第2話
「ねぇねぇ、メリルちゃん超可愛くない?」
そう気安く僕の頭に肘を乗せて話すのは一年前に孤児院に来た冒険者のゼロお姉さん。
日本人なのにどうしてゼロなのかというと冒険者仲間にはそう呼ばれていたらしいから。
それとダンジョンが出現してからは海外の人たちが多く日本に来たこともあり、ほとんどの人が外国人の血を持っていた。
実際にうちの孤児院にもメリルとかファンクとかボルノとかいるし雷兎っていう僕の名前が日本なのに珍しいぐらいだ。
「ねぇーぇぇえ?お姉ちゃんの質問は無視ぃ?」
どうやらこのお姉さんはこの孤児院に支援をしに来たらしく食糧を恵んでくれている。
それと剣も少し教わっている。
「うへへ…みた!?耳かけしてたよぐぅかわっ」
超可愛い〜と僕の頭をバシバシと叩くその姿は全然冒険者じゃない。
「叩かないでよ…もう…」
「あれ?怒った?怒っちゃった?かわいいなぁライトきゅんもぉ…!」
抱きついてくるこのお姉さんと僕はだいぶ仲良く?なった。
孤児院で唯一このお姉さんに関心がなかった僕はすごく目立っていたらしく何かとちょっかいをかけられることが多かった。
木剣を振ってる時にカンチョーされたり、トイレを覗き見されたり、英雄譚という名の『お姉さん冒険者界ではモテモテ』とかいう訳のわからない話を聞かされたり、犬のフンを飛ばされたり……
「…仲良くない…」
酷い目に何度もあってるけどなんでかほっとけないお姉さん。
「ちょっちトイレ〜」
そして女性らしさのかけらもない。
お腹だして寝るしお尻掻くし、変な笑い方するし。
そんなゼロお姉さんだけどたまに良い話を聞かせてくれる。
それは
ーーー英雄のお話ーーー
世界にはね?たぁっくさん強い人がいるんだぁ。
その人たちは強くなろうと毎日もがいて足掻いて手を伸ばして…いっぱい努力をして…いっぱい修羅場を潜って、そうして掴んだ強さなの。
だけどそれを手にできるのはほんの一握り。
でもね?この人たちはただ強いだけ。
本当の強さじゃないの。
真に強いのはね?
ーーーー英雄だけなんだーーーー
英雄は心で勝つ
何者にも負けない
逆境を喰らう者
恐怖を前に立てる人はいる?
どれくらいいる?
じゃあ向かって行けるものは?
どれくらいいる?
腹を貫かれて…大怪我負って、笑える?
獰猛な笑顔で魔物を殺せる?
自らの我儘で強大を翻弄できる?
雷兎君が話してくれた絵本、私も読んだことがあるよ。
でもね、あれは英雄なんかじゃない。
ただの強いだけの人だよ。
あれぐらいなら上手く努力すれば辿り着けるの。
世界はね、すごく広くて、色んな人がいて、みんな強くなろうとしてる。
だけど英雄にはなれない。
『英雄』は【五大クエスト】に立ち向かえるぐらい強い人じゃなきゃだめなの。
私の知ってる英雄はね、大地を裂いたり、太陽のような熱を生み出したり、雷を降らせたり山を砕けるの。
それに絶対に歪まない魂がある。
キミは…世界に魂の証明をできるかな?
この話は…僕の心に深く刺さった。
信じ難い話だし憧れを侮辱されたような気がして腹が立ったけど…真剣にこの話をするゼロお姉さんはどこか大人びていて雰囲気がいつもと違った。
魂の証明
それが何かはわからないけど…すごく引っかかる言葉だったのをよく覚えている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は今日で14歳になる。
孤児院のみんなからおめでとうを言われるだけの普段と変わらない日常。
いつも通り剣を振るし、ゼロお姉さんは隣でイビキをかいて寝てるしメリルはその横で木剣を振る。
木剣を振る。
誰が?
メリルが。
「なんで!?」
「…どうしたの?」
「いやいや!テニスは!?え!?いつから剣を振ってるの!?」
知らない間に僕の隣で木剣を振っているメリル。
しかもあれ。
目がおかしいのかな。
普通に綺麗な素振りをしている。
「さてはこのニートだな!?」
脇とお腹をだして寝ているぐーたら女を見て雷兎は頬を赤く染めて目を逸らした。
思春期には目の毒すぎる彼女は超美人だった。
昔は全く感じなかったのに最近はこの美顔がすごいということに気づいた。
なかなかお目にかかれない別嬪さんなのだ。
(邪念を斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!)
今日は特別な日なんだ!
少しでも良い結果になるように…これだけに身を捧げる…!
子どもは14歳の誕生日から『恩恵』を得ることができる。
といっても急に魔法が使えるようになったりマッチョになれたり剣の達人になれるとかではなく。
ーーー努力で掴む恩恵ーーーー
を得ることができる。
いつ起こるのか、それは誰にもわからない。
ただ、一つだけ確かなことは、魂の証明をすること。
「ふわぁ…ぁ…今日かららいとくんも恩恵持ちだね!これから精霊碑に名前が載るように頑張ろうね!」
精霊碑とは
『英雄』の名が刻まれる石である。
世界全ての英雄の名が刻まれる石碑。
もちろんだがその中に僕らの名前はない。
これから紡いでいくから何も問題はないけれど…
「なんでメリルが剣を振ってるの!?」
「えぇーいいじゃんべっつにぃ…?」
「そうだよ。そんなこと言ってると追い抜いちゃうよ…?」
それだけは気になってしょうがなかったが絶対に負けたくないから木剣に集中した。
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