放送部員の日常

マナ

第1話 静かな朝

 朝。両親の都合で家を出るのが早い。必然的に、誰もいない教室で1人ポツンとしていることが多い。たまーに、運動部の朝練の人が私より早く来ているけど、それも珍しい。大体は私が先に居て、運動部の人達が朝練に向かって、段々と人がやってくる感じ。


 私は、この教室に1人しかいない時間が結構好きだったりする。


 昼の放送の原稿を作ったり、授業の予習をしたり、忘れていた宿題をやったり、やろうと思えば色々できる。黒板が汚い時は朝から掃除していたり。人がいる時は気が引ける黒板消しクリーナーも気にせず使える。めちゃくちゃうるさいけど。


「はよ」

「おはよ~。朝練?」

「ん。ねみぃわ」


 原稿を書いていたら、隣の席の雄大が来た。私の学校は男女問わずバレー部が有名。彼がどうかは知らないが、けっこうハードな練習をしているらしい。顧問の先生、厳しそうだもんね。


 ボストンバッグから教科書やらを机に移動させているらしい音を聞きながら、紙にペンを走らせる。もうすぐ運動部の大会があるから、部長インタビューあるんだよなぁ。絶対噛む気がする。噛んだら撮り直しって言うのもプレッシャーだよね。順番でやってるから仕方がないけれど。


「おい」

「へい」

「返す」


 顔の前にノートが数冊差し出された。


「もう授業中寝るなよ~」

「は? 寝てないから。アレ、瞑想だし」

「どのみち授業中にやることじゃないですね」


 男子バレー部は部活のハードさ故か、授業中に堂々と寝る。最初は「大変だな」って思ってたんだけど、回数が多すぎて流石に呆れるよね。気づいたときに起こしてるんだけど、寝ぼけながらだからノートが取れないそうな。だから、たまにこうやってノートを貸してあげている。


「朝練いってくる」

「いってら~」


 のそのそと体育館へ向かう背中を見送り、受け取ったノートを確認する。たまに雄大のノートが返却されることがあるのだ。1回あったんだよね。


 科目と名前を確認していくと、ノートの中に何か挟まっている。開いてみたら、板チョコだった。しかも、そこそこお高いメーカーのヤツ。両面見ても、特に何も書かれてない。多分、自分用のおやつが間違って挟まったんでしょう。


「今日は雄大からチョコ強請られることはないな」


  ちょっとお高めの板チョコを雄大の机の中へ戻す。私がお菓子袋を持参しているせいで、食べる時に横からでっかい手が伸びてくるのだ。さながら、餌付けである。雄大だけじゃなくて、他の男子バレー部も同じことをするから、お菓子をくれるクラスメイトとして認識されている気がする。

 お菓子代が高くつくので止めてもらいたい。


「久米ちゃん相変わらず早いね~」

「おはよ~」


 ぱらぱらとクラスメイト達が登校してきた。HR15分前にもなれば、ほとんどの生徒がクラス内にいるし、朝練を終えた生徒も戻ってくる。雄大が戻ってきたときには、私は同じ放送部員に囲まれて昼の放送について話ていた。


「今回のインタビューって陸上部だっけ」

「部長ってどんな先輩だっけ」

「陸上部にしては珍しい丸坊主だった気がする」

「野球部に紛れてるあの先輩か」


 話に花を咲かせていると、いきなり側頭部に衝撃が入った。


「いった!? なに? 雄大?!!」


 お高めの箱入りチョコで叩かれたらしい。本人はブスっとした表情で見降ろされている。流石のバレー部。背が高い。


「お前の」

「は?」

「コレ、お前のだから」


 そういってグイっと胸元にチョコを押し付けられた。困惑する私を放置して、雄大は自分の席に戻っていった。私の周りにいる放送部は何やらヒソヒソと話している。ちょっと、そのにやけ面はなんだ。絶対君達が考えていることはあり得ないぞ。

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