第3話 空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか? 3

「ちょっと待って下さい!それは二度と元の世界に帰る事は出来ないという事でしょうか?」  


 それは...困る。係累の少ない僕だが、その分叔母は僕の事を随分と気に掛けてくれているし、会社や友人などの関係者にも多大な心配と迷惑を掛けるだろう。


「理論的には不可能ではありません。しかし帰還出来る可能性は相当に低い...今回の様な“天文学的可能性のイレギュラー”よりも、さらに低確率かつ幸運が必要になるでしょう」


 若干の立ち眩みを覚えつつ疑問を口にする。


「先ほど“時間を圧縮”して“疑似空間”に保護していると仰いましたよね? それだけの事が出来るのに帰ることはできないと?」


「少し表現に語弊がありましたね。今の状態は厳密には時間を圧縮しているのではなく、貴方の感覚と処理速度を大幅にクロックアップして体感時間を引き伸ばしているにすぎません。そして私たちは疑似空間を形成する事はできても、既存の次元同士を無理やり連結する事は出来ないのです。例えるなら...あなたは“大きなフォルダーの中に新規制作された一時ファイル”にいると考えて頂ければ分かりやすいかと...」


 詳しい理屈は分からないが色々と面倒な制約があるらしい。


「それで一応お尋ねしますが...僕が帰還するための方法は?」


「...大変申し訳ありませんが、今避難している疑似空間から転移先の空間に戻り、数多あまたある次元連結の中から“元の次元に繋がる次元連結”を探し出す他ありません」


 ...なんの嫌がらせだよ。完全に無理ゲーじゃないか!


 自分が眉を顰めているのがハッキリわかる。なるほど幸運に縋りつきたくなる。


「もちろん...私たちもそのような事が徒手空拳にて出来るとは考えておりません。ささやかながら、お手伝いはさせていただきます。ただし、その前に一つ伺いますが...」


 うん? 何がしか希望が!!!


「このまま“この世界で生活するという選択肢”もありますが如何ですか? この世界は、貴方から見ると“中世ヨーロッパに近い世界観に若干の魔法めいた能力が存在する世界”です。多少の不便や危険はありますが住めない程でもないかと...」


 ガッツリと打ち砕かれた。orz


「現代日本人からするとかなり物騒なイメージですが...魔法とは?」


「この次元は、基本的には貴方のいた地球にかなり近い次元です。地球にも痕跡があったのでご存知かもしれませんが、今の文明が興る遥か前に爛熟して滅んだ文明がありました。その文明が残した〔精神感応エネルギー粒子〕という物がこの世界には満ちています。詳しい理屈は省きますが、この粒子が、こちらの世界で魔法のような現象を起こしています。そのまま魔法と云われる現象もあれば、固有魔法・技能スキルと云われる個人の資質に直結した特殊な能力もあります。相性はありますが、この世界生まれの人なら程度の差はあれ何がしかの能力が使えます。また、この粒子は互いに感応して一定以上の濃度に自分たちを保っていますので枯渇する事もありません」


 この世界生まれの人なら???


「僕は使えないのですか?」


「今はまだ...貴方の身体に粒子が満ちていませんのでダメですね。個人差が有りますが約3ヵ月ほどでどれくらい適性があるか判断できます」


 ...どちらにしても無理ゲーなのは変わらないようだ。


「3ヶ月...見知らぬ土地で生き抜いても魔法やスキルが使えるかも判らないと...帰還云々より生き抜くだけで至難ですね」


「貴方は非常に稀なケースですが、次元間を往来したことによって既に固有魔法スキルが発現しています。ここに来る時にも使ったでしょう」


 !!あれがそうだったのか!!


「ちなみに貴方に発現したスキルは〔トランスファー〕といいます。基本は同一次元間の空間を繋げたり移動したり空間を加工する能力です」  


 スキルの発現内容テキトーすぎませんかね・・・

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