第一章
第5話 道だと思っていたら他人の庭先だった...って事ありませんか? 1
ミネルヴァと共に...神様が保護してくれる前にいた、石積の壁で出来た通路に戻って来た。
「取り敢えず...何が起こるかわからないがココにじっとしててもしょうがない。周辺の警戒を怠らない様にして少し歩こう」
ミネルヴァに声をかけて周囲を窺う。
「了解致しました」
「因みに、現在地が何処か?とか判る?」
「私には、この惑星の地図データもインストールされています。現在地の座標を太陽と現在視認出来る星との相関関係から算出致します。少々お待ち下さい」
早速の万能振りに、流石は“叡智の象徴”とされるフクロウだと感心していると...
「此処はトライセン王国と呼ばれる国の東方国境付近です。どうやら国境警備の為の砦内にある通路のようです」
...よりによって、何故そこまでややこしい所に...
「成人男性が3人接近中! 前方十字路右手より距離約20m・集音分析の結果武装しています。迎撃しますか?」
ミネルヴァからの鋭い警告が響く。既にある程度事態を予測していた為すぐ指示をだす。
「即座に対応可能な体制を維持しつつ待機、非致死性の攻撃手段はあるかい?」
「お任せを!」
頼もしい返答に少し安心して、待ち構える。
前方の曲がり角から3人の武装した兵士が現れる。誰何の声が響くかと思いきや、相手も呆然としている。余程予想外だったのだろう、一瞬遅れて僕の周りに散開し、怒鳴り声を挙げる。
「@/.*++0+v./!.,a#z???」
...言葉が判らない可能性を全く考慮していなかった。あって然るべき事態を想定していなかった間抜け振りに慌てていると...
{お前は誰だと言っています。同時双方向翻訳を開始します}
万能ぶり全開のミネルヴァから骨伝導で通信が入る。やはりフクロウが言葉を話すのは見られないほうがいいのだろうか?
「もう一度言うぞ? お前はだれだ? 此処が国境砦であることが分からない筈がないし、そもそもこんな最奥に近い通路まで誰にも見つからず来れる筈がない。グローブリーズ帝国の間者か?」
確かに、この状況だと他国の諜報員位しか必然性のある推測は成り立たない。
{ミネルヴァ、何か見た目が派手な魔法を双方に被害が出ない位置へ、かつ目を引く形で行使できるか?}
{お任せ下さい。示威行動を開始します。
ミネルヴァが魔法の行使を行った瞬間、僕の背後に全高約5メートル、翼長7m~8mはあるであろう西洋風のドラゴンが現れた。その紫炎を纏った圧倒的な容貌は、少し細身の姿ながら凄まじい
「!!!!!!!!!!!!!」
自分の表情が引きつっていくのが判る。自分で指示しておいてなんだが...やり過ぎだろ!!!
「?????????????」
一方、突然現れた巨大な竜に
「フリッツ!!! 俺たちが食い止めている間に全力で詰め所に走れ! 絶対振り返るな!」
「うっ...了解っ!!!」
余計な反論をしない所を見ると...相応の覚悟と練度を誇る兵なのだろう。だがそれは此方にとっては
「動かないで下さい。一人でもこの場を離脱した瞬間、背後のサラマンダーを群れで召喚し、一切の制約なく砦を制圧します!!!」
自分でもハッタリが過ぎると思ったが効果はテキメンだった。後ろのサラマンダーはミネルヴァが“示威効果あり”として行使した魔法なので、大丈夫だとは思っていたが内心はヒヤヒヤだ。
「待て!?! 落ち着け!!! お前の目的はなんだ?どうしてこんな周りくどい事をする?砦の制圧が目的なら最初からサラマンダーをけしかければいいだろう?ここまで人目を忍んで侵入する理由がこの砦にあるとは思えんぞ?」
事がここに及んでもまだ頭は回っているようだ。少し感心するがそんな心情を気取られる訳にはいかない。
「それをこの場で話す意味が僕にあるというのですか?もしこの砦が無事に明日も国境警備の任を果たしたいと思うのならコチラの指示に従って下さい。まず三人とも武装を捨てて頂きましょうか。下手な時間稼ぎは逆効果ですよ」
アドリブとハッタリのオンパレードだ...押し通すしかないとはいえ背筋に冷や汗が流れる。三人が渋々腰の短剣と手に持った短槍を遠くに投げ捨てる。
「そのまま振り向いて砦の司令官の所まで僕を案内して下さい。サラマンダーはここに残して付いて行きますが、僕の事を〝誰かに伝えようとしたと認識した瞬間〟この砦は瓦礫の山になると思って下さい。指示に従って頂きさえすれば被害は出さないと誓いましょう」
「お前の言葉を信用する根拠は?」
「そんな物が必要ですか? 全てを灰燼に帰して口をつぐんでも僕にとっては状況は変わらない。それ位はお分かりでしょう?」
我ながら発言のブラックさにドン引きだ。
「...解った」
「「 隊長!! 」」
「誰かが判断をしなければならんなら、それは俺の役目だ。最も被害を出さない可能性はこれしかない...と言うか他に出来ることがあるまい?」
「しかし...」
「それでは案内して頂きましょう。お互い後悔しない判断であることを願います」
あえて部下の発言は無視して強引に話を進める。ハッタリは勢いが大切だ...
それから暫く、砦内を3人の警備兵に案内されているかの様に振る舞いながら背後を付いて行く。
{ミネルヴァ、この砦の内部構造を把握して司令官室を推測する事は可能かい?}
{現在、人間の可聴域を遥かに超える超音波にてエコーロケーションを実施中。マッピング完成率96%です。行動線から推測すると確かに司令官室があるべき区域に向かっています}
(一応、冷静な判断をしてくれているようだ)
砦の司令官の安全よりも砦その物、ひいては国境警備の拠点と兵力に重点を置くのは国防の観点からは冷静な判断ではある。
しかし彼の職務からすると“僕を自分たちの有利なフィールドに誘い込んで瞬殺し、サラマンダーに全員で対処する。”という賭けにでる可能性もなくは無いのだ。
“上司がとてつもなく優秀”か、“巻き込んで死んでも構わない愚物”でないと得体の知れない人間を司令官室に案内するとは思えない。
色々なパターンを吟味しつつ歩いているとある部屋の前に行き着く。
「ここだ。入室の許可を取る為には事情を説明しなければならない。部下の内の1人を説明に出して構わないか?もちろん私ともう一人は室外に残るし、この部屋は通常の執務室なので抜け道等もない。それに司令官はこの状況で一人逃げ出して状況を悪化させるような低脳ではない。まあ私の言葉だけでは信用できないかもしれないが...」
{ミネルヴァ?}
{在室人数は一人のみ。確認できる範囲に抜け道や室外と連絡できる機構等はありません。魔法技術を応用した通信装置等も反応をみる限り心配ないかと}
「解りました。但し事情説明は五分で終わらせてもらいましょう。五分後こちらから声を掛けるのでそれまでに入室許可を取り付けないと双方にとって不本意な結果になりますよ」
「...了解した。フリッツ行け」
無言で扉の前に進みノックする。
「誰だ?」
意外な事に室内から響いた声は...恐らく妙齢の女性のものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます