第43話  エピローグ

「ヴィル、もっと動け!」

「ほら頑張らないと結婚できないぞ」

「何やってるんだ、お前死ぬ気でやらないと旦那様に認めてもらえないぞ」


 公爵家の騎士達から毎日怒号なのか応援なのかわからない言葉を受けてヴィルは毎日厳しい鍛錬をしてから……挑戦している。


「クリスティーナにプロポーズしたいならこの騎士団の十人を倒してから言いにこい」


 そう言われて毎日騎士達と闘い続けている。


 でも十人を倒すのはかなり難しい。

 だってここの公爵家の騎士達はかなり優秀な者達ばかりの精鋭で国1番の騎士団なのだ。


 一人一人がかなり強い。いや、半端なく強いらしい。


『このくらい倒せなければクリスティーナを守れるわけがない』


 それからのヴィーは休むこともなく毎日挑み続けている。


 わたしはその間、サラに頼みお料理を教わっている。


 料理長達のような豪華な料理ではなく家庭的な料理を。



 スープの作り方や、パンの焼き方、お肉の焼き方、お魚の捌き方、毎日が失敗の繰り返し。


 一人で野菜を作り簡単な料理を団長達に習って作っていたものは料理とは言わないと今頃になって気がついた。


 ただ焼いて塩を振って食べていた。

 野菜は生で食べられそうなものはそのまま、あとは何でもスープに入れて食べていた。


 あとは団長達が差し入れてくれたものを食べていたのでまともな料理はしたことがなかった。


 包丁を使うことができたこと、火も使い慣れていたこと。これくらいが唯一わたしが出来たこと。そのおかげで失敗ばかりだった料理もそれなりに上達していった。


「クリスティーナ様、上手にパンが焼けましたね」


「うん、お父様に持って行ってもいいかしら?」


「喜ばれると思いますよ」


 料理を作ったらお父様やお母様に食べてもらっている。

 少し焦げたお肉も、膨らみが悪かったパンも美味しいと言って食べてくれた。最近は成功することが多いので、安心して出すことが出来る。


「お父様、パンが焼けました。あとクリームスープも作ったんですけど食べていただけますか?」


「もちろんだ、一緒に食べよう」


 お父様の執務室にあるテーブルと椅子にわたしの料理を並べた。もちろん足りない分は料理長の美味しいおかずも置かれている。


「クリスティーナ、そろそろ2ヶ月経つがどう思う?」


「わたしはずっとヴィルのことを想い続けたんですよ?二月くらい全然。いくらでも待てます」

 にこりと微笑むとお父様が苦笑した。


「そうか……わたしはクリスティーナが幸せならそれでいい。ただ出来たらこの屋敷の中に離れを建てたいと思っている。

 離れに対して嫌な思いがあるのなら屋敷をもう一つ建ててもいい。どちらがいい?」


「お父様……それは?」


「どうせヴィルはいつかやり遂げてしまうだろう?わたしがいくら反対してもな。だったら遠くに嫁に行かれるよりアニタの弟のヴィルに嫁にやれば近くに住んでもらえるからな」


「お父様、認めてくれるのですか?」


「ヴィルが約束を守ったら、その時はまぁ仕方がないからな。ただし俺の見える範囲に住んでもらう。これだけは条件だ。

 クリスティーナは元王女で公爵令嬢だから事件に巻き込まれることも多い。この公爵家の敷地の中なら安心して暮らせるからな」


「クリスティーナが嫁ぐのがとっても寂しくて仕方がないのよ。お父様の我儘も聞いてあげてちょうだい」

 お母様が困った顔で言うので


「二人の近くにいられて嬉しいです。でもいずれパトリックがここを継いだ時お邪魔ではないですか?」


「我が家の財産はかなり有るの。それぞれに結婚した時に財産分けをするのよ、クリスティーナの取り分として屋敷を建てようと離れを建てようとパトリックが何か言うことは出来ないわ。もちろんパトリックも賛成しているから問題はないけど」


「でしたら嬉しいです。ずっと一人暮らしだったので家族が近くにいる生活に憧れていたので、会いに来れるのは嬉しいです」


「会いにも来れるけど、多分この人孫でも生まれたら毎日そちらに遊びに行くのではないかしら?」


「孫?」思わず驚いた。


「わたしは孫などまだ要らない。クリスティーナ、そんなに急いで結婚はしなくてもいいからな」


「はい」わたしは微笑んだ。







 ヴィルが約束の十人を倒すのに半年以上かかった。だけど約束を果たしたのでお父様は仕方なく

「許可はする。しかしクリスティーナが嫌だと言ったら諦めろ」

 とヴィルに強い口調で言っていた。


「いいか、クリスティーナに無理強いはするな!」




 そして、ヴィルの休日に二人で植物園に出かけた日。


 静かな植物園の中の薔薇の庭園をヴィルは貸し切っていた。


「クリスティーナ様、貴女を愛しています。結婚してください」


 シンプルなプロポーズの言葉。


 だけど一番欲しかった言葉。


「はい」


 わたしはヴィルの胸に飛び込んだ。


 ずっとずっとヴィルだけを見てきた。


 ヴィルだけを愛してた。






 それからすぐに結婚許可を国に申請して受理され、わたしはヴィルと結婚した。


 両親と弟達、そして団長やサム、公爵家の騎士や使用人達に囲まれてアットホームな結婚式を挙げた。


 ドレスはお母様が着たものを手直しして着ることになった。


 そしてその日は

 “結婚式の日は雨は降らないからね”とアクアが言ってくれたおかげで、公爵家の広い庭園でパーティーが行われた。


 パーティー用の食事も公爵家の使用人達で手作りしてその日一日は無礼講でわいわい賑やかに過ごした。



 ただ、最後、パーティーが終わる時アクアが


 “クリスティーナ、結婚おめでとう!!

 幸せになってね”


 と言って気持ちいい優しい雨を降らした。


 そして

 “大サービス!!”


 と言って大きな虹を作ってくれた。


 みんなの歓声があがった。








 わたしの離れの家は小さいけど家族で暮らすにはちょうどいい。


 赤い屋根の白い壁の二階建て。


 屋根裏部屋もあって、両親が泊まりに来ることができるように部屋数だけはしっかりとある。お父様が自分達のためにこだわったらしい。


 ヴィルは必ず「行ってきます」と「ただいま」の時にキスをしてくれる。


 そしてお腹の赤ちゃんにも必ず話しかけてくれる。

「お父様、行ってくるからね」

「帰ってきたよ」

 お腹をそっと優しく触りながら話しかけてくれる。





「ティーナ、そんな大きなお腹で畑仕事はしないでくれ」


「ヴィル、赤ちゃんのためにも動いたほうがいいんだって」


「そうなのか?俺は心配でたまらないよ」


「ヴィルによく似た元気な赤ちゃんを産むから心配しないでね」


「俺はティーナが元気で笑っていてくれたらそれでいいんだ。ずっと君の笑顔を俺が作ってあげられることが幸せなんだ、ティーナ、ずっとずっと愛している」


「ヴィー、わたしも愛しているわ」









 ーーーーーーーー

 


 お母様(セリーヌ)とはたまに手紙で連絡はとっている。だけど陛下と会うことは二度とないと思っていた。



 わたしは母になってやっと少しだけ陛下にいつか向き合える時が来るかもしれないと思えるようになった。


 いつか二人にもこの可愛い娘の顔を見せてあげたい。


 そんな日が来るのはまだ先のことだけど。







 読んでいただきありがとうございました。



       たろ

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家族に冷遇された姫は一人の騎士に愛を捧げる。貴方を愛してもいいですか? はな @taro0314

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