間、髪や身体から良い匂いがして、そして細くて柔らかい感触を感じ、少し幸せな気分になる。

 そのまま持ち上げてベッドへ荷物と一緒に身体を降ろした。

 不思議な事に、レオは見ず知らずの不審者を部屋に入れてしまったという感覚が全く無く、長く付き合いがある相手とやりとりをしているように感じていた。


「ふぅー、ありがとな!……それにしても部屋に入るだけでこんなに苦労するなんてなあ」


 レオはベッドの上に胡座をかいて座る金髪の女の子を見る、サイズが大きめの簡素な服を着ているようだ。

 年は自分と同じ15才くらいだろうか、自分より頭一つ分は小さく軽く、ロングのサラサラ金髪で色白で、顔がとても可愛くて綺麗で、そして服を大きく押し上げてとても自己主張の強い胸。

 やっぱりロッジ村ではこんな女の子は見た事が無い。


「ところで、君の名前を教えてもらっても良いかな?僕の名前はレオって言うんだけど」


「あ?だからさっきも言っただろ、俺がフレデリクだって」


「うーん、……フレデリ…カ、かな?よろしくねフレデリカちゃん」


「違うって!フレデリクだよ!フ、レ、デ、リ、ク!確かに昔から良く間違われるけどな」


「え!?いや……だってフレデリクは男だよ?君は……女の子だよね?」


 聞き間違いでは無かった、さきほども自分の事をフレデリクだと言っていたがレオは聞き間違いだと思ってフレデリカだと思っていた。一体どういう事だろうか。


「それがな、朝起きたら女になってた。多分昨日の呪いのせいだ」


 昨日の呪い、その話はレオとフレデリクの2人しか知らないはずだ、村の人達に知られたら大変な事になるから言えないんだけど。

 という事は本当にこの金髪の女の子がフレデリクなのか?


「まいったぜ、身体は小さくなるし、髪は長いし、それに力も無くなったみたいに剣を持つのも一苦労だ」


 レオは確認するように自称フレデリクの女の子に声を掛けた。


「本当にフレデリクなんだね?」


「ああ、こんな見た目だけどな、村一番の剣の使い手フレデリク様だ」


 金髪の美少女がニヤリと笑う、その笑い方はまさにフレデリクだった。


「それに証拠ならあるぞ、祠で手に入れたコレ」


 それは白い杖だった、立派な意匠をしているいかにも聖者が持っていそうな杖。

 昨日の夜、祠で手に入れた物でフレデリクしか持っていないはずの物だった。


「うん、分かった。祠の事を知ってるし、信じるよ。……ところでその荷物は何?」


「ああ、こっからが本題だ。俺は呪いを解いて男に戻りたい、だから呪いを解く旅に出ようと思うんだ。それでな、レオにも手伝って欲しいんだ、どうだ?」


「え?うーん、良いけど……親には話したの?」


「親には話してない、こんな姿見せられねーだろ……信じてもらえるかも分からないしな、だからレオから親経由で一緒に旅に出たって伝えてくれないか」


「んー、分かった、僕ら騎士になるのが夢だったし、成人の儀式が終わったから早速旅に出るって事にするよ」


「ああ、それなら理由としては自然だな!」


「じゃあ準備するからフレデリクは此処で待ってて」


 レオはドタバタと旅の準備を始めた。


 フレデリクはレオと自分の身体を比較した。


 レオは一見すると175cmの細身で力が無いように見えるが全身が筋肉で出来ているかのようにがっしりしていて、細くても村で1,2を争う力持ちだ。

 それに大人しそうな外見だけど意思が強く、心は自分より強い。時々見せる鋭い目つきは只者ではないと感じさせる。

 そして茶色の天然パーマも相まって一部女性から可愛いと好意を向けられていた、レオは気付いていなかったが。


 自分はというと、見るも無惨な程に非力になって、窓から入る事もままならない。

 そして大きいだけで邪魔な胸が生えてきて、黒髪だったのに金髪になって何故か腰程度までの長さがある、切る余裕も無かったのでそのままにしている。

 さらに身長は150cm程度と小さくなっていて、視界が低い、まるで世界が変わったように感じる。視点が違うとこうも違うのかと思える程に。



 フレデリクとレオの将来の夢は王国お抱えの騎士になる事だ。

 その為に簡単な読み書きや算数も習ったし、剣の腕も磨いてきた。


 フレデリクには剣の才能がずば抜けてあったようで、15の成人を迎える前にはロッジ村で一番の剣の使い手になっていて、レオもフレデリクには劣るが同年代ではフレデリクの次に強かった。


 そういうわけで2人は成人の儀式を終えたら村を出て、騎士を目指す事を決めていたし、両親にもその事は事前に伝えていた。

 だから理由としては問題が無い、ちょっと急な話ではあったけれど。


 レオが両親に騎士になる為に旅に出る事を伝え、別れの挨拶をする。

 フレデリクにはレオがフード付きのローブを渡して目深に被らせた。

 流石に金髪のまま村で歩かせるわけにもいかないとレオが判断したためだ。

 そして部屋の窓から外に出てもらい、家の外で合流する。


 レオとフレデリクは村を見回し、心の中で見納めだとしばしの別れを告げる。

 門番にレオが声を掛け、村を出る事を伝え、別れた。


「よっしゃ!呪いを解く旅、ついでに騎士になって帰ってくるぞ!」


 フレデリクは元気に宣言し、拳を天に突き上げた。


◇◆◇


 村から距離を取った所でフレデリクはフードを脱ぎ、レオに声を掛けた。


「……レオ、もうちょっとゆっくり歩いてくれ、歩幅も違うし、この身体だと体力が無いんだよ」


「あ、ごめん。いつもの調子で歩いてたよ。それにしても女の子になる呪いだったなんてね……」


「まったく最悪だぜ、昨日寝るまではなんとも無かったのによ、朝起きたらコレだからな」


「そうだね、随分と可愛くなっちゃって……」


「可愛いとか言うな!気持ちわりぃだろ!」


「ごめんごめん、でもほら、僕より頭一つ分も小さいんだよ?」


 そう言ってレオはフレデリクの頭をポンポンと触る。

 明らかに男の、昨日までのボサボサの髪質ではない、上等な絹のような手触りに驚く。

 女の子になった事でここまで髪質が変わるなんて、これも呪いの影響だろうか、と。


「頭触んな!……昨日までは俺の方が背が高かったのにレオに見おろされるなんてな」


「前だって殆ど変わらなかったじゃないか、それより大丈夫?勢いで出てきちゃったけど、そんな身体で旅なんて続けられるかな」


「はッ!大丈夫だろ、身体は小さくなっても俺は俺だし、昨日の成人の儀式で授かった白の加護【身体強化】のスキルもあるし、それにレオと一緒だしな」


「そうだね、フレデリクなら女の子のままでも強そうだ、一応僕も剣は使えるし、赤の加護【火炎】もあるしね」


「そういうこった!早く森を抜けて隣村まで行こうぜ!」


「森には魔物も多いらしいから気を付けてね」


「分かってるって!気配を感じるのは得意だから任せとけ!」


◇◆◇


 フレデリクは不安だった。

 身体は小さく、力も弱くなっていて、昨日までとは比べるべくもないほどに弱くなっている事は自分がよく分かっていた。

 しかしレオの前でそんな弱気は見せられない、みっともない真似は出来ない。ここでそんな態度を見せたらレオはきっと心配して村に戻ろうと言い出す事は予想出来た。

 心配されるだけならまだ良い、弱い俺を見てレオを見限るんじゃないか、そんな恐怖さえ感じていた。

 実際に剣を振るえればきっとなんとかなる、身体は動きを覚えている、そのはずだ、そんな気持ちも確かにあった。

 だからここは強気に行くしか無い、そうフレデリクは結論づけた。


 レオは親友だ、それもフレデリクにとっては過ぎた、眩しいほどに輝きを放つ存在だと思っている。

 フレデリクとの剣の腕に大きく差がついた時、他の友人は勝負を挑んでこなくなった、しかしレオだけは違った、必死に追いつこうと努力し、勝負を挑み続けた。

 レオはみるみる内に実力を付けて、同年代で2番手となった。そして今でもフレデリクに追いつこうと必死になっている、そんな姿がフレデリクには眩しく見えた。

 フレデリクはそんなレオを買っていて、もっと強くなれると信じていた。自分を上回る事さえも出来ると。

 そしてそんなレオがいたからこそフレデリクはもっと強くなろうと努力できた。

 レオが側に居てくれれば、俺たちはもっと強くなれる、そう思っていた。



 レオは安心していた。フレデリクが女の子になって落ち込んでいるんじゃないかと思っていたけど、変わらないようで、それでこそフレデリクだと。


 レオはフレデリクを親友と思っていたが、それと同時に憧れでもあった。

 自分には無い、剣の才能、そしてその心の強さと負けん気、自分だったら女の子になった事に落ち込んでしまって家を出る事すらしなかっただろう。


 レオはフレデリクに追いつきたくて必死に頑張ってきたのだ。

 同年代でフレデリクに次いで2番手と言ってもその差は大きく、手が届かない遥か高みに思えた。

 だから成人の儀式で赤の加護【火炎】が発現した事は嬉しかった。

 フレデリクとの差別化が出来て、強いスキル。これで横に並べなくても後ろをついていける、と。



 これはそんな男同士の硬い絆で結ばれた2人が、呪いを受けて男と女になり、幾多の困難を乗り越えていく物語。


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