18 リュドヴィックの旅立ちと洗脳仲間
数日後に王都での三人との面会が決まった。
リュドヴィックの洗脳仲間は五人。
騎士団長の息子、宰相の息子、生徒会長、資産家の跡継ぎ、天才魔法師。エリンでも顔と名前がすぐに一致する学園の有名人たちだ。
魔法師以外はエリンとリュドヴィックと同学年で既に学園を卒業し、治療後は元々就くべき場所に戻っているらしい。
現在王都にいるのは騎士団長の息子、宰相の息子、生徒会長の三人。
騎士団長の息子サイラス・グルーバー。騎士団の幹部になるべく騎士団に所属し訓練の日々。
宰相の息子エルヴィス・リプソン。父の仕事を引き継ぐために勉強中。
元生徒会長イーデン・マクレガー。平民が通う王都の学園の新任教師。
三人自体はまだ社会に出たばかりだが、彼らの家そして父親は影響力の高い貴族で国の重役についている。息子である彼らから父に掛け合ってもらい、契約を結ぶことができれば速達便はほぼ成功するといっても過言ではない。
彼らへの交渉内容だが、
騎士団の息子サイラスには、基地に速達便のドラゴンの居場所を作らせてもらう交渉をする。今既に数匹住んでいるところに一、二匹増やしてもらいたいと。
逆に速達便のサービス自体は騎士団は必要としない。今まで各地に散らばる防衛地やそれぞれの領地に連絡を取る際に既にドラゴンを使っていたとジルベールが教えてくれた。
深く考えず便利に使ってはいたが、それを国に広げるというアイデアには至らなかったらしい。
生徒会長のイーデンの父は、王都にある複数の学園を管理していて国の文部大臣でもある。
エリン達が卒業した学園は、この国全ての貴族令息令嬢が通う学園だったから各地に手紙を送る機会も多い。
学園が使ってくれれば年頃の令息令嬢がいる家へのアピールにもなる。
エルヴィスの父は王の右腕として、各地の貴族を束ねている。彼が利用してくれれば、それだけでこの速達便の意味がある。
リプソン公爵家は王族を輩出することもある影響力の大きな家だ。リプソン家がドラゴン速達便を使ってくれるならば、他の貴族もならうだろう。
「本当にあなたの洗脳仲間の家柄は最高ね」
「この三人は僕の幼馴染でもある。小さな頃からずっとこの国を支える存在になるように、と期待されて育ったんだ」
「それならきっとあなたの力になってくれるわ!」
「まあそうだな……サイラスは真面目過ぎる男だからちょっと心配だが」
友人のことを思い出しながらリュドヴィックは苦笑いした。
「あらどうして?」
「僕はなんの罪もないシャリーをあのような場で貶めて国外追放になった。彼は正義感のある男だしシャリーに好感も持っていたから」
「自分も洗脳されてたならつらさがわかるんじゃない?」
「そうだが……一度も彼らとは話せていないからな」
「まあ騎士団に断られても、王都の端かどこかにどうにかドラゴンの住処を作ればいいからあまり気にすることはないわ」
「それもそうだな」
エリンはあまり気にせず軽い口調で締めくくったが、リュドヴィックの表情は晴れなかった。
・・
彼らへの面会日までに、別のことも進めた。
まず王都に住んでいない他の二人にも手紙を届けてもらった。
ルロワ騎士訓練生にエリンから速達便の話をしたところ、すぐに立候補した若者がいた。彼からは熱い情熱を感じた!とエリンが気に入ってすぐに速達便の仲間に加えることにしたのだ。
資産家の跡継ぎと魔法師への手紙は近いうちに挨拶にいきたいという内容に留めた。彼らの近況を聞くとあまり速達便は必要なさそうだったからだ。
それから、あえて一週間後に結婚式を強行することにした。
速達便の運用を始めれば大忙しになってそれどころではなくなる。かといってリュドヴィックの顔見世を先延ばしにもしたくないので先に終わらせようということになっていた。
本当に乙女の憧れはどこにいってしまったのか。
エリンは家令のエドに父ブルーノへの手紙を渡した。ブルーノの行方はいまだに不明だが、エリンとリュドヴィックを同部屋にしようとするしょうもない指示だけは届くのだから、何かしら連絡を取る方法はあるのだろう。
ドレスは一からデザインする時間はなかったので、既製品からシンプルな物を選んだ。リュドヴィックは本当にそれでいいのか?と気を遣うほどであった。
二人は夫婦という実感はいまだにないし、挙式というより本当にただのリュドヴィックお披露目会になりそうだ。
・・
「友人たちに交渉するよりもこの方が難題だな」
王都での約束の日、リュドヴィックは青白い顔で言った。
場所はルロワの館の門の前。マシューとリュール、赤と黄色のドラゴンが二人を待ち構えていて、見送りの使用人たちがずらりと並んでいる。
リュドヴィックは初めてドラゴンに長距離乗ることになる。
「最近島の移動はリュールに乗っているし、慣れたのかと思っていたわ」
「リュールには低空飛行をお願いしている。……し、乗っている時間が全然違う。目を瞑っていればすぐについたんだ」
「じゃあ王都につくまで目を瞑っていれば?私が隣でリュールに指示するし」
「長距離でずっと目を瞑っているのも怖いだろう!」
リュドヴィックの額には暑くもないのに既に大粒の汗が浮かんでいる。
「そうね……街の上も通るからずっと低空飛行するわけにもいかないしね。あまりに近いとその領地に警戒されるからいつも雲の上で見えない場所を飛んでいるの」
「だろうな」
「下が見えるのがこわいの?」
「そうだ。――下を見なくてはいいという問題ではないぞ。高所恐怖症からすると下に何もないというのはそれだけで恐怖なんだ」
「うーん?じゃあ箱に入って、荷物のように運んでもらうとか……?」
エリンの提案にリュドヴィックはそれだ!と大声を出した。
「箱には入らないけどリュールの周りに箱の形のようにシールドを張るんだ」
「なるほど?でも空にいる事実は変わらないんじゃ?」
「落ちたらどうしようというのが、不安でこわいんだ。万一落ちても助かると思うだけで全然違う」
「そんなものか」
エリンにはあまり違いがわからないが、高所恐怖症にしかわからない違いがあるのだろう。「命綱みたいなものね。それなら命綱も結んでおけば?」
エリンの言葉に見送りに出てきていた使用人が館に戻っていく。きっとドラゴンとリュドヴィックを結びつけるロープを取りに行ってくれたのだろう。
「――うん。かなりいいな。二つ安心材料があるだけで違う」
使用人が持ってきてくれたロープをしっかり自分の身体に巻き付けて、手綱に結びつけてリュドヴィックはほっとした表情になる。そしてハッとしたようにエリンを見た。
「なあ、こんな風に安全に乗れるとわかれば、ドラゴンに乗るのが怖くない人もあらわれるんじゃないか?」
「たしかに!ドラゴンそのものが怖い人は別として、興味はあるけど空を飛ぶのが怖いから無理って人も多いかも!」
「箱型のシールドに守られてると思えば安心できる。少なくとも僕は」
「……でもそれって移動中ずっと魔法をかけ続けないといけないでしょ?結構魔力も使うし高度じゃない?少なくとも私には無理」
エリンは基本の魔法くらいは難なく使えるが、長距離移動中ずっと魔法をかけ続けるのはかなり高度に思えた。
「そうだな。僕も自分には使えるが……人に防御魔法をかけるなら並走して飛び続けるしか無理だな。現実的ではない」
「魔法学の成績がよかったリュドでもそうなのね。……あ、そうだわ!いるじゃない。適任が。洗脳仲間に」
エリンが思いついて大声を出すと、リュドヴィックも納得したように頷いた。
「魔法師への面会理由が決まったわね。――それは今後考えていくとして、とりあえず今は王都にいかなくっちゃね!リュド今言ってた魔法は問題なさそう?」
「ああ」
「じゃあまた王都についたら感想を聞かせて!しゅっぱーつ!」
「まってくれ!エリンは早すぎる!ゆっくり進んでくれ!」
今にも倒れそうなほど真っ白な顔のリュドヴィックを乗せてリュールは飛び立った。
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