第37話 出張ってヤツは…だいたい突然決まる物ですよね? 9
奴が召喚した巨大なワイバーンは、水晶に闇を溶かし込んだ様な輝きを放ち、全身から吸収した
彼等のアジトには結界が展開されて無傷の様だが、既に周囲の街並みは竜巻に飲み込まれて見るも無残な状態だ。
「覚悟するがいい...この辺り一帯は灰燼に帰すと! 最早止める術は無いと知れ!」
「勝手な事を言わないで下さい。全く...貴方みたいな方は...何処にでも、何時の時代にも居ますよ。大儀とか使命とか振りかざせば“他人の痛み”に無自覚になれる
「減らず口を!」
間髪入れずにミネルヴァから通信が入る。
{
{そうか...僕の潜在魔力量プラス集積量でなら現状では負けて無いって事だな?}
{このままでは約4分で奴の魔力量がこちらを上回ります}
{分かった、なら
あらかじめ決めていた最大魔力数値で別空間を形成。容量は小さいが
{
{最大容量で行くぞ!}
「エクスチェンジ!!!」
スキルを解放した瞬間、凄まじい光が
{モノクルの露光出力を
相変わらずミネルヴァの仕事には隙が無い。左目の視界が快適な明度に保たれ、結果は一目瞭然だった。視界を奪われている奴に素早く近づきブッシュナイフを突きつけて動きを封じる。
「貴様! 何をした? こんな事は有り得ん! いや
絶叫する奴の背後...其処に居る筈の
「...貴様は一体
ローブの男が茫然自失で呟く。
「ここは僕の魔力で形成した通常とは別の空間です。貴方達は最初から僕の
僕はモノクルに表示された、アジトの玄関ドアの後ろに隠れている人物達に声をかける。
「出てはいけません!!!」
ローブの男が大声を上げるが...年の頃は18~19だろう。華美では無いが、品の良いスカートとジャケットを身に付けた女性が現れる。
とても美しい女性だ。が、それ以上に慈愛を感じさせる女性だった。こう言ってはなんだが庇護欲を掻き立てるタイプの女性と言えるかも知れない。
その彼女の前には10代前半、下手をすれば
「最早これ迄です、ヴィルヘルム。元より我々の為に民を犠牲にする事など有ってはならないのに...それなのに貴方達を留め置けなかったのは私の罪です。この上、あなたを犠牲にして自らの責務を逃れては、父上が犠牲になって迄残した誇りを汚します。 そこの方、彼等の行い全ての責任は私にあります。交渉は私が伺います。ヴィルヘルムを離せとは申しませんが交渉が済むまでの安全は保証して下さい」
...なる程勇ましい、が...
「
ローブの男...ヴィルヘルムが吠える。だが奴の首筋には、他でもない僕が大型ブッシュナイフを当て、動きを封じている。
「やっと“話を聞いてくれそうな方”が出て来てくれましたね。しかし勘違いされては困ります。元々こちらには交渉に応じる義務など有りません。そしてそちらにも
女性が息を飲む、もしかしたら厳しい意見に免疫が無いのだろうか?
「...
その女性はかろうじて、そう声を絞り出した。
――――――――――
実は今回の戦闘は結果から見るほど
奴の召喚したワイバーンは凄まじい魔力で、奴を別の空間に飛ばす為にこちらも魔力総量の7割強を必要とした。
ミネルヴァ曰わく、この世界の召喚獣は実在した魔物がベースとなる。(ミネルヴァの様な手順は本来ならあり得ない)
大抵は自らが倒した魔物の体内から、魔力が結晶化した魔晶石を採取し、術者に内在する魔力で魔晶石に記憶された元々の生物の情報を擬似生物として再生する。
つまりヴィルヘルムは以前あのワイバーンを倒している事になる、奴は間違いナシの化け物だった訳だ。
今回だって純粋に魔力をつぎ込んで戦闘を行えば、魔力総量からして奴等を封じ込めている
それ程の激戦だった訳だ....因みにエクスチェンジで
僕達は再度、彼等のアジト内で話を聞く事にした。
「
「はい、異存有りません。」
不承不承だが女性の指示に従って大人しく小型の結界空間に入るヴィルヘルム。
「それでは...まず貴女方の素性を聞かせて頂きましょうか...」
「私の名は、マレーネ・フォン・ワーレンハイトです。このグローブリーズ帝国西部のワーレンハイト子爵領にて領主代理を勤めております」
ふむ、何処かの貴族が関わっているとは思っていたが予想通りだった。だが...
「一つ宜しいでしょうか?」
「はい?何でしょうか?」
「
今度こそ間違い無く全員が息を呑んだ。
――――――――――
「...どうして分かったのですか?」
「マレーネ様!」
彼女の近従の少年が声を上げる
「...確信があった訳では有りません。様々な事を鑑み、それでも可能性は高くないと思いつつカマを掛けました」
「...なる程。見事に引っかかった訳ですね。確かにこんな間の抜けた事では部下達の信頼など有った物では有りませんね」
彼女が自嘲気味に呟く。因みにヴィルヘルムが結界空間内から何かを叫んでいるがあちらからの音声は繋いでいない。
「...貴女の本当の名前を教えて下さい。」
「...私の本当の名はマルグリット・フォン・グローブリーズ。先の帝位争いに敗れた、現皇帝陛下フリードリヒ・フォン・グローブリーズの兄であるアルブレヒト・フォン・グローブリーズの遺児です」
...半ば予想通りだった。だったのだが...こんなに当たって嬉しくない予想も無かった。
「...つまり貴女は子爵令嬢であるマレーネ様の身分を
なるべく平静を保って話そうとは思うが、どうしても声に嫌悪感が滲むのは隠せなかった。しかしそれを聞いた近従の少年は即座に、
「無礼者め! お前にマレーネ様とマルグリット様の何が解るというのか!! 今すぐ取り消せ!!」
「ハンス、私の為にありがとう...でも良いのです。結果彼女の身分を偽って生き延びた事は事実なのですから」
どうもかなり複雑な事情が有るようだ。
「...事情を伺いましょう。」
本来なら深入りしたくは無い、だが事情を聞かねばこちらの調査も進まない。聞くより他に仕方無かった。
「はい、少々長くなるかもしれませんがお話し致します。我が
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