死に戻ったサレ妻は、廃棄される側からする側へ

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

第0話 私に残された時間とやり直し

「ぅああああああああ! あ"ーーー。ぅぅぅぅぅぅぅ」


 右の下腹部全体に広がる、まるでナイフを突き立てられたかのような激痛。

 私はその痛みで、再び目を開けた。


 目の前には、見慣れたリビングがある。


「かはっ。はぁはぁはぁはぁ。な、なに、どう……なっているの?」


 私は痛む腹部を強く抑えた。

 すると前回と、吐き気が襲ってくる。


 初めはそう。些細な痛みだった。

 だからいつもの胃痛だと私は、気にも留めなかった。

 でもその痛みがだんだん鳩尾みぞおち全体に広がり、リビングで動けなくなりうずくまると、とうとう立ち上がることが出来なくなっていった。


「なんで?」


 目の前には、スマホがある。

 そしてその画面には、先ほどかけたはずの夫の番号が表示されたままになっていた。


 私は確かに夫に助けを求めたはずだった。

 しかしその結果は――


「ぅぅぅぅ、私……なんで生きているの?」


 私は確かに、この後死んだんだ。

 あの痛みも悲しみも、苦しみも後悔も……。


 何もかも忘れられるわけなんてない。

 こぼれ落ちる涙も、熱い息も、まだ生きてるということだけを教えてくれている。


「生き返った? ちがぅ……死に……戻ったんだ。そんなことってあるの? ぅうう、でも確かに痛い」


 たった数時間だけど、私はこの最後の選択に戻された。

 スマホがまるで審判者のように、光っている。


 誰を選べばいいの?

 私を裏切った夫? 夫と私を騙していた友達? 会社の仲間?

 それとも。

 ぐるぐるとどれだけ考えても、お腹の痛みがそれを邪魔する。


 誰が正解なの?

 死にたくない。もう一回なんて死にたくない。

 私はこの先が行き着くところを知っているから。


 痛みと共に飛びそうになる意識に、過去が走馬灯となって流れていった。

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