第6話 ネコ耳ガール

 同時接続者数が増えていく。

 それに合わせてコメントも。


〝この子のコスプレ何のキャラ?〟

〝わからん〟

〝知らない〟

〝俺も〟

〝異世界モノは毎月新作が投下されてるからな。そのどれかだろ〟


 SNSのタグを見て来てくれたのだろうか?

 まさかフォロワー実質0の状態から、30人近くも視聴者が集まるなんて。


「んにゃにゃ? ねーねーレオ、」


 シェーラはスマホの配信画面をじーっと見つめると、人差し指で流れるコメントを指さし、


「ここ。ここに見たことない文字? が書かれてるけど、これなんにゃ?」


 と訊いてきた。


「ああ、それはねー」


 数秒悩み、僕は正直に答えることにした。


「実はね、いまここに映っている映像……映像ってわかる? あ、わからないよね。んと、雑な説明すると動く絵のことね」


 映像、と聞き難しい顔をするシェーラ。

 けれども『動く絵』と伝えてみたところ、ピンときたようだ。


「投影魔法みたいなヤツにゃん?」


「僕がその魔法を知らないけれど、たぶんそんな感じのヤツ」


 説明を続ける。


「それでここに映っている動く絵映像だけど、いま遠く離れた場所――僕の故郷にいる人にも見えるようにしているんだ」


「ふにゃ~。それがホントならすっごいことにゃ! 高位の魔術師が使う魔法みたいにゃ!」


 どうやら遠隔地にいる人と交信できる魔法が存在するようだ。

 おかげで理解が早い。


「そして流れているこの文字は僕の故郷の言語で、ここに映る僕たちのことを見ながら感想を言い合っているんだよ」


「感想にゃ?」


「そ。感想。みんなシェーラのことがカワイイってさ」


「え~? カワイイだにゃんて、シェーラ照れちゃうにゃ」


 カワイイと言われ、シャーラは両手を頬にあてもじもじと。

 本気で照れているのか、その頬はほんのりと赤い。

 瞬間、


〝カワイイ!〟

〝にゃーん♡〟

〝言葉が分からないけどカワイイのはわかった!〟

〝ひょっとして照れてる?〟

〝にゃ~ん♡♡♡〟

〝てか主、はよ通訳しろよ〟

〝同意〟

〝完全同意〟

〝見てるか主、ネコ耳ちゃんがなんて言ってるのか通訳よろしく〟

〝あくしろよ〟


 コメント欄に火がついた。

 視聴者のほぼ全てが同時にコメントし、凄い勢いで流れはじめる。


『あ、えっと。いまこちらの彼女――シェーラに、皆さんが『カワイイ』と言っていることをお伝えしたところです』


〝ネコ耳ちゃんはシェーラちゃんてゆーのか〟

〝ハロー、シェーラ。お国はどちら?〟

〝ネコミミノ名前、シェーラ。オレ、オボエタ〟

〝海外レイヤーはアカウント探すのムズいんだよなー〟

〝イエーイ! シェーラちゃん見てるぅ?〟


 視聴者数同接は35。

 人気配信者に比べれば木端もいいところだけれど、同接が少ないマイナー配信者だからこそ盛り上がることもある。

 いまの僕の配信がまさにそれだった。


 なにこれ?

 とても楽しいんですけど。


〝シェーラちゃんはなにしてる子なの?〟

〝そんなのコスプレでしょ〟

〝コスプレに決まってるだろ〟

〝バッカお前ら。お前らバッカ。チャンネル名が『異世界お兄さん』なんだぞ? ならシェーラたんは『異世界お姉さん』に決まってるだろ〟

〝純粋なヤツがおるwww〟

〝ピュアかよw〟

〝でも町並みすげーファンタジーしてるけど、どこで撮ってるんだろ?〟

〝そりゃお前、リアルタイムで生成A……おっと、誰か来たようだ〟


 視聴者はシェーラが何をしてる子なのか気になっている様子。

 ついでに訊いてみますか。


「ねぇシェーラ」


 スマホに向かって手を降ったり、ポーズを取ってみたりしているシェーラの肩をぽんぽんと。


「んにゃ? なーにレオ?」


「みんながシェーラはなにしている人なの? だって。その、仕事とか」


「仕事にゃ? シェーラは冒険者だよ」


 冒険者頂きました!!!

 これぞザ・異世界。

 僕は君のような存在を待っていた。

 さっそく視聴者に向かってシェーラが冒険者であることを伝える。


〝冒険者www〟

〝冒 険 者 !!〟

〝俺が冒険者だ〟

〝ワイも冒険者や〟

〝冒険者さんチーッス〟

〝ほらな? やっぱ異世界お姉さんだったろ?〟

〝ピュアくんしつこいなw〟

〝ピュアッピュアかよwww〟


 反応は上々。

 視聴者数はもう伸びていないけれど、却ってそれがクローズドなコミュニティ感を出していた。


 シェーラの言葉を視聴者に伝え、視聴者の言葉をシェーラに伝える。

 そんなやり取りを何度か繰り返していると、


「おーいシェーラ。なにしてんだ? そろそろ仕事に行くぞー」


 通りの向こうから、赤髪の青年がシェーラを呼んだ。

 青年は鎧を身に着け、背には剣を差している。

 そして背後には神官の格好をした虎人間や、杖を持つ女性魔法使い、それに10歳ぐらいの女の子までいた。

 彼、彼女らはもしかして……


「あ! 仲間が呼んでるにゃ。じゃあ、シェーラ行くね。ばいばーい」


 シェーラを呼んだのは冒険者仲間パーティメンバーだったようだ。

 仲間と合流したシェーラは、最後に一度だけこちらを振り返り、


「じゃーねーレオ! また会えたら話そうねー!」


 ぶんぶんと手を降ってくれた。

 お仲間の赤髪の青年も、「仲間が迷惑かけたな」とばかりに僕に向かって片手をあげる。


 かなりのイケメンだ。

 もちろん、その様子をバッチリカメラに収めていたから、


〝シェーラたんの仲間?〟

〝あの赤い髪のお兄さん、かっこいい……〟

〝実は私もタイプ〟

〝俺も///〟

〝シェーラちゃんの彼氏かな?〟

〝シェーラならいま俺の隣で寝てるよ〟

〝まだカメラに映ってるだろwww〟

〝てか五人とも衣装の作り込みヤバない?〟

〝一人なんか虎人間だぜ〟

〝ハリウッド仕込の特殊メイク?〟

〝主ってば演出にこだわり強すぎだろwww〟

〝だから言ったろ? シェーラたんは異世界の子だって〟

〝ピュアさんwww〟

〝もうピュアさんはそのままピュアでいてくれwww〟


 コメント欄が賑わっている。

 視聴者数は35のまま。

 けれども、その全員がコメントをしてくれていた。


 配信を切り上げるタイミングとしては、いまがベストかな?


「ではシェーラが仲間と共に冒険へ旅立ったところで、本日の配信を終えたいと思います。よかったらチャンネル登録をお願いします!」


〝おつ〟

〝乙〟

〝お疲れさん。久しぶりに楽しい配信に出会えたぜ〟

〝次シェーラたんに会えるのはいつですか?〟

〝ピュアさんwww〟

〝画面越しにピュアさんの圧が伝わってくるw〟

〝次ピュアさんに会えるのはいつですか?〟

〝とりあえずチャンネル登録しといた〟

〝俺もしといた。あとSNSもフォローしとくね〟


「ありがとうございます! それでは、またお会いしましょう。異世界お兄さんの玲央でした!」


 カメラをオフにする。

 高揚感で、ずっと心臓がドキドキしているぞ。


「……すっごく楽しかった」


 こうして僕は、配信デビューを果たしたのだった。

 そしてこれが後に『伝説の配信者』とまで呼ばれる、はじまりの配信だった。

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