デスゲームで死んだら幽霊になったので、生者を観察して暇つぶししてます

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 オンラインゲームの世界がデスゲームになった。

 そこは普通だ。

 いや、普通じゃないけど、物語としては普通だと思う。


 で、普通ならさらに、そこから巻き込まれた主人公が行動を開始。

 仲間達と切磋琢磨しながら、現実世界へ帰還するために頑張っていくのだろうけれど。


 俺は、モブだったらしい。


 デスゲーム開始一日で死んでしまった。


 まあ、特に実力のない雑魚プレイヤーだったから、そうなるかなとは思ってたけど。


 でも、幽霊になるのは想定外だ。


 なんでか、透明の状態になってしまった俺は、暇で暇でしょうがない。


 だから、暇つぶしのために、いろんな生者につきまとう事にしたのだった。


 デスゲームという異様な環境の中で、リーダーシップを発揮するもの。


 吊り橋効果で恋人ができるもの。


 それか自分だけ助かればいいとかいう精神で、人に迷惑かけたり、詐欺ったりするもの。


 世の中には色々な人間がいるなあって思った。






 そんな中、俺はとあるパーティーにはりついていた。


 面白い連中がいたもんだから、つい。


 好奇心に導かれるまま、ストーキングしてしまった。


 ごめんちゃい。


 そいつらは、ギルド「希望の星」といメンバーだ。


 数人ほどの小さな組織。


 で、何が面白いかって、バグを研究してるみたいなんだわ。


 アイテムをみんなで一斉につかったら、どうなるか?


 とか。


 狭い区域にオブジェクトをたくさん放り込んだらどうなるか?


 とか。


 モンスターを連続で倒したらどうなるか?


 とか。


 装備品を意味もなくぶっ壊し続けたらどうなるか?


 とか。


 とにかくいろんな事をやっている。


 一つ一つは、くだらない事だけど、すげぇ楽しそうにやってるからさ。


 見てて楽しいんだわ。


 それが目に付いた俺は、それ以来「希望の星」のメンバー達をずっと観察しているといったわけだ。


 彼等の実験は大抵は、何の成果もあげられずに終わってしまうけど。


 たまには有益なバグも見つかるらしく。


 デスゲームクリアを目指す者達のメリットになる事もあった。


 だから、面白いんだよな。


 それだけじゃなく、気持ちのいい性格の連中であるのも、観察を続ける理由になっている。


 オモテウラのない彼等は、困っている人を見つけては良く助けている。


 なかなか現実では見かけないタイプだったからな。






 そんな観察日和が続いたある日、事件が起きた。


 暗殺ギルドが、「希望の星」に目をつけてしまったらしい。


 幽霊状態になっていた俺が、影とかオブジェクトとかをすり抜けて行き来していたところ、たまたま連中の存在に気付いたのだ。


 デスゲームしてるゲームの中で暗殺しようとするやつがいるのか?


 って話だけど、いるんだなこれが。


 現実に戻りたくないとか、もう絶望して他の奴等も道連れにしたいとか。


 そういう連中が集まって組織しているらしい。


 できれば「希望の星」に知らせたいところだけど。


 幽霊な俺じゃ、彼等に声を届ける事ができない。


 着実に暗殺の手が伸びているというのに、何も出きなくて悔しかった。


 最初の一手をしのげたのは幸運だっただろう。


 暗殺事件が起きて、死にかけたメンバーは、かろうじてそばを通ったトッププレイヤーの手によって救われた。


 でも、きっとそんな幸運は二度は起こらない。


 早急に対策をうつ必要があった。


 さすがに今回の件で、「希望の星」の彼等は護衛を雇う事を選んだみたいだけど、実はそいつも暗殺ギルドの人間だった。


 出回っている手配書の顔と全然違ったのが驚いたな。


 ステータスを偽装していたし、見た目も変えていたから。


 俺が幽霊じゃなかったら、奴の素性はつかめなかっただろう。


 休んでいる宿屋までいって、ストーキングしたのが功を成したぜ!


 え? きもいって?


 緊急事態だからしょーがない。


 そもそも俺、幽霊だしな。


 人目なんて気にする意味ないしな。


 ちょっと悲しくなった。


 で、話を戻す。


 奴は隙を見て、「希望の星」を全滅させようと考えているようだった。


 偽物の用事で呼び出して、メンバーを殺害するつもりだ。


 とんでもなく恐ろしい事だった。


 けれど俺は、幽霊。


 誰かに触れる事も、誰かに声を届ける事も出来ない。


 死んでいる事が、生きてない事がこんなにも辛い事だとは思わなかった。


 天涯孤独の身で、現実世界でも特に執着のあるものはなかったから、デスゲームで死んだときはそんな事思いもしなかったのに。








 あれから俺は、様々な方法を考えた。


「希望の星」を死なせないようにと。


 そして思いついたのが、バグを利用するという方法。


 存在するはずのない人間が存在している。


 これこそがバグなのだ。


 だから、頑張ればもう一つくらい俺にだってバグを引き起こせるはず。


 俺は思いつく限りのことをすべて試した。


 どんなにくだらない事でも。


 意味のない事でも。


 地道にコツコツためす事が重要。


「希望の星」のメンバーにそう教えてもらった。








 意味もなく壁抜けを繰り返したり、


 意味もなくオブジェクトに触れようとしたり、

 

 意味もなく大声を出したり。


 何度も何度も様々な行動を繰り返した。


 それらは生者がやったらまぎれもない奇行だが、


 モブで幽霊なので。


 実体はないし、誰にも認識されない事に意外なメリットがあった。


 そうこうしているうちに、暗殺者の手が「希望の星」にしのびよる。


 怪我を負ったメンバーがライフを減らしていくのをみて、いても立ってもいられなかった。


 無駄だと思っても、彼等を守りたい。


 そう思って傷ついたメンバーの前に腕を広げて立ちふさがる。


 そこで


「なっ、どうして。こんな所に、いきなりプレイヤーが!」


 奇跡は起きた。


 何がどう作用したのか分からないが、バグは起きた。


 幽霊であった彼の姿は、暗殺者に視認され、攻撃の手を止める事に成功できたのだった。


 数秒後、冷静になた暗殺者は、立ちふさがったものに攻撃を加えるが、


「なんで、何度攻撃しても死なないんだよ!」


 いきなり出現した不死身で得体のしれないプレイヤーに恐怖を覚えていた。


 やがて、どんなに攻撃しても死なないと気づいたその暗殺者は青い顔をして逃げていった。


「ひいっ! ばけものめ! こんなの倒せるか!」


 俺はそんな連中を追いかけて、ここぞとばかりに亡者プレイ。


 やつらに殺されたプレイヤーを装って、怨嗟の声を吐きまくってやったぜ!


 おかげで、恐怖にかられた連中が次々に戦意喪失。


 暗殺ギルドの3分の1くらいは無力化できた。


 連中が盛大に騒ぎまくったおかげで、トッププレイヤー達も暗殺ギルドの発見に貢献できたし。


 イイことづくめだな。







 これで「希望の星」を守る事が出来た。


 そう思った後、俺の体は光につつまれて、消えていくところだった。


 それはただたんに見えなくなっていくという感じではなかった。


 直観的に成仏するのだと分かった。


 モブで何の役にも立たなかった雑魚プレイヤーだった。


 今まで大切なものなどもったことのない孤独の身だった。


 それでも人並みに生きて、誰かの役に立てた事が嬉しかった。


 俺は満足してそこから消え去った。








 やがて一年後、デスゲームがクリアされて、仮想世界に囚われていた人達が解放される事になる。


 そこから半年後、事件の全容をまとめられた書籍が発売された。


 そこには攻略に貢献したトッププレイヤーやトップギルドの存在がずらりと書かれていた。


 けれどその片隅には、嘘か本当かどうか分からない、名の知らない幽霊の存在が記されていた。


 

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デスゲームで死んだら幽霊になったので、生者を観察して暇つぶししてます 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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