ダンジョン英雄譚〜ランクがある現代で全てを置き去りに駆け抜ける〜
モナリザの後頭部
第1話
まだ幼い頃
貧しい家に生まれた僕は食料も碌に与えられず痩せ細り、子どもながらにして人生に…世界に絶望していた。
しかし両親は優しかった。
「ごめんね…!もっと食べさせてあげたいのに…ごめんね…!」
謝るお母さんの姿をおぼろげながら覚えている。
それとお父さんも。
「すまねぇ…!やっぱ…ダンジョンだ!ダンジョンに行くしかねぇ!」
そう言ったお父さんがそれっきりだったこともよく覚えている。
それからすぐにお母さんもいなくなったんだ。
しかし僕は悲しくなかった。
ダンジョンっていうところに行けばまた会えると思っていたから。
だけど僕は路頭を彷徨い…孤児院に拾われた。
そこはすごく温かいところで、何かできるようになればみんなが褒めてくれた。
新しい発見をしたらみんなが喜んでくれた。
それがどうしてか嬉しかった僕は、いいところを見せようと色んなことを頑張った。
ーーー周囲から認められることーーー
それが幼い僕の原動力となった。
しかし、当時僕にはライバルがいた。
金色の髪と青い大きな目を持ち、いつも輪の中心にいた女の子だ。
周囲からは『天才』と呼ばれていた。
その意味はよくわからなかったけれど僕より褒められていることはなんとなくわかってとても悔しかったんだ。
どうして僕のことはそう呼んでくれないのか。
何が違うのかわからなかった。
なんでもいいから女の子よりもみんなに褒めてもらいたかった。
そしてその晩、僕はシスターに聞いた。
「てんさいってなに?なんでぼくはそうじゃないの…ぼくはてんさいにはなれないの…」
それにはシスターも苦笑いしていたけれど僕に道標をくれた。
「天才にはなれないけどね…雷兎君は『英雄』になれるよ」
『英雄』
それは逆境や困難を退ける強き者のこと
そして絵本を読んでもらった。
それは英雄譚。
人が竜を倒す物語
大きな剣で自らの背丈の数倍ある竜を倒してしまうのだ。
これが英雄なんだと幼い僕は初めて目を輝かせた。
絶望した人生に一筋の光が差し込んだ。
彼女が『天才』なら僕は『英雄』だと。
「えいゆう!!えいゆうになる!!」
それからは木の枝を握って毎日振り回した。
褒められることなんて忘れて…ひたすらに枝や棒を振った。
今から剣の練習をすれば僕も絵本の英雄みたいになれると信じたんだ。
そして拾われてから四年が経ち、小学3年生になった頃、僕の握る棒は不恰好ではあるが剣の形に寄せたもの、木剣になっていた。
学校から帰ったら夜まで素振りをして就寝時には英雄の絵本を読む。
「ぼくも……こんなふうに…」
ある日のこと。
孤児院の広場には人だかりができ、その中心には1人の女の子がいた。
「すごいね!メリルちゃん!」
「やっぱり天才だわ!」
金色の髪と青い目をした女の子、メリルがいた。
なんでも、テニスの全国大会で優勝したらしくその手にはメダルとトロフィーを持っていた。
「………」
メリルから視界を外して無心で木刀を振る。
綺麗に丁寧に、淀みがないように。
「ねぇ、何してるの?」
不意に後ろから声をかけられた僕はギョッとした。振り返るとメリルがいた。いつも輪の中心にいる子が、こんな端っこまで来たのだ。
なんで僕なんかに話しかけてきたのかわからなかった。それに四年も同じところで暮らしているのに初めて話しかけられたから言葉をうまく返せなかったんだ。
「聞いてるの?銀髪の君」
「け…剣を…振ってたんだ」
綺麗な瞳に真っ直ぐに見つめられ、どもった返事をしてしまったがそれも仕方がなかった。普段女の子と話すことなんてないんだから。
頬が赤くなっていくのがわかった。
そして少し間があって…次の質問が来た。
「ふぅん…剣って……楽しい?」
そんなの決まってる。
これは僕の英雄への手段。
迷いなどかけらもなく、僕は満面の笑みで応えた。
ーーー楽しいよーーー
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
少し時が経ち、孤児院が賑わった。
冒険者が来たからだ。
『冒険者』
それは英雄が誕生する職業
僕がなるべき職業。
英雄譚以外にも冒険者の絵本はいっぱい読んだ。
ダンジョンを攻略する話
お宝を探索する話
魔物と激闘をする話
どんな冒険者がきたのか。
僕はこの日だけ木刀を振ることなくその冒険者に興味津々でその人を探した。
大きくて力強い見た目だろうか。
それとも魔法使いのようにローブを羽織って杖を持っているのか。
期待に胸を膨らませようやく見つけた冒険者は…ボロボロの服と錆びた剣を腰に刺した女性で、とてもじゃないが魔物を倒せるような人には見えず僕はとてもがっかりしたんだ。
外の世界の話を、色々な冒険の話を聞きたかったけど、いつもの場所に戻って木剣を振った。
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