第一章(夢幻)一輪の花





真っ青な青空が眩しい朝。


心地いい春の風が街に吹き、街には朝から市場で採れた魚や農作物が売られていたり、流れる大人に声を掛けて、フランスパンを売る子供達。

いろんな人で、街は賑わって活気に溢れていた。


320年前、この世界は人間とヴァンパイアが争いを続け、滅亡の危機に瀕していた。

そこで、ヴァンパイア女王はこの戦争を終わらせるために、人間の国王に自らの死と引き換えに人間とヴァンパイアの共存を提示し、一時休戦と平和協定を約束する事を条件にした。


当時の国王はその条件を引き受け、ヴァンパイア女王の心臓を国民の目前で、銀の剣を用いて貫いた。




そして、長く続いた戦争は終わりを告げ、時は流れ、人々は平和な日々を過ごしている。





太陽に煌めくピンク色の長いウェーブがかったツインテールの髪を風に靡かせながら、元気よく声を出して、魔法を唱えながら、民家の屋根を次々に飛び越えて行く。


「ポップ!ステップ!ジャンプ!」


私はローズ・ケリー15歳。

エターナル・ガイア王国の国立魔法学園に通う未来の魔法使い。


テンポ良く、ステップを踏みながら魔法で、高々と飛び跳ねて、学園周辺を囲う高い柵を越える。


たくさんの緑に囲まれた中世のヨーロッパをイメージした歴史ある古い校舎がある学園の敷地内に入り着地しようとしたその時だった。


突然、足元から魔法の光が消えてしまった。


「えっ⁉︎嘘⁉︎なんで‼︎きゃーーーー‼︎」


高所から真っ逆様に頭から地面に落ちそうになった瞬間ーーーー。


ドサっと、地面に落ちた衝撃と共にうめき声が聞こえた。


「痛ってー!」


「イアン!」


ギリギリ、落下直後に私を受け止めてくれたのは、私の同級生で友達のイアン・ホワイト15歳。


黒髪に赤目の瞳が印象的な少年だ。


今は訳あって、同じ家に住んでいる。


イアンはキッとローズを睨むと、厳しい口調で言った。


「いい加減にしろ!生徒は学園の外での魔法の使用は禁止だろ!」


「だって、寝坊して遅刻しそうだったんだもん。先生にはバレてないから大丈夫♡」


「そういう問題じゃない!ただでさえ、ローズはトラブルに巻き込まれやすいんだ。もし、ローズの身に何かあったら、、、」


イアンは無口で無愛想なんだけど、何故か私にだけは口出ししてくる心配性な男の子。


そんな、イアンの心配を他所に私は思いっきりイアンの背中を平手打ちした。


「大丈夫だって!トラブルって言っても、そんな、大した事ないでしょ?」


笑いながら言う私に叩かれた背中に手を当てながら、冷ややかな視線を私に送るイアン。


「まさか、記憶にないのか?」


森に入って、巨大な魔物に襲われたり、魔法の練習中に何故か呪文式を間違えて、大悪魔を召喚したり。

自分が風邪で寝込んだ時、ローズ特製の回復薬を飲んで、死にかけた事をイアンは思い出してゾッとした。


すると突然、背後から声を掛けられた後、肩を掴まれ、驚いて振り返った。


「えっ?」


声を掛けて来た人物。

この学園の教会の牧師を務める、フランツ・ルイスだった。

歳は30代だったっけ?

金髪短髪で、緑色の目に顔立ちも良く、背も高い体格のいい男性。


その緑色の目からは何かを訴えかけるような、懐かしいような、寂しげな悲しい表情だった。


「君は、あの時の、、、。」


私が戸惑って、口篭っていると、フランツ牧師の背後からたくさんの女生徒が追いかけて来た。


「フランツ牧師様ー‼︎今日は私のお話を聞いてください‼︎」

「私もよ!」

「いいえ!今日は、私よ!」


女生徒達が、すぐにフランツ牧師を取り囲み、ローズは弾き出されてしまい転んでしまった。

すぐ様イアンが駆け寄り、私に寄り添ってくれた。


フランツ牧師は、困った顔をしつつも、優しい、穏やかな顔を取り戻し、女生徒達の相手をしていた。


「うわっ!」


ぐいっと、イアンが私の手を掴んで立ち上がらせる。


「ありがとう。」


「そういえば、前にローズが違う古い小さな教会で、願い事を言うと、願いが叶うって言ってたよな。」


歩きながら思い出した様に話し出す。


「あぁ、よく調べもせずに行って。イアンが嫌がって、何も出来なかったけど。」


「確か、教会は心身を清め、悔い改める場所だろ。おまじない扱いするなよ。」


談笑しながら校舎に入り、多目的室に向かう。


多目的室は、普段、生徒が入らないように鍵が掛けてあるのだけれど、彼女がいる時だけ、その扉は開かれる。


扉の前に立つとイアンが2回、扉をノックをする。


「入っていいわよ。」


扉の向こう側から声が聞こえて、彼女がいる事が分かる。


イアンは私の手をずっと握ったまま、手を引き扉を開き、全てのカーテンが閉め切られた、薄暗くて埃臭い、前方にある生徒用の机の上にあるランプの光だけが頼りのこの部屋に入って行く。


部屋に入ると、再び入り口の扉を閉めて鍵を掛ける。


教卓には腕と足を組みながら座る女性ーーー。


暗闇の中でもハッキリと分かるぐらい、鮮やかな鮮血のように赤い腰まである長いストレートロングヘア。

キリッとした切れ長の紫暗の瞳。

この世のものとは思えない。

誰もが息を呑む程、美しい姿。


黒いロングコートを羽織り、ミニスカート、ニーハイブーツ。


腰のホルダーの右側には長剣。左側には短剣を装備している。




そうーーー。




彼女は、この世界では幻の存在と言われつつある。


純血種のヴァンパイア。エリザ・ベル・バレッド。


今は亡き、ヴァンパイア女王の護衛を務めた戦士だった。



























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