第2話 3日目 水原(スォン)城郭巡り

トラベル小説


 3日目は、バスで水原(スォン)に行くことにした。李氏朝鮮時代の巨大城郭である水原華城(スォンハソン)の城郭を1周する。

 李氏朝鮮22代の正祖(チョンジョ)が1790年ごろに築いた城である。有名な韓国ドラマ「イ・サン」の主役だ。

 バスはソウルの江南(カンナム)のバス停から乗り、南大門である八達門へついた。1時間半も乗ったのに料金は300円弱。韓国の交通費は安い。

 八達門はなかなかの巨大な門である。ソウルの南大門より少し小さい程度だ。今は修理中らしくて中には入れなかった。町の方へ歩いて、城郭入り口から城歩き開始だ。最初は急な階段上り。100段以上はあるだろう。まずは100段登って一休み。それを何回繰り返しただろうか。最後は段数を数えられなくなった。1周すると5kmあるとのこと。ガイドブックによると4時間かかると書いてある。

 山の上の道になって、尾根歩きとなった。そこに鐘つき堂があった。これで街全体に時を知らせたらしい。次は西将台だ。見晴らしがいいところだ。おそらくここから旗やのろしで知らせたのだろう。そこを過ぎると下りの階段が始まる。登りよりは斜度がゆるやかで、城郭の多くがのぞめる。ところどころに望楼があり、画になる。戦争で破壊されたので、現在の城郭は1997年に復元されたものである。「イ・サン」ブームもあり、観光客むけに整備されたのだろう。

 華西門を過ぎて、北大門である長安門に着いた。ここは中にも入れる。中には李氏朝鮮時代の兵士の姿をした人が立っていた。黒ぶちメガネをしていたので、学生のアルバイトであろう。

 その後、城郭のハイライトである華虹門(ファフォンムン)に着いた。天気がいいと水門から虹がでるということだった。7つのアーチの橋脚がきれいだ。木村くんは自分を入れた写真を撮りたいということで、私にカメラを寄こした。女性の被写体ならともかく木村くんでは画にならないと思った。

 昼時になったので、近くの水原カルビの店に入った。水原カルビは骨付き味付けカルビで有名だ。もちろん韓国牛だ。すわるとすぐにパンチャンといわれる小鉢料理がテーブルいっぱいにならぶ。数種類のキムチをはじめ、ナムルやチヂミそれにケジャンといわれる蟹料理まである。

「すっげー! 韓国料理おそるべしですね」

と木村くんは驚いている。わたしは、食べ放題だと知っているので、

「ためしに一皿食べきってごらん」

と言うと、木村くんはもやしのナムルを食べきった。すると、お店のスタッフが素早くやってきて、新しいナムルをその皿にもったのである。まるで盛岡のわんこそばみたいだ。木村くんは目を丸くしている。

「本当に食べ放題なんですね」

と感心していた。小鉢料理を食べているうちに、カルビが焼けた。味付けカルビなので口の中で肉のうまみが広がる。

「この前のトンモクサルと比べてどう?」

「そうですね。向こうが焼肉の革命児という感じで、こっちは王様かな。という感じかな。安心して食べられる味ですね」

「うまいこというね。その骨がついているところをしゃぶって食べてごらん。ここが他の焼肉と違うところだから」

と私が言うと、木村くんは骨をしゃぶり始めた。まるで山賊の雰囲気だ。

 午後の部開始だ。ビールを飲んだので少し足元がふらついている。でも城壁はほぼ平らなので、歩くのはつらくない。東将台というところに着いた。ここは練兵場だ。草原が広がっている。ここで兵士の訓練をしたのであろう。弓矢体験をするところもある。遠くには気球があがっている。上から城郭を見渡すのも一興かもしれない。

 城壁の途中にのろし台があった。大きなのろし台で、3本立っている。こののろしの本数で敵の位置を知らせるらしい。1本なら国境、2本なら隣町、3本なら町に接近ということらしい。それを見て城壁に散っている兵士が守りを固めるのである。

 そしてゴールの八達門に到着。城郭内の中央にある華城行宮に行こうかと思っていたが、疲れていたし、世界遺産の昌徳宮に行きたかったし、今日は夜行バスで順天と麗水に行く。歩くのはここまでとした。

 帰り道、地下鉄安国(アングク)駅から昌徳宮へ行く。すでに入城時間は過ぎていた。でも、正門である敦化門(トンファムン)は見事だ。1412年の建立といわれるから、700年前の建物である。日本でいうと、室町時代だ。鳥よけのネットは興ざめだが、歴史を感じさせる建物であることには変わりない。それ以上に夕景色がはえる秋の景色が見事だ。黄色のイチョウの木が陽をあびて黄金に輝いている。見事な景色だった。

 ホテルに戻り、シャワーと着替えをして、バスターミナルへ向かう。夜10時の順天(スンチョン)行きに乗る。バスは優等バスと言われる3列シートのバスだ。シートが大き目でリクライニングできるので、仮眠はできる。木村くんは走りだすとすぐに眠りに入った。

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