第二章 未来と過去

第22話 到達限界地域開発事業団主催・未踏地域開拓特派員養成高等学校特待生選抜試験……➀

 爺ちゃんが巻き込まれた炭鉱の落盤事故から約半年……


 俺は関東某所に存在する巨大施設に向かっていた。


 重く濃い灰色の空から雪がチラつく天気の中で……その施設にしか行き先の無いバスから降りた俺は、バス停から人影もまばらな施設の門に足を向けた。


 明らかに人が使うサイズではない施設の門前には、簡易な看板が掲げられており、その内容を一瞥した後……


「………」


 俺は無言のまま巨大な門を潜った。


 ちなみに……門に比べるとアンバランスなほど小さな簡易看板には、もはや平仮名に対して敵意すら感じる程の達筆で、


『到達限界地域開発事業団主催・未踏地域開拓特派員養成高等学校特待生選抜試験会場』


 と記されていた……


 ――――――――――


「ふざけるな!!!」


 集会所が……俺の怒声でビリビリと震えた。


 ・

 ・・

 ・・・


 あの落盤事故の翌週。


 噴出ガスによる火災旋風が未だ現場をくすぶらせている様な状況の中……


 この街では見かけない“品の無いオートハイヤー黒塗りの自動運転車”が街の入り口に停まった。


 高級送迎車から現れたのは、爺ちゃん達が仕事を受けていた『北海石油資源開発株式会社(HOPEX)』の顧問弁護士を名乗る男とその秘書。


 奴らは、まるで“勝手知ったる自分の家”の様に地域解体業組合スクラップリージョンの集会所にやって来たかと思うと、事故現場との連絡要員てして事務所に詰めていた事務員に、自分の素性を明かし、今回の事故の関係者を集会所に集めさせた。


 完全に身体にフィットしたオーダーメイドのスリーピース三つ揃えのスーツを着込んだ弁護士は、少なくとも見た目だけは完全になまま、燻る火災に油……


 ……どころか“ダイナマイト”を放り込みやがった!


「今回の事故は、明らかに地域解体業組合スクラップリージョンの方々が『メタン採掘プラント分解事業』にてした、プラントモーターゴーレムへの遠隔指示が原因です。我々は契約書に従い、速やかに関係者に対して責任の追求と賠償の請求を行う所存です」


 と、未だ爺ちゃん達の安否すら不明な俺達に言い切りやがった。


 俺がのも……無理無いと思わないか?


 ――――――――――


 その場で立ち上がった俺の剣幕に、弁護士の隣に控えた秘書(どう見てもヤクザ)が、ピクリと反応したが……


「はあ……何もふざけてなど居ませんが?」


 立ち上がりかけた秘書を片手で制した男は、欠片も動揺を見せずに俺の目を見据えた。


 ― ゾワッ ―


 視線が絡んだ瞬間……男の纏う雰囲気が俺の背中に悪寒を走らせた。この感覚をなんと形容するのが正解かは分からない……が、俺はこの男がとてつもなく精神の持ち主だと直感した。


(コイツの目、絶対に俺達を人間だと思ってねぇ。多分コイツは害虫も人間も全く区別なんてしねぇ。邪魔なら虫でも人でもお構い無し……まとめてするに違いない!)


「待てやコラ? テっちゃんだけが怒ってると思ってんなら大間違いだぞ!! アアンッ?? 黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがってぇ……こっちは、お前らがプラントのコードを変えたせいで、安全に停止させる事が出来なくなった事……とっくに承知してんだからな!」


 俺の横で援護射撃をしてくれたのは……組合の事務員をしてくれている木村さんだ。この人は、この街のガキどもにとっちゃ一度は世話になった事がある人で、俺にとっては少し年の離れたみたいな人でもある。……性別は女性だけどな。


「ふむ。一つ勘違いされてる様なのでご説明差し上げますが……今回お集まり頂いたのは皆様にご納得していただく為ではありません。今回のご説明は、あくまでもクライアントの意向を皆様に齟齬なく通告する為のものです。えっと……そこの女性(?)の方、貴女の主張は私にではなくで主張されるべきですな」


 俺は、今度こそココが法治国家だということを忘れそうになったが……その時、集会所に詰めかけたみんなの後ろから、一人の男が弁護士の前に進み出た。


 力強い足取りで俺達の前に立った壮年の男は、弁護士が放つ気色悪い雰囲気を、まるで意に介さず跳ね除け……堂々と宣言した。


「なるほど。そちらの主張は分かったが……体格が違い過ぎる故に踏み潰されるしかない蛇でも、潰された半身でゾウに噛みつくくらいの事はする。忘れない事だ……たとえ巨体は毒で死ななかったとしても、かは別の問題だと」


 そこに居たのは……レースの前に工場で爺ちゃんと話してた……??


「何で……貴方がこんな処にいるんです? Herr.ヘルアインホルン?」

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