第2話
「クリスティーナ、どこに行ったんだ?」
「ふん、どうせそんな遠くへは逃げられないはずさ」
王城にはたくさんの庭園が有る。
薔薇の庭園、側妃のそれぞれの名前の庭園、東の庭園、そしてセリーヌ庭園。
わたしのお母様の庭園。
わたしはセリーヌ庭園でお花の手入れをしていた。
義弟二人が邪魔をしにきた。
声が聞こえてきたので慌てて茂みに隠れた。
「クリスティーナが居ないんだったらこの花達踏んでやろうぜ」
「お前いいこと考えたな、アイツが泣く姿は面白いだろうな」
ーーなんて酷いことを。
わたしは隠れるのをやめて急いで二人の前に出て行った。
「やめて、花達には罪はないわ」
「ふん、やっと出てきた。罪はあるさ。お前がこの城に住んでいることさ」
「お父様に相手にもされないのになんでお前がここで平然と暮らしているんだ」
そう言って二人は花を踏んづけたり千切って去っていった。
ーー酷い。
せっかく手入れしたのに、花達が可哀想。
“あいつら頭から水を掛けようか?”
ーーやめて、いいの。またやり直すから。
“ティーナ、やられたらやり返すんだ!”
ーー彼らのお母様の庭をグシャグシャにするの?
“それは……”
ーー花達が可哀想だわ
わたしは折れた花を一本ずつ拾ってまだなんとか頑張って咲いている花を集めた。
「これは花瓶に活けてあげよう」
グシャグシャになった花達は悲しいけどそのまま捨てるのは悔やまれる。
一箇所に集めて花達には謝った。
ーーわたしのせいで酷いことされてごめんなさい。
“花の精霊が許すって!ティーナの所為じゃないって言ってる”
ーーううん、わたしの所為だよ。
わたしにはお母様が居ない。
病気で6歳の時に亡くなったらしい。
6歳までの記憶は曖昧で覚えている事と、わからない事がごちゃ混ぜでたまに頭が痛くなる。
無理して思い出そうとするとさらに頭が痛くなる。
だけどとても綺麗な人だったとまわりが教えてくれた。
絵姿を見るとわたしに似ているような気もする。とても優しい人に見えた。
王妃様だったお母様。さっきわたしを追いかけてきたのは二人の側妃のそれぞれの子供で義弟になる。
二人はそれぞれの宮で暮らしている。
お父様に愛されて、どちらかがいずれ立太子され国王となる。そしてもう一人はその国王を支えることになる。
だから二人は……甘やかされて育った。もうすぐ13歳になろうと言うのにわたしを虐めるために二人で楽しそうにやってくる。
15歳になったわたしはお母様と暮らした離れに今も住んでいる。
お母様が生きていた頃は使用人も沢山いて活気があったらしい。今はわたし一人なので気楽でいいのかもしれない。
毎日の食事?
もちろん使用人が運んではくれない。
だけど、わたしには味方がいる。
水の妖精のアクア。
アクアは高熱を出して記憶がなくなってしまったわたしのところにひょっこりと現れた。
熱から目が覚めて一人で離れにいるわたしの目の前に現れた妖精。
“クリスティーナ、僕がそばに居るから泣かないで”
とずっと話しかけてくれた。
目が覚めて一人で心細くて泣いていたと時に、目の前にキラキラした小さな可愛い羽の生えた男の子が一生懸命に話しかけてくれた。
“泣き止んだら素敵なものを見せてやるよ”
わたしはその言葉に「うん」と言って溢れてくる涙を必死で止めようとした。
“見てて”
そう言うと閉まった窓からスーッと出ていった。
ーーすごいぶつからなかった!
驚いて涙が止まったことも忘れて妖精の姿を目で追いかけた。
するとたくさんの雨を降らして……虹を作った。
“綺麗だろう?”
ーーうん。すごいね。妖精さんてかわいくてにじもつくれるなんて!
“可愛い?違う!かっこいいんだ!”
ーーごめんなさい
“僕は虹だけじゃなくて雨も自由に降らせるし世界中の水を操れるんだ”
ーーあやつる?
“うん、世界中の水を全部枯らすこともできるし大洪水を起こすこともできるんだぜ”
ーーダメ。みんながかなしむことはいけないことだもの
“この城の奴らの水は枯らした方がよさそうだけど?”
ーーだめだよ、どうしてそんないじわるするの?
“お前……覚えていないのか?”
ーーなにを?
キョトンとしていると妖精はため息をついた。
“ま、辛いことは忘れた方がいいのかもしれないな”
ーーつらいこと?
“いつか思い出したらその時は僕がまた虹を見せてやるよ、泣かないように”
ーーうん、わかった、ありがとう
今ならわかる。アクアはわたしが泣かないようにそう言ったと。
アクアがいてくれたからこの寂れた離れで暮らしていける。
食事はヴィーがこっそり運んでくれる。
ヴィーが来れない時はヴィーと同じ騎士のサムが持ってきてくれる。
それに団長のルーファスも時々会いにきてくれる。
みんな来る時は必ず何かを持ってきてくれる。
食事も服も物も……何もないわたし。
この三人がいなければわたしは死んでいただろう。
お母様の庭は離れの近くにある。だから普段は人が寄って来ない。
あの義弟二人さえ来なければ。
「また新しい苗をお願いしないと」
ため息を吐きながら土をいじっていると後ろから声が聞こえてきた。
「クリスティーナ様、またあのクソガキがやって来たのですか?」
「ヴィー、ダメよ。そんなこと言ったらもし聞かれたら貴方は不敬で捕まってしまうわ」
「今は誰もいません。クリスティーナ様、俺が代わりにやりますから」
「騎士服をカッコよく着たヴィーが土いじりなんてみっともないわ」
わたしがクスクス笑うと
「世界で一番可愛い姫が土いじりするなんてよっぽど見苦しいですし見ていて辛いです」
“ヴィー、お前わかってるな!ティーナは可愛くて美しくて優しいんだ!”
ーーアクアったら!
わたしが何もないはずのところに視線を向けて微笑んだのを見てヴィーがクスッと笑った。
「もしかしてアクア様がそこに居るのですか?」
「うん、ヴィーのこと褒めているわ」
わたしがそう言うとアクアがヴィーの真上に飛んでいき、水を顔にピュッとかけた。
「アクア様、いつもクリスティーナ様のそばに居てくれてありがとうございます」
ヴィーはアクアの存在を知る一人。
そして信じてくれている。だからアクアもヴィーの前には姿は見えなくてもわかるようにとこうしてイタズラ混じりで挨拶をしている。
二人で庭のダメになった花を取り除き、なんとか助かった花達にアクアが水を撒いてくれた。
アクアが撒いた水は不思議なくらい花を元気にしてくれる。
「では俺の姫、家に帰りましょう」
わたしに手を差し出した優しいヴィーの手にそっと手を置いた。
ヴィーはマナーすら習ったことがないわたしのためにテーブルマナー、エスコートをされた時のマナーなど小さな時からいろいろ教えてくれた。
女性でしか教えてもらえないことは、団長の計らいで週に一度わたしの離れに教師を派遣してくれる。
優しいローズ夫人。本当の名前は知らない。
「わたしのことはローズと呼んでください」
初めてお会いしたのはわたしが12歳の時。
「貴女がクリスティーナ様ですね?これからわたしが貴女を教育させていただきますね、しっかり王女としての気品を身につけましょう」
優しくも厳しいローズ夫人。
お茶の飲み方、姿勢、挨拶の仕方、刺繍にピアノ、たくさんのことを教えてくれた。
話す相手に対しての態度や言葉遣いもその地位によって違うことも教えてもらった。
ま、わたしが話すのはアクアを含めて5人だけだからいつも通りなんだけど。
ダンスはいつもヴィーが相手をしてくれる。
ヴィーは28歳、わたしと一回り歳が離れている。
わたしはもうすぐ16歳になる。
この国ではもうすぐ成人になる歳。
最近はヴィーとのダンスも様になってきた気がする。
「ヴィー、わたしのダンス少しは上達したかしら?」
「まだまだですが、足を踏まなくなったから合格点はいってますね」
「もう!最近はたまにしか踏んでいないわ!」
“うん、3回に1回になった!”
ーーアクア、うるさい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます