●第四十七話● 矢を放て!



「っ……‼」



 絶句。

 わけもわからないまま、晴矢ハルヤは無我夢中で綿飴男コットンキャンディ・マンの反対側の腕にしがみついた。

 駆除用作業着『スカイ・ブルー』の特能を滅茶苦茶に発動し、空間を跳び越すように凄まじい速さで綿飴男コットンキャンディ・マンの中へと突っ込む。


【放たれる矢】。

 ――この駆除用作業着『スカイ・ブルー』の初期段階での設計コンセプトは、晴矢が留学先のアメリカで身を守るための護身着だった。

 それにしては、性能が高すぎて保安検査で止められるか、下手すると逮捕されるレベルのものだが、とにかく、それが桜ノ宮女学院に進学の決まった晴夏ハルカ用に転用されたのだ。


 晴矢は、綿飴男コットンキャンディ・マンに向かって突っ込んだ。


「この野郎、深羽みはねを返せ――――‼」


 祈りが届いたのか、それとも駆除作業着『スカイ・ブルー』とブルー・ブランドの性能か――。晴矢は綿飴男コットンキャンディ・マンの胸部深くまで入り込んでいた。

 と同時に、綿飴男コットンキャンディ・マンは、今や全身から蒸気のようなものを発し、ぶるぶると震え出す。

 それでも止まらずに、晴矢はさらに自らを矢として放ち、綿飴男コットンキャンディ・マンの核心部分へと進んだ。

 その手が、なにか温かくて柔らかいものに触れる。


「わ、嫩葉わかば……⁉」


 彼女の名を呼ぶ。しかし、嫩葉は気を失っているようだった。思わず身体を引き寄せたが反応がなく、急いでバイタルサインを確認する。……問題なし。


 晴矢が何とか嫩葉を助け出した、その瞬間だった。

〈イン・ジ・アイ〉が、衛星情報を伝えてくる――高熱反応だ。はっとして内部から上を見上げれば、綿飴男コットンキャンディ・マンの口の中で、深羽みはねが大剣を振るうのが見えた。


「‼」


 生きている。深羽が無事に生きている!

 斎院さや重工の粋を集めた大剣プシューケーが、薄紅色の灼熱に燃え出す。目に見えて、もうそれは、真っ赤に燃え上がっていた。


「――ぃやああああ‼」


 深羽の声が、天高くから晴矢の耳にまで届く――あの大切な少女が、晴矢を呼んでいる気がした。……いや、きっと呼んでいる! 今深羽が呼ぶのは、絶対に晴矢オレだ!


(矢を、矢を放つんだ――‼)


 嫩葉を胸に抱えながらも、晴矢も息を合わせて、なんとかもう一度ブルー・ブランドを振るい、さらに上に向かって『自ら』を矢に変えて放った。


「このまま倒れろ――――‼」


 綿飴男コットンキャンディ・マンを、晴矢の一撃と深羽の大剣が一刀両断する。綿飴男コットンキャンディ・マンは、一瞬にして激しい蒸気を上げた。


 そして、ぐしゃぐしゃの肉塊に……ではなく、熱い雨となって蕩け出したのだった。





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ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


すみません、文字数調整失敗しまして、今回は短く終わってしまいました…。

前話のところで終わったらちょっとモヤるよな…と思って何とか更新しようと思ったらこの時間に! 本日三回更新したので、なにとぞお許しくださいませ。

次回更新はなるべく月曜日までの三日以内には行おうと思いますので、よろしくお願いします。

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