第23話 人を愛するとは。
“ティーナ、会わせたい人がいる”
ーー会わせたい人?誰?
“今から行こう”
ーー今はダメだよ。お父様達に心配をかけたから謝りに行かなきゃ。
“じゃあ明日ならいい?”
ーーうんみんなに挨拶してからだったら……
「ふうー」
一人になってやっと一息つけた。
ヴィーの前で頑張って強気で話してみた。わたしがこの屋敷にいればまたみんなに迷惑をかける。
それにヴィーにも幸せになって欲しい。
だからここを出て行こうと思う。
そのためにもあともう少し我儘で強気な態度を取らないと。だけどちょっと疲れたわ。
宰相のことを思い出すと怖くなった。陛下のあの冷たい態度も。わたしのことを娘だとすら思わないのだろう。
お母様のことを思い出そうとすると頭が痛くなる。でもわたしは嫌なことから逃げて大切なことを忘れているんだと思う。
だけど考えても思い出せない。
色んなことがあり過ぎて胸がギュッと痛くなる。
「さあ、お父様達のところへ行かなくっちゃ」
気持ちを切り替えて部屋を出た。
廊下に敷かれた高級な絨毯、壁紙の模様も少しずつ変えてあるので同じように見えても目印になり迷子にならないで済む。
これはわたしのために公爵家が住みやすいようにとしてくれた心遣い。
大切にしてくださったのに。
「失礼します」
お父様は忙しそうに仕事をしていた。机にはたくさんの書類が山積みになっていた。
「クリスティーナ、ソファに座っていてくれ。すぐに終わるから」
わたしは大きなソファにちょこんと座るとお父様を見ていた。
さっき陛下に冷たい視線を向けられたばかりだったのでお父様に会うのが怖かった。
だけどお父様はとても優しい笑顔でわたしを迎えてくれた。実の父には見向きもしてもらえないのに、お父様はとても優しい。ーーこんなわたしに。
何もない、何も出来ない、迷惑ばかりかけている娘なのに。
お父様の顔をじっと見ていたら
「クリスティーナ?どうした?何かついているのかい?」
お父様が自分の顔を触りながら聞いてきた。
「あっ……ごめんなさい……お父様がお忙しそうにされていたから……お時間を取らせてごめんなさい」
「謝るところが違うだろう?心配したんだよ。五日間も居なくなったんだからね?」
「…………アクアの住むところに行ったら……時間の経過がこちらの世界とは違っていて…」
「うん、ヴィルから報告は全て受けている。君が酷いことを言われたことはこちらの所為だ。配慮が足りなかった」
「いえわたしが知らな過ぎたんです。ヴィルのことも束縛していたんだと思います。母の死の真相も疑いもせず病死だと思っていました……わたしは…守られていたんだと……」
唇をギュッと噛んで涙を止めた。こんなことで泣いちゃダメ。いろんなことを思い出す。宰相のことも陛下のことも思い出すと辛くなる。わたしにはなく資格なんてない。
守ってもらっていたのにまた勝手に城に戻ってしまったんですもの。危険な目に遭ったのは自業自得なんだから。
「お父様……わたしこの屋敷を出ようと思っています」
「なぜ?そんなにここは居づらかったのかい?」
「皆さんには良くしていただきました。だけど……アクアと暮らそうと思っています」
「アクア様と?妖精の国へ行くのかい?」
「はい、それが一番いいのだと思っています」
「君の人生は辛い日々だった。だけどわたし達は君を幸せにしたいと思っているんだ…」
「ありがとうございます。ここでの暮らしはとても良い幸せなものでした。だけど…わたしのいるべき場所では有りませんでした」
「どうしてそう思うのだい?」
ーー言わなきゃ、酷い言葉を。
「本当の家族ではないから。わたしの家族はアクアだけだったんだとここに来てわかったんです」
「……君にとってわたし達は家族にはなり得なかったのかい?」
「すみませんよくしていただいたと思っています。でもやはり他人は他人でしかないのです」
良かった…傷ついた顔をしてはいない。
お父様はじっとわたしの目を見て「ふうー」と溜息を吐いて「わかった、無理やりこの屋敷に連れてきたのは私達だ。無理をさせたね」と言って「少し考えるとしよう」と言って話は終わった。
ーー緊張した。
人を傷つける言葉って自分にこんなに返ってくるものなのね。
とりあえずわたしは部屋に戻った。
あとはお母様に手紙を書いた。弟二人にも「ありがとう、楽しかったです」とだけ。
たくさん書こうと思ったけど、手が止まってしまう。
出て行く必要はないのかもしれない。逃げてどうするの?
だけどわたしがここにいればヴィーは……ううん、ただ、二人が幸せになる姿を近くで見るのが辛いだけ。
ーーさあ行こう。
“ティーナ行こう、会わせたい人がいるんだ”
ーーうん
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