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羊蹄

戸籍もねえ 名前もねえ 食事もそれほど貰えてねえ! 私こんな家いやだ!!(前半)

…ぐぅーーーー…


私のお腹の音が廊下に響く。

お腹をさすろうとしたが、手を動かしても腰のあたりで手錠がガチャリとなるだけだ。


もう3日は飯にありつけていない。しかもその3日前に食えたもんもママの彼氏である顕彰くんが残した食パンの耳だけだ。


私のことはプリンと呼んでほしい。親が名前をつけてくれなかったので勝手に名前をつけた。

ママが好きだとか美味しいだとか言っていたプルプルの名前からとった。

私もママに好かれたいけどおそらく無理だろう。


…顕彰くんがいる限り。


顕彰くんは私とママの家にすでに5年くらいは住んでいる。もうすぐママと再婚する予定らしい。

あいつはいつも、


「お前のいいところは戸籍がないから万が一殺しちゃっても警察にばれねえってところだな。ストレス発散にもってこいだ。」


と言って私をボコボコにする。


あまりにも乱暴に蹴ったり殴ったりしてくるのでおそらく何度か骨を折ってたが、そのおかげで今では慣れて頑丈な骨を手に入れた。


私が殴られている時、ママは


「なんとなくこいつの父親?に似てきてむかついてるからさっさと処理してくんない?」


とけらけらと無邪気に笑う。


ママはきっとあいつに洗脳されているんだ。

絶対そうだ。そうでなければ昔の優しいママが偽物ってことになってしまう。


あいつさえ死ねば私とママの2人でまた幸せに暮らせるはずだ。


噂をすれば顕彰くんがやってきた。


「お前さっき居間のドアこっそり開けてテレビ覗き見してただろ。」


「……。」


事実だから何も言い返せない。私は時々テレビやチラシを盗み見たりして読み書きの練習をしているのだ。漢字は読めないけどひらがなカタカナくらいなら読めるし書ける。


「ごめんなさい。」


「せっかくご飯あげようと思ったのになあ。悪いガキが飯食えると思うなよ?」


顕彰くんはそう言って私の目の前でフライドチキンの骨と野菜の皮が入ったビニール袋をぶらぶら揺らして見せびらかしてくる。


チキンの骨もあんのか…美味しそうだな…食べたかったな…。

まあ今日は諦めるしかなさそうだ。


こうやってテレビを覗き見たことがバレた時や、ママと顕彰くんの私物に触ったときは決まって「お仕置き」が待っている。


「来い!」


手錠を思いっきり掴まれ、物で埋め尽くされた床の上を引きずられていく。

『あの部屋』に連れて行かれるのだ。

変に逆らってもこいつの神経を逆撫でするだけなので、私は全く抵抗しない。


私がいう『あの部屋』というのは一般に物置部屋と呼ばれているような部屋だ。


そこには顕彰くんが仕事場から持ってきた犬用のキャリーケースがあり、私はそこに数日閉じ込められる。

一応毎回水を入れてくれるがずっとこんなとこにいて水だけで生きていけると思ってるんだろうか。


顕彰くんは私をキャリーケースに入れ、


「ここで大人しく反省してろ。」


と吐き捨てると部屋を出ていった。


私は「よっしゃ」と心の中で小さくガッツポーズした。私にとってこれはチャンスなのだ。


あいつは絶対、閉じ込めた私の様子を3日くらいは見にこない。毎回そうだ。

さらに、閉じ込めてるから必要ないと思っているのか手錠をご丁寧に外してくれる。


私はその時間を使って、外に脱走するのだ。

そして顕彰くんが見に来るまでにはこのキャリーケースに戻ってくる。

家に帰らないとママに二度と会えなくなっちゃうからね。


キャリーケースの隙間から指を出し、器用に入り口を開けてケースの外に出る。


そして物音を立てないようにダンボールや季節ものの服の入ったケースを積み上げてよじ登り、工具箱の中のドライバーを使い高い位置にある窓を外す。


そうして窓を開けた私は近くの電柱に飛び移り、住民がいないのを確認して下に降りていく。


やっと外に出れた!


久しぶりだな、外の空気を吸うのは。そんなことを思いながら私はアスファルトの上を裸足で歩いていく。


まずは川の近くに行く。

この辺の河川敷にはコンクリートでできたスペースがあり、橋の下とかにテントを張って暮らしている人たちがいる。そのうちの1人と私は仲がいいのだ。


私は友達のテントの前で呆然として立っていた。

煙が出ている…!?

まさか燃えてしまってんのだろうか。あいつはすぐに死にたがる習性があるからな。


「つるつるのおじさーん!?大丈夫ー?」


つるつるのおじさんというのは、あだ名だ。

貧乏でお家がないのに脱毛器だけはいっちょこまえに持ってて手足をツルツルに保っているから私がつけた。


「その呼び方をやめろと言ってるだろ。」


ビニールシートが捲れておじさんがひょっこり顔を出す。

生きているみたいだ。よかった。

歳は見た感じ50歳くらい。一応お仕事をしてるみたいだが詳しいことを教えてくれない。

テントの中からちょっと美味しそうな匂いがした。


「ご飯分けてくれない?」


「お前いい加減お家から逃げて施設とか行ったらどうだ。」


ぶつぶつ文句を言いながらもおじさんは席を空けてくれた。

魚を焼いているようだ。

煙が出てたのはこれが原因だったのか。



「美味しそー!!」


「だろ??醤油を買ったからかけて焼いてみたんだ。」


おじさんは皿に魚を乗せて私に差し出してくれた。


「食べていい?」


「とっとと食え。熱々のうちがうまいんだよこういうのは。」


私は魚の表面を割り箸でほぐした。

パリッと音が鳴り、中からふわふわとした身が顔をのぞかせた。美味しそうだ。


私は最初、食事を分けてくれたおじさんに気を使って、食レポみたいにはっきりとした感想を言いながら食べていたが、途中で忘れて無我夢中で食べた。


ほんとうに美味しかった。


食べ終えてふと顔を上げるとおじさんがこちらをみている。


「うまいか?」


「すごくうまい。おじさんありがとう!」


「施設とか言ったら毎日熱々の美味しい飯が食えるんだぞ。どうしてご飯をくれない親のとこに居続けるんだ。」


「私がいなくなったらママが悲しいはずだから。」


「…」


「ママは今は私のこと好きじゃないかもしれないけどそれは顕彰くんに洗脳されてるからなの。顕彰くんがもしいなくなった後、私がいなかったらママは悲しむよ。」


「そうか。」


つるつるのおじさんのテントから出た後、おじさんの友達からお菓子をもらってしばらくだるまさんが転んだとかをした後、そのまま私は街に出た。


ママと一緒にお出かけをしてた頃からどんどん街は変わっていってしまっている。

ママが働いていたバーは今ではダーツのお店になっちゃってるし、ママと2人で行ったカフェも、ドラッグストアになってしまっている。


思い出に浸りながら街の端っこを歩いていると、路地裏から啜り泣く声が聞こえてきた。


ちらりと覗き込むと、スーツを着た二人組の男と、髪の長い派手な服装をした女の人がいる。

スーツの男のうちの1人が彼女の髪を掴み、もう1人の男が女の人の腹を執拗に蹴り続けている。


「おろせって言ってるだろ!」


「…おろしたくないです。仕事辞めさせてください…クビにしてください。」


女の人は声を殺して泣きながら痛みに顔を歪めている。


顕彰くんに殴られ続けている自分の姿もこんな惨めなのかな。

そう考えているうちに、私は思わず路地裏に入っていきスーツの男の真横に立っていた


「なんだこのガキ、お前の知り合いか?お前もうすでにガキ居たのかよ。」


女の人の髪を掴んでいる痩せっぽちの男が言う。


「違います!知らない子ですってば!」


女の人はぶんぶん首を振る。


「そうか、お嬢ちゃんどうしたんだい?とっととどっか行ったほうがいいよ?」


腹を蹴っていた太ったスーツの男が女の人から少し離れる。

その隙を狙って私は思いっきりその男の顔面に回し蹴りを入れた。


鼻血を撒き散らしながら太った男がどしんと床に倒れ込む。


「え、あ!?このガキ!!!!」


もう1人の髪を掴んでいた痩せっぽちがこちらに近づいてくる。

女の人が街の方に逃げて行く。

私は路地裏の奥の方に走っていった。女の人と鉢合わせちゃ悪いし、この路地裏は交番の近くまで繋がっているからだ。

この辺の路地裏は知り尽くしている。


「まて!クソガキ!」


必死に追いかけてくるが追いつかれはしない。

すばしっこさなら私は誰にも負けないつもりだ。


「あ、あれ?おかしいな。」


どんなにすすんでも路地裏の出口に辿り着かない。第一、前通った時はこんなに曲がり角はなかった。私は立ち止まった。


「こら待て!!」





「どこ行ったんだ…!」



立ち止まったはずなのに追いかけてくる男の声が小さくなっていく。


「なんで…??」


曲がり角は多かったが分岐点とかはなかったはずだ。

私は振り返って男の姿が見えるまで走らずに待ってようと思ったが、いっこうに男は現れなかった。


「どうなってんの…。」


私は走ってきた道を戻っていったが、行きよりも長く走っても入口に戻れない。


「どうしよう…。」


この路地裏が延々と続くんじゃないかと思い焦ってきた。

早く帰らないと外にいる分だけ外にいたことがバレるリスクが高まる。


それから30分くらい走っていると、もうだんだんと空がオレンジ色になってきた。


「やばい。もう出れないかも。」


そう思いながら曲がった角の先に、女の子が立っていた。


歳は私と同じくらいだろうか。14、5歳くらい。

テレビでも見たことないくらい整った顔をしていて、人形が着てるようなひらひらとした服とセーラー服のあいのこみたいな服を着ているが、その顔や服は真っ赤な血で汚れている。


私は思わず


「…大丈夫?」


と聞いたが、彼女は


「大丈夫だよ。ボクの血じゃないから。」


と言ってニコニコ笑っている。


「そうか、でも服は大丈夫じゃなさそうだな…知ってるよ、そう言う服…コスプレ?の服って高いんでしょ?顕彰く…お父さんが見てた番組でやってた。」


「あはは、これはコスプレじゃないよ!制服っていうか…ボクの仕事着だ。どうせ安物だから心配無用だよ。」


そうなのか…世の中には色々な仕事着があるものだな。


「独特な仕事着だな。目立つでしょ。」


「流石にこれで出歩かないって…まあ見てて?変身!!」


「…」


もしかしてこの子の服についてる血はただの血糊で、この子はただの中二病なんじゃないかと思った時、目の前に知らないお兄さんがどこからともなく現れてトランクを開けた。


なんだこのお兄さん。どこから出てきたんだ。


そのトランクの中はなんとも言い難い色…あえて言うならオーロラ色だろうか、ピカピカと眩しく光っている。


私が思わず瞬きをしたが、目を開けたらもうその少女は私服に着替えられていた。


さっきの服装とはうって変わってTシャツにショートパンツというラフな格好だった。


「す、すげえ早着替え…え?体も綺麗になってる!すごい!」


「すごいでしょ。ボクは株式会社ぴゅあぴゅあ⭐︎魔法少女ズの社員、メグ。都市伝説とかで聞いたことないかな…君はないか…最近ボクは君のことをよく見てたんだけど君はボクらを必要としてるんじゃない?」


私はこの子…メグの早着替えに脳の処理が追いついてない上に、意味がわからないことを言われ、思わず首を傾げた。


「は?」



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