第4話
ユグル兄様と父上の訓練が終了し、昼食を食べ終えた後、私はバン兄様の部屋へと向かっていた。今日は家庭教師が来ない日であるため、バン兄様のスキルについて詳しく話を聞きたいと思ったのだ。
バン兄様の職業は『商人』。そのスキルについては屋敷にある書物に記載がなかったため、本人に直接聞くしかない。
バン兄様が居る部屋へと辿り着いた私は、失礼が無いように扉をノックする。それから返事が返ってくるまで、静かに待っていた。
「だれだ?」
「バン兄様。アレックスです。お話を聞きに参りました」
「おお、アレックスか!入っていいぞ!」
中からバン兄様の返事が返ってきたので部屋へと入っていく。バン兄様は机に向かって何か書き物をしていた。私はバン兄様の邪魔にならぬようベッドの上に腰かけて、話しかけるタイミングを伺う。それを間違えると兄様の機嫌を損ねてしまう可能性があるからだ。
暫くすると、バン兄様が息を吹きながら体を伸ばし始めたので、私は後ろから声をかけた。
「バン兄様は今何をやっているのでしょうか。」
「ん?俺は今座学の復習中だ。と言っても計算しかやってないけどな。見てみるか?」
「ええ。宜しければ」
バン兄様は私の返事を聞くと、机の上に広げていたノートを渡してくれた。ノートにはびっしりと計算問題が書かれている。
「アレックスにはまだ早いかなー!」とバン兄様は笑っているが、正直この程度の計算問題であれば、問題なく解くことが出来た。足し算と引き算の問題しかやっていないのか、掛け算や割り算等の計算問題を解いた形跡が無い。
「この程度の問題であれば、四歳の頃には既に解けています。今では掛け算や割り算も解けますが、宜しければお教えしましょうか?ところどころ計算も間違えているようですし」
そう言いながらノートをバン兄様へと返し、答えが間違っている個所を指さした。この程度の問題で躓いているようでは、バン兄様が「商人」になることは難しいだろう。
私も弟として出来る限りの事はしたほうが良いのではないか。そう思って、善意の心でバン兄様に提案したのだが、私の指示した式を見た兄様は、なぜか怒りを露わにして震え始めた。
「うるせぇ!!こんなのちょっとしたミスだっての!お前なんか本ばっか読んでるから体力ないくせに!生意気言うんじゃねーよ!ほら早く行っちまえ!」
「私に体力が無いのと、兄様に計算力が無いのとでは話の筋が違うのではないでしょうか?兄様は商人を目指すのですから、計算力は必須です。一方私は現時点で体力を必要とはしておりませんので、何ら問題はありません」
「言いたい放題言いやがって……お前後で覚えとけよ!!」
バン兄様の怒りが収まることは無く、私を部屋の外へと追い出して鍵を閉めてしまった。商人のスキルについて話を聞かせて貰いたかったのだが仕方ない。
それにしても兄様は何故怒ったのだろうか。自分の利益になることは何であろうと受け入れた方が良いと私は思うのだが。
どうやら、親切は時に人を怒らせることがあるらしい。それを学んだ私は廊下を歩きながら、もう二度と頼まれる前に善意で行動するのは止めようと心に誓った。
その後の夕食時、なぜか父上が笑顔で私に訓練に参加しろと言ってきたのだが、その時のバン兄様の顔はとても嬉しそうに口元を緩めていた。
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