　葉（よう）司（じ）達（たち）がお風呂（ふろ）から上（あ）がって暫（しばら）くして。

　黒（くろ）沢（さわ）家（け）の茶（ちゃ）の間（ま）。

　葉（よう）司（じ）達（たち）六（ろく）人（にん）は茶（ちゃ）の間（ま）に集（あつ）まっており、ちゃぶ台（だい）の上（うえ）には紫（し）織（おり）と恵（え）理（り）花（か）が作（つく）った、六（ろく）人（にん）分（ぶん）の夕（ゆう）食（しょく）が用（よう）意（い）されていた。

　太（たい）耀（よう）は葉（よう）司（じ）に耳（みみ）打（う）ちをする。

「(……おい葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）の奴（やつ）どうしたんだ？)」

「知（し）るかよ、さっきっからあの調（ちょう）子（し）なんだよ」

　すると葉（よう）司（じ）は、小（こ）声（ごえ）で太（たい）耀（よう）にそう言（い）い返（かえ）した。

　恵（え）理（り）花（か）も、北（ほく）斗（と）が元（げん）気（き）の無（な）い事（こと）に気（き）付（づ）き話（はな）しかける。

「どうしたの、北（ほく）斗（と）君（くん）?」

　すると北（ほく）斗（と）は慌（あわ）てて笑（え）顔（がお）を作（つく）り、返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「何（なん）の事（こと）？」

「何（なに）か元（げん）気（き）無（な）いみたいだから？」

　そう言（い）う恵（え）理（り）花（か）が、心（しん）配（ぱい）そうな顔（かお）をしている事（こと）に気が付（つ）いた北（ほく）斗（と）は、慌（あわ）てて恵（え）理（り）花（か）に言（い）う。

「そんな事（こと）ないよ」

　更（さら）に葉（よう）司（じ）と太（たい）耀（よう）に向（む）かって、同（どう）意（い）を求（もと）めるが……

「ねぇ、二（ふ）人（たり）共（とも）」

「いや、お前（まえ）さっきから変（へん）だぞ!?」

　葉（よう）司（じ）は首（くび）を横（よこ）に振（ふ）ると、北（ほく）斗（と）にそう言（い）い返（かえ）した。

「今（こん）度（ど）は北（ほく）斗（と）かい……　最近（さいきん）の男（おとこ）はウジウジ考（かんが）え過（す）ぎだよ」

　紫（し）織（おり）がそう言（い）うと、今（こん）度（ど）は薫（かおる）が北（ほく）斗（と）に尋（たず）ねる。

「どうしたんです?」

「いや、うん……」

　困（こま）った北（ほく）斗（と）は、そう言（い）いながら少（すこ）し悩（なや）む。

　そして胸（むね）の内（うち）を少（すこ）し言（こと）葉（ば）にして漏（も）らす。

「情（なさ）けないなって……」

「何（なん）の話（はな）しだ？」

　太（たい）耀（よう）がそう聞（き）き返（かえ）すと、恥（はず）かしそうに北（ほく）斗（と）は答（こた）える。

「恵（え）理（り）花（か）ちゃんを助（たす）けるのが遅（おく）れた事（こと）……」

　北（ほく）斗（と）の言（こと）葉（ば）を聞（き）いて、薫（かおる）は北（ほく）斗（と）に言（い）う。

「もしかして私（わたし）達（たち）を先（さき）にしたのは、その話（はな）しを葉（よう）司（じ）君（くん）とする為（ため）ですか？」

「だからそれは気（き）にするなって」

　葉（よう）司（じ）が北（ほく）斗（と）に向（む）かってそう言（い）うと、恵（え）理（り）花（か）が続（つづ）ける。

「そうよ。それに葉（よう）司（じ）助（たす）ける為（ため）に、アラハバキに攻撃（こうげき）したじゃない」

「そうだ。そんな事（こと）を言（い）ったら僕（ぼく）の立（たち）場（ば）が無（な）くなる」

　更（さら）に太（たい）耀（よう）がそうフォローするが、北（ほく）斗（と）は自（じ）信（しん）が無（な）さそうに言（い）い返（かえ）す。

「でもやっぱり……――」

　北（ほく）斗（と）が続（つづ）きを言（い）おうとすると、紫（し）織（おり）が言（こと）葉（ば）を遮（さえぎ）る。

「ほらお前（まえ）達（たち）。折角（せっかく）の夕（ゆう）食（しょく）が冷（さ）めちまうよ」

　そして、更（さら）に続（つづ）け様（ざま）に言（い）う。

「それにしてもこんな量、作ったのは何時（いつ）以来かねぇ」

　紫（し）織（おり）の顔（かお）がどことなく嬉（うれ）しそうに見（み）えた恵（え）理（り）花（か）は、その言（こと）葉（ば）に続（つづ）ける。

「何時（いつ）も二（ふ）人（たり）だもんね。皆（みんな）、食（た）――」

　しかし……

「皆（みんな）、ちょっと待（ま）って！」

　突然（とつぜん）、押（おし）入（い）れの近（ちか）くに現（あらわ）れたスセリが、そう言（い）って恵（え）理（り）花（か）の言（こと）葉（ば）を遮（さえぎ）ると、慌（あわ）てて自（じ）分（ぶん）の方（ほう）へ注（ちゅう）意（い）を向（む）けた。

「行（い）き成（な）り如何（どう）したんだいスセリ?」

　不思議（ふしぎ）そうにそう言（い）う紫（し）織（おり）に、スセリが真剣（しんけん）な顔（かお）で説（せつ）明（めい）を始（はじ）める。

「何（なに）物（もの）かが此方（こちら）に転（てん）移（い）して来（き）ます。……いや、この気（け）気配（はい）」

（天（てん）津（つ）神（しん）！　如何（どう）言（い）う事（こと）、アラハバキが封印（ふういん）を解（と）いたと言（い）うの？　でもこんな事（こと）は始（はじ）めの計（けい）画（かく）には……）

　スセリがそんな事（こと）を考（かんが）えてる内（うち）に、ちゃぶ台（だい）と押（おし）入（い）れの間（あいだ）の空（くう）間（かん）に光（ひかり）の柱（はしら）が現（あらわ）れた。

　光（ひかり）の柱（はしら）は次（し）第（だい）に男性（だんせい）の姿（すがた）へと変（か）わって行（い）く。

「何（なん）だ、アラハバキの仲（なか）間（ま）か!?」

　男性（だんせい）の姿（すがた）を見（み）た葉（よう）司（じ）がそう入（い）うと、スセリは首（くび）を横（よこ）に振（ふ）り説（せつ）明（めい）をする。

「いいえ違（ちが）います。彼（かれ）は多（た）分（ぶん）天（てん）津（つ）神（しん）……」

　驚（おどろ）いてる人（にん）間（げん）達（たち）にそう言（い）ったスセリは、男性（だんせい）に向（む）かって話（はな）しかける。

「私（わたし）は常世（とこよ）の主（あるじ）、オオクニヌシの后（きさき）スセリ比（ひ）売（め）。神（かみ）々（がみ）はアラハバキにより封（ふう）じられた筈（はず）。貴方（あなた）はいったい?」

　するとその男性（だんせい）は、困（こま）った顔（かお）でスセリに言（い）う。

「私（わたし）の名（な）は知識（ちしき）の神（かみ）オモイカネ。スクナヒコナから貴女（あなた）の事（こと）は聞及（ききおよ）んでいる」

　オモイカネと名（な）乗（の）ったその神（かみ）は、そう言（い）った後（あと）スセリに向（む）かって土下座（どげざ）をし、言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「頼（たの）む……　如何（どう）なっているのか、私（わたし）に説明（せつめい）をして欲（ほ）しい！」

　現（あらわ）れたオモイカネの所為（せい）で、葉（よう）司（じ）達（たち）の夕（ゆう）食（しょく）は一（いち）時（じ）中（ちゅう）断（だん）。

　スセリの提案（ていあん）で、葉（よう）司（じ）達（たち）が夕（ゆう）食（しょく）を取（と）っている間（あいだ）にオモイカネは、別（べつ）の部（へ）屋（や）でスセリから今（こん）回（かい）の件（けん）に関（かん）しての説明（せつめい）を聞（き）く事（こと）に成（な）った。

　勿（もち）論（ろん）、国（くに）津（つ）神（しん）の計（けい）画（かく）は伏（ふ）せて……

　葉（よう）司（じ）達（たち）の食（しょく）事（じ）が終（お）わってから暫（しばら）く。

　スセリ達（たち）は葉（よう）司（じ）達（たち）の元（もと）に戻（もど）って来（く）ると、葉（よう）司（じ）達（たち）を促（うなが）し、全（ぜん）員（いん）で黒（くろ）沢（さわ）家（け）の中庭（なかにわ）に向（む）かう。

　皆（みんな）が中庭（なかにわ）に面（めん）した縁側（えんがわ）を歩（ある）いていると、スセリとオモイカネが中庭（なかにわ）に飛（と）んて出（で）、中庭（なかにわ）の中（ちゅう）心（しん）で空（くう）中（ちゅう）に止（と）まる。

　スセリヒメとオモイカネは葉（よう）司（じ）達（たち）の方（ほう）を向（む）き、星（ほし）空（ぞら）の下（した）、スセリが葉（よう）司（じ）達（たち）に向（む）かって言（い）う。

「其所（そこ）で良（い）いわ。皆（みんな）止（と）まって」

　そう言（い）われた葉（よう）司（じ）達（たち）はその場（ば）に留（とど）まり、スセリの方（ほう）を向（む）く。

　するとスセリは話（はな）し出（だ）す。

「それでは此（こ）れから、現状（げんじょう）と此（こ）れからついての説明（せつめい）をします。それとこの家（いえ）には私（わたし）の結界（けっかい）が張（は）って有（あ）りますから、外（そと）からこの家（いえ）の中（なか）の様（よう）子（す）は判（わか）りません。安（あん）心（しん）して下（くだ）さい」

　そこまでスセリは言（い）うと、オモイカネの方（ほう）を向（む）いてお願（ねが）いをする。

「オモイカネ。申（もう）し訳（わけ）無（な）いけど、貴方（あなた）の自（じ）己（こ）紹（しょう）介（かい）を御（お）願（ねが）い出（で）来（き）るかしら?」

　そう促（うなが）されたオモイカネは頷（うなず）き、葉（よう）司（じ）達（たち）に向（む）かって少（すこ）し恥（は）ずかしそうに言（い）う。

「先程（さきほど）の醜態（しゅうたい）は忘（わす）れて欲（ほ）しい。私（わたし）の名（な）はヤゴコロオモイカネの神（かみ）。オモイカネと呼（よ）んでくれ。皇（すめらぎ）……この国（くに）の代（だい）表（ひょう）の遠（とお）い先（せん）祖（ぞ）に仕（つか）える知（ち）織（しき）の神（かみ）で、スセリの義（ぎ）兄妹（きょうだい）に当（あ）たる」

　　そして更（さら）に、笑（え）顔（がお）で言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「悪（わる）いが皆（みな）の名（な）前（まえ）を教（おし）えてくれるか？　先程（さきほど）スセリから聞（き）いてはいるが、念（ねん）の為（ため）に」

　オモイカネにそう言（い）われ、紫（し）織（おり）を含（ふく）めた子（こ）供（ども）達（たち）六（ろく）人（にん）は、それぞれオモイカネに自（じ）己（こ）紹（しょう）介（かい）をした。

　葉（よう）司（じ）達（たち）の自（じ）己（こ）紹（しょう）介（かい）を聞（き）き終（お）わったオモイカネは、葉（よう）司（じ）に向（む）かって言（い）う。

「そう言（い）えば君（きみ）は、アラハバキに最初（さいしょ）に立（た）ち向（む）かったそうだが怖（こわ）くはなかったか？」

　すると葉（よう）司（じ）は恥（はず）かしそうに答（こた）える。

「アレは無（む）我（が）夢（む）中（ちゅう）で……」

「今（いま）は如何（どう）だ？　恐（きょう）怖（ふ）や不（ふ）安（あん）は有（あ）るか、太（たい）耀（よう）に北（ほく）斗（と）も」

　オモイカネがそう三（さん）人（にん）に聞（き）いて来（き）たので、名（な）前（まえ）を出（だ）された三（さん）人（にん）は不思議（ふしぎ）に思（おも）う。

　そして太（たい）耀（よう）がオモイカネに聞（き）き返（かえ）す。

「何（なん）でそんな事（こと）を聞（き）くんだオモイカネ？」

　そう聞（き）かれたオモイカネは、スセリの方（ほう）を向（む）き合（あい）図（ず）を送（おく）る。

　すると今（こん）度（ど）は、スセリが葉（よう）司（じ）達（たち）に説（せつ）明（めい）を始（はじ）める。

「それは私（わたし）が頼（たの）んだのです。雑（ぞう）木（き）林（ばやし）で言（い）った通（とお）り、アラハバキの再封印（さいふういん）を手（て）伝（つだ）って……いいえ、貴方（あなた）達（たち）で再度（さいど）封印（ふういん）して欲（ほ）しいから」

　スセリの言（こと）葉（ば）に、紫（し）織（おり）は驚（おどろ）いた振（ふ）りをして聞（き）き返（かえ）す。

「如何（どう）言（い）う事（こと）だい!?」

「御免（ごめん）なさい……　私（わたし）には護（まも）る力（ちから）は有（あ）っても戦（たたか）う力（ちから）は無（な）い。それはオモイカネも同（おな）じ。だから無理（むり）は承（しょう）知（ち）で御（お）願（ねが）いします。私（わたし）達（たち）に協（きょう）力（りょく）し臣（おみ）器（き）を使（つか）い、アラハバキを討（う）ち払（はら）う手伝（てつだ）いをして欲（ほ）しいのです」

　申（もう）し訳（わけ）なさそうにそう言（い）ったスセリに、オモイカネが続（つづ）ける。

「私（わたし）からも御（お）願（ねが）いする。スセリの一（いち）族（ぞく）は我（わ）が主（あるじ）との盟約（めいやく）で、力（ちから）の行（こう）使（し）を制限（せいげん）されている。そのうえ、今（いま）の世（よ）の中（なか）では力（ちから）を上手（うま）く使（つか）えないのだ。その盟約（めいやく）を破棄（はき）出（で）来（き）る神々（かみがみ）はアラハバキに封印（ふういん）されているし、君（きみ）達（たち）を頼（たよ）るしかないのが現（げん）状（じょう）だ」

　するとオモイカネの言（こと）葉（ば）を不思議（ふしぎ）に思（おも）った薫（かおる）が、スセリに聞（き）く。

「ですが雑（ぞう）木（き）林（ばやし）では助（たす）けて下（くだ）さいましたよね？」

　薫（かおる）の問（と）いにオモイカネは驚（おどろ）きスセリに顔（かお）を向（む）けた。

　それをまずいと思（おも）ったスセリは説（せつ）明（めい）をする。

「あの時（とき）は、調停（ちょうてい）の女（め）神（がみ）ククリ様（さま）の力（ちから）を一（いち）時（じ）的（てき）に借（か）りていたのよ。ククリ様（さま）の居（い）るあの世（よ）とこの世（よ）の境（さかい）は封（ふう）じられているし、その所為（せい）か私（わたし）の属（ぞく）する神（かみ）々（がみ）とも連絡（れんらく）が付（つ）か無（な）い。オモイカネの方（ほう）も彼（かれ）以（い）外（がい）封（ふう）じられたみたいだし、私（わたし）も協（きょう）力（りょく）するから、貴方（あなた）達（たち）自（じ）身（しん）の手（て）で、恵（え）理（り）花（か）ちゃんを護（まも）ってくれるかしら」

　スセリの説（せつ）明（めい）に、紫（し）織（おり）は再（さい）度（ど）驚（おどろ）いた振（ふ）りをして助（たす）け船（ぶね）を出（だ）す。

「恵（え）理（り）花（か）を護（まも）れって、如何（どう）言（い）う事（こと）だい!?」

「アラハバキの所在（しょざい）が判（わか）ら無（な）い今（いま）、此方（こちら）から出（で）向（む）く事（こと）は叶（かな）いません。皆（みんな）は何（なん）で今（いま）の時（じ）間（かん）、自（じ）分（ぶん）達（たち）の姿（すがた）がきちんと確認（かくにん）出（で）来（き）るか分（わ）かりますか?」

　子供（こども）達（たち）はスセリにそう言（い）われ、始（はじ）めて異（い）変（へん）に気（き）付（づ）く。

　もうそろそろ夜（よる）の七（しち）時（じ）頃（ころ）。

　光源（こうげん）が星（ほし）と月（つき）、そしてやや離（はな）れた位置（いち）に在（あ）る茶（ちゃ）の間（ま）の灯（あか）りしかないと言（い）うのに、明（あ）かりの付（つ）いていない縁側（えんがわ）で、人（ひと）の姿（すがた）がきちんと確認（かくにん）出（で）来（き）ている。

「そういやぁ、何（なん）できちんと姿（すがた）見（み）えてんだ？」

　呟（つぶや）いた葉（よう）司（じ）にオモイカネが言（い）う。

「それは多（た）分（ぶん）……　星（ほし）神（がみ）であるアラハバキが、我（わ）が主（あるじ）の御（おん）身（み）たる青銅（せいどう）鏡（きょう）を持（も）っているからであろう。この異（い）変（へん）は今（いま）の所（ところ）社（しゃ）会（かい）に余（あま）り影（えい）響（きょう）は無（な）いが、もっと大（おお）きな異（い）変（へん）が起（お）きれば、国（くに）が立（た）ち行（ゆ）かなくなる可（か）能（のう）性（せい）も有（あ）る」

　オモイカネがそう言（い）い終（お）わった後（あと）、スセリは葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）に向（む）けて真剣（しんけん）な顔（かお）をして説明（せつめい）を始（はじ）める。

「アラハバキは多（た）分（ぶん）、私（わたし）をこの世（よ）に繋（つな）ぎ止（と）めている恵（え）理（り）花（か）の持（も）つ勾玉（まがたま）を狙（ねら）って来（き）ます。そうなると一（いち）番（ばん）に狙（ねら）われる可（か）能（のう）性（せい）が高（たか）いのは、あの時（とき）勾玉（まがたま）を身（み）に着（つ）けていた恵（え）理（り）花（か）。手（て）放（ばな）しても、アラハバキは恵（え）理（り）花（か）が持（も）っていると思（おも）っているでしょうから、狙（ねら）われるでしょうし、その勾玉（まがたま）が貴方（あなた）達（たち）の近（ちか）くに無（な）いと、いざと言（い）う時（とき）私（わたし）が助（たす）けてあげられません。コ（・）レ（・）は他（た）の人（ひと）には頼（たの）めませんし、頼（たの）んだ所（ところ）で信（しん）じ無（な）いでしょう。だから御（お）願（ねが）い子供（こども）達（たち）、私（わたし）の言（い）えた事（こと）ではないけど、恵（え）理（り）花（か）を護（まも）ってあげて下（くだ）さい」

　スセリの説明（せつめい）に不（ふ）安（あん）になった恵（え）理（り）花（か）が、紫（し）織（おり）の腕（うで）に縋（すが）り付（つ）いている。

　その様（よう）子（す）を確認（かくにん）した葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）がスセリに言（い）う。

「分（わ）かった。俺（おれ）はやる」

「ボクも」

　少（すこ）し気（き）を張（は）った様（よう）な二（ふ）人（たり）を見（み）て、太（たい）耀（よう）も続（つづ）ける。

「二（ふ）人（たり）がやるなら僕（ぼく）もやろう」

　スセリは三（さん）人（にん）の言（こと）葉（ば）を聞（き）いて、嬉（うれ）しそうに三（さん）人（にん）に言（こと）葉（ば）を返（かえ）す。

「ありがとう三（さん）人（にん）共（とも）。それじゃあこの事（こと）は、出（で）来（き）るだけ秘（ひ）密（みつ）にして下（くだ）さい。国（こっ）家（か）や情（じょう）報（ほう）機（き）関（かん）に知（し）られたら、貴方（あなた）達（たち）の家（か）族（ぞく）も大（たい）変（へん）でしょうから」

　すると、薫（かおる）が恥（はず）かしそうにスセリに聞（き）く。

「すみませんが、私（わたし）は如何（どう）したら……　私（わたし）も何かしたいんです」

　その様（よう）子（す）を見（み）ていた紫（し）織（おり）はこっそり微（ほほ）笑（え）む。

　そしてオモイカネが薫（かおる）に答（こた）える。

「それなら君（きみ）には私（わたし）が憑（つ）こう。戦（たたか）う力（ちから）は無（な）いが、何（なに）かの約（やく）には立（た）つかも知（し）れん。出（で）来（き）るなら、寄（よ）り……スセリヒメの勾玉（まがたま）のような物（もの）を用（よう）意（い）して欲（ほ）しい。君（きみ）がコ（・）レ（・）は自（じ）分（ぶん）にとっての知識（ちしき）だと思（おも）う様（よう）な物（もの）を」