第33話 出張ってヤツは…だいたい突然決まる物ですよね? 5
グローブリーズ帝国・帝都ベルギリウスは...
人口は約55000人。一時滞在、中・長期滞在者を含むと65000人を超える。この世界の人口規模で考えればかなりの大都市である。
帝宮を中心に帝国貴族の居住区が周囲を囲み、巨大な工場群と労働者の居住区、雑多な
トライセン王国の王都と比べても更に大規模だが、王都は基本的に歴史を感じさせる美しい城塞都市であるのに比べ、ベルギリウスは一種の工業都市を思わせた。
{さて、やっと着いたな。まさか王都から半月も掛かるとは思わなかったよ}
パウルセン公爵からの依頼で、カナタは国の使節団に一商人として同行し帝都ベルギリウスに赴いていた。今はシドーニエと二人で例の宿に向かっている所だ。
因みに使節団の中でもカナタの正体を知っているのは、交渉使節団の団長であるヒルデガルド・フォン・ビットナー伯爵令嬢と
{主殿だけなら“
{いや、不満な訳じゃないんだ。“
――――――――――
この世界では移動は馬車が基本だ。それに今回は国の使節団だけではなく民間の交易商人が多数同行している。必然的に大規模なキャラバンになるのだが、当然快適な旅とは言い難い。
馬車はビットナー伯爵が御者を含めて手配してくたのでカナタとシドーニエは
そこで野営時には御者はビットナー伯爵の陣地に世話をお願いして、カナタはシドーニエとヒルデガルド、クリステンセンにだけ“テンプオーダー”で作った簡易宿泊用の空間を3部屋提供したのだ。
(まあ自分だけ快適なのも悪いしな。僕のスキルを知っている人達だけなら問題ないだろ)
そう考えてヒルデガルドの天幕内に簡易なベッドと、ユニットバスに繋がるドアが有るだけのシングルを3個提供したのだが、初めて見た3人は...
「コーサカ殿が非常識なのは今に始まった事ではないが...しかしコレは...」
3人とも見事に呆然としていた...
その後もユニットバスを見た女性陣は奇声を上げてシャワーやトイレをいじくり倒したり、自らの部屋に寝具を設置したりなかなか大騒ぎだった。
因みに一晩使用した後にヒルデガルドとシドーニエが、
「コッ、コーサカ殿! このトイレを是非! 我が屋敷に設置して貰えないだろうか? もちろん相応の対価は支払う! コレを使ったらもう他のトイレは使えん。頼む後生だ!」
「コーサカ様、魔法の可能性は無限に広がっていると確信しました!」
と言って涙目で頼んでくる。大袈裟過ぎないだろうか。
「...王都に戻ったら御相談に乗りましょう」
ヒルデガルドとシドーニエは、我が意を得たりと満面に笑みを浮かべ、
「絶対だぞ。是が非でも我が屋敷に安寧の空間を提供して頂きたい!」
と言って念押しされた。余計な文化を広めてしまったのではないかと少し心配になるほどだった。
――――――――――
{主殿?}
{...すまない、少し考え事をしていた。帝都に入ってからのマッピングは順調かい?}
{現在の補完率は約11%で、帝都の門周辺からこの宿の周りまでです。就寝時に“エンター1”内で待機して頂ければ2日で屋外はマッピング出来ます。如何いたしますか?}
{了解した。取り敢えず地の利は確保すべきだろう。よろしく頼むよ}
「
先を歩いて案内してくれていたシドーニエが声を懸けてくる。
「ああ、ありがとうございますシドーニエさん。部屋の確保をお願いします」
「...商会長。今は誰もいないから大丈夫ですが、人前では
「...すまない。よろしく頼む。」
慌てて言葉使いを直す。
これから宿泊する予定の宿はアレディング商会が謎の勢力と連絡を取るのに使っていた宿だ。
既にパウルセン公爵の内偵で、密造村の一件以前は定期的に伝言を引き取りにやって来る人物がいた事は分かっている。
フランク・アレディングは交易で何度となく帝都に来ている。宿が伝言を預かる事自体は常連の宿泊客に対するサービスとしてはポピュラーな物だし、これまでの徹底した正体の秘匿ぶりから考えて、宿側が関与している可能性は薄いだろう。
だが同じ宿に宿泊すれば伝言を管理していた人物に接触して伝言の回収係の情報を引き出せるかも知れない。それが出来なくても人相や風体が分かれば他の
そうこうしている内に目的の宿〔金の万年筆亭〕に到着した。エントランスの扉を引いて受け付けに向かう。受け付けには20代半ばくらいの落ち着いた女性が立っていた。
「いらっしゃいませ。ご宿泊の人数とご希望の部屋をお伺い致します」
シドーニエに目配せする。打ち合わせ通りに頼むぞ。
「宿泊者は私たち2名です。暫くは帝都に滞在して商談の予定ですので取り敢えず1週間は抑えて下さい。
シドーニエが秘書っぽい言動で部屋をおさえる。だがまてよ、一部屋しか取らないつもりか?小声で問い正すと同じく小声で、
「スィートルームですから大丈夫です。私の部屋くらいちゃんとあります。それに部屋がなくとも〔スキル〕があれば問題無いでしょう」
確かにそうなんだが...
「僕にも世間体があるんですよ。あなたの様な若くて美しい方と相部屋だと周りの方になんと言われるか...」
そう聞いた途端シドーニエは慌てて...
「だったら尚更です。商人の振りをしているのですから、それこそ強欲で好色な小悪党を演じて下さらないと相手も引っかかってくれませんよ」
といいながらやはり照れているのか耳が赤い。ごそごそと小声で会話していると受け付けの女性が宿帳らしき物から視線を上げて
「承りました。最上階スィートルームを一週間ご予約させて頂きます。こちらがルームキーになります。お荷物をお預かりいたします」
と告げてきた。同時に呼び鈴を鳴らすと奥から10代半ばくらいの青年が現れて荷物を受け取る。僕らの商材は馬車ごと交易団の倉庫に預かって貰っているので荷物は最小限だ。
因みに今回の経費は王国が賄ってくれるから問題ないが結構な金額だ。
「ありがとう。それと伝言を預かって欲しい、『ブレーメン』という人物が
シドーニエは会話の流れで伝言の管理者を聞き出そうとしている。なかなか上手い。
「かしこまりました。伝言の管理は一括してチーフコンシェルジュのアレックスが管理しておりますので、伝言の変更・破棄などが御必要な場合は受け付けにてお申し出下さい。それではお部屋にご案内致します」
今回、我々はわざとウォルター・アレディングの名を借りて帝国に入国している。そして謎の人物ブレーメンに当てて伝言を残すのはフランク・アレディングが連絡を取っていた時の符帳だ。
当然、相手はフランクが捕縛された事は知っているが対外的にアレディング商会はまだ潰れてはいない。胡散臭い誘いではあるがもしかしたらという事もある。
「よろしくお願いします。ウォルター様参りましょう」
「ああ」
出来るだけ鷹揚な雰囲気で答えて青年に付いて行く。取り敢えずの餌は撒いた。上手く食いついてくれればいいのだが...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます