短編記集

@AKIHABARA

イシャンゴの骨

イシャンゴの骨というのがあった

イシャンゴという丘で見つかった ヒヒの腓骨 足の屋台骨

生き物は骨を埋めて未来に遺すのがブームらしい

最近じゃ みんな重力を感じたくなくて 身辺を空白に保っているから

「   」

何千年か前に死んだヒヒ。

ヒヒの骨に刻まれた 何本かの線


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数の記録 ないし 何かの記録・メッセージ

あまり読み解くなよ

アーカイブスというセンが みんな持っているイメージ。

昔の人が怖くてトイレに行った回数…とかだったら 恥ずかしいだろ

屠畜・家畜・群体の記録・何かの記憶

やめてください どうか

      

                週末(雨)。親戚の人と博物館に行きました。



 僕は従姉に逆らえない。どれぐらいあるか分からない残りの人生すべて、彼女のモノになってしまった。


「私だって書いたことぐらいあるわ。…まあ、ハプニングが起きるような場所に隠す程、コドモじゃなかったってだけ。単に成長速度の違いね。それが君との違い」


 今だけのこと、君も大人になったら――と、一番言われたくなかった言葉が続く。人生経験の差。そんなモノを持ち出されたらボクは子供で、どうしようもない。従姉にとって、僕は永遠に10歳年下のオトコノコだから。

 僕は僕の事を子供だなんて思っていなかった。クラスの同級生はみんな弱い。大人の何分の一という知能のくせに、休み時間にはよってたかって嫌いな先生の陰口を叩く。僕は教師を哀れんだ。猿を自分たちヒトの仲間に加えなきゃならない大人たちの義務活動は、ご苦労様です、というのが率直な感想。僕は一緒に見られるのが嫌で、群れを離れ、図書室で休み時間を過ごした。本を読めば読んだ分だけ、自分の脳みそを背丈が追い越していく気がしたんだ。

 でも従姉は そうじゃなかった。


「――ずるい」


 やめろ。それは子供のセリフだ。

 目頭に熱いものを感じる。従姉の優しい視線に押し潰される。


 僕は溢れそうになった色んなものを喉の空洞に押し込む。次は昆虫の写真付きノートとかいう安物じゃなく…そうだ骨だ、従姉の腓骨にしよう。こんな些事で僕が僕の物語を止めるなんて悔しいじゃないか。

 やりすぎたと笑って頭を撫でてくる従姉。今だけはそれに甘んじてやる。だけど今度は、僕が彼女の隙を突いて――そう寝ているうちに――カッターかハサミで皮膚を切り腓骨を引き抜き、黒歴史を彫り込んでやるんだ。朝が来る前にパックリ裂けたふくらはぎの穴に戻しておくことで、有給休暇を終えた従姉が何事も知らぬまま東京に帰っていく。

 それでいつか彼女が火葬されて、お骨を納める時。幽霊になった彼女が記憶のないタトゥーに気付いて赤っ恥を掻く。従姉さんは子供に戻って。

 そして、ヒヒが従姉の背中を叩く。

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