第13話 初恋は実らないものなの。
公爵家にも慣れてきた頃、夏季休暇で帰ってきた弟達と仲良くなった。
二人とも側妃の義弟達とは違い、明るくて優しい。
わたしのことも「お姉様」と呼んでくれた。
「お姉様、一緒に馬に乗ってみませんか?」
「乗馬はしたことがないの」
「兄上はとても上手なんです。僕は始めたばかりなのでまだまだなんです」
2番目の弟はジョーン。
一つ年下の弟はパトリック。
ジョーンはすぐにわたしに懐いてくれた。
一緒に本を読んだり庭の散策をしたり、昼間の空いた時間に顔を出してわたしをいろんなことに誘ってくれる。
パトリックはお父様のお仕事の手伝いが忙しくあまり関わることはないけど、食事の時間には留学先での話を聞かせてくれる。
わたしがほとんど外の世界を知らないと言うと
「今度街へ買い物へ行ってみませんか?」と提案してくれた。
「お父様、行ってもよろしいですか?」
「そうだね、必ずパトリックから離れないようにするなら許可をしよう」
「父上、姉上は子供ではないのですよ?」
パトリックが苦笑する。
「あら、クリスティーナはこの屋敷の中で何度も迷子になったのよ」
「うっ……だってここのお屋敷はとても広いのですもの。アクアも意地悪だから教えてくれないんだもの」
“だってティーナ、迷子になってるのに自覚なくてぐるぐる同じところを行ったり来たりするんだもん。つい面白くて”
そして護衛にサムがついて来てくれた。
ヴィーは今日はお休みらしい。
パトリックの護衛も一緒にいるので安心して街を歩いた。
「ねえあのお店は何?」
「あれは屋台です。あそこにはパンにハムや卵を挟んだサンドイッチが売っています。そしてあそこには果物のジュース、そしてあちらには串焼き、そして向こうはホットドッグですね」
「すごい!買ってどこで食べるの?テーブルも椅子もないわ」
「歩きながら食べるんですよ、あとは公園のベンチに座ったりします」
「パトリックは食べたことがあるの?」
「僕はこの街ではありませんが、留学先では友人達と街へ行ったりカフェに行ったりします」
「友人………いいなぁ、わたしにはアクアだけ」
“僕もティーナだけ!”
ーーうん、人間では、なんでしょう?
“うん、ごめん。妖精の友達はいっぱいいる”
ーーわたしもいつか友達ができるかしら?
「姉上もこれから社交界デビューすればたくさんの令嬢達と知り合いになれます。その中で親しくしたいと思う人が現れると思います」
「うん、ありがとう」
それからパトリックとホットドッグを買って歩きながら食べた。
生まれて初めての食べ歩き。
なんだか心もふわふわして楽しかった。
小物を売っている雑貨屋さん、洋服屋さん、帽子屋さん、本屋さん、パトリックは嫌がることなく付き合ってくれた。
「お腹が空きませんか?今流行っていると言うパンケーキ屋さんへ行きましょう」
「パンケーキ!行きたいわ」
向かったお店は白と青を使った外壁がすぐに目に付いた。
「とっても可愛いお店ね」
「ここは女の子に人気があるんです。僕は流石に入ったことがないんですが姉上と一緒なら気兼ねなく入れます」
中も女の子達が好きそうな白い可愛らしい家具とレースのカーテンで、思わず店内を見回したくなる。
お皿やカップにも拘っているのがわかる。
可愛い花柄のお皿。
そしてパンケーキも花があしらわれていて食べるのが勿体ないくらい可愛く盛り付けされていた。
二人で中に入ると、確かに沢山の女の子達が席に座っていた。
でもよく見るとデート中の恋人同士も沢山いるようだ。
ーーいいなあ、わたしもヴィーと来てみたいな。
ま、ヴィーは大人だしこんな所にはついて来てくれないわよね。
パトリックと二人で話しながらパンケーキを食べていると、中に入ってきた恋人の二人組に目がいった。
ーーえっ?ヴィー?
ヴィーが女性の腰に手を置きエスコートしてお店の中に入ってきた。
わたしは目の前でヴィーが親しそうに話している姿も私服で髪を下ろしている姿も初めて見た。
いつも騎士服を着て髪をきっちり掻き上げて固めている、ヴィーしか知らない。
女性に優しく微笑みながら話す姿なんて見たことがなかった。
ヴィーはわたしの座っている席とは反対の席に案内された。
だからわたし達に気がつくことはなかった。
女性の手はヴィーの顔に触れていた。
ヴィーも嫌がることもなく笑っていた。
わたしの知らないヴィーがそこに居た。
美味しかったはずのパンケーキは全く味がしなかった。
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