ラブオークションの落札額マウント

ちびまるフォイ

愛の利益

「ねえ、ダーリン。私のこと好き?」


「もちろんだよ。マイハニー」


「どれくらい?」


「ハニー。愛の大きさは測れないよ」


「だいたいでいいから」


「きっと、君が僕への愛よりも、僕は君を愛しているよ」


「まあ、ダーリン。それは嘘よ。私のほうが好きだもん」


「ハニー。君は僕がどれだけ君を好きなのか理解してないね」


「あなたこそよ、ダーリン」


「ハニー」

「ダーリン」


「ハニー!」


「ダーリン!!」



「ああ、だったら白黒決めようじゃないか!」


「ええそうね!! どちらの愛が大きいか決めましょう!!」



かくして、ふたりはラブオークション会場へと足を運んだ。


「いい? ダーリン。ここでお互いの愛を査定して

 金額が高いほうの愛が深いはずよ」


「なるほど。わかった」


「でも、あなたの愛が私の愛に勝てるはずないわ。

 男はいつだって浮気性。私の一途な重いに勝てっこないわ」


「オーケー。そう思うんなら、先に君からラブ査定してくれ」


「私の金額が高いからって、途中で逃げないでよ」


まずはハニーの方のラブが出品された。

オークション支配人が観客に向けて話し始める。


「では、出品者ハニーさんのこれまでの愛情を見ていきましょう!」


会場の巨大スクリーンにはハニーがダーリンに対し、

どういったことをしてきたのかハイライトで流れた。


その愛情の深さに会場の人たちは涙を流し、映像が終わると拍手が自然を沸き起こった。


「さあ、それではハニーの愛情について落札額を決めましょう!」



「100万円!」


「150万円!」


「180万円!」


「200万円!!」


次々に札があがる。


「ほかにいませんか!? いませんね!

 はい、では落札! ハニーの愛情は200万円相当です!」


様子を見ていたハニーは勝ちを確信した。


「どう? 私はダーリンにこれだけの愛情を注いだわ。

 これはもう私の勝ちね。負けを認めれば許してあげるわ」


「まだ俺の愛が出てないじゃないか」


「ふふ。見るまでもないわ。

 あなたはせいぜい大好きな"マジモンカードゲーム"でも遊んでいるといいわ」


「目にもの見せてやる」


会場では次のラブが持ち込まれた。



「さあ、次に来ましたのはダーリンのラブです!

 どれだけハニーに対して愛を注いできたのか見ていきましょう!」



会場のスクリーンに、今度はダーリンの愛の足跡が映し出された。


彼女と同様に愛を注いでいる場面はいくらでもあったが、

それ以上に表に出さない水面下の努力もつまびらかにされた。


見ている人も、その言葉や態度で出さない「押し付けがましくない愛情」に目を奪われた。


「な、なんて深い愛情なんだ……!」

「けして見返りを求めない無償の愛……!」

「これこそ本物の愛だ!」


「では、落札額をお願いします!」



「150万円!」


「200万円!」


「400万円!」



「1000万円!!」



「他にいませんか!? 大丈夫ですね!?

 はい! ダーリンの愛情は1000万円に決まりました!!」


その様子を見ていたハニーは言葉を失った。

現実を受け入れられないハニーに対し、ダーリンが告げる。


「どうだい? やっぱり僕のほうが愛が深かったようだね」


「うそ……そんな……」


「僕は君ほど"好き"とか言葉にして連発するわけでも

 形に残るようなわかりやすい愛情表現をするわけでもないが

 それでも君のことを君以上に好きだってわかってもらえたかな」


「ち、ちがうわ! 私は負けてない!」


「ハニー。まだそんなことを?

 さっきの結果を見ただろう? 君の愛の価値のほうが低かったじゃないか」


「いいえ、あれは公平じゃないわ!」


「負け惜しみは見苦しいよ、ハニー!」



「だって、私のラブは前に一度出品しているんだもの!!」



「……なんだって?」


よく意味がわかっていないダーリンに対し、ハニーはそっとプレゼントを差し出した。


「ダーリン、今月誕生日だったでしょ……?」


「は、ハニー……!」


「どうしてもこれをプレゼントしたくて。

 でも手持ちじゃ足りないから、私はラブを出品してお金を作ったの」


プレゼントを開けると、中にはぴかぴかのマジモンカードゲームが入っていた。


「ハニー、これは今どうひっくり返っても手に入らないレアカードじゃないか!」


「前にほしいって言っていたでしょう?」


「たしかに言ったけど……。いったいどれだけ愛を失ったら……」


「800万円ぶんのラブを失ったわ。

 でもいいのよそんなこと。愛はまた時間が経てば増えるもの」


彼女の愛の深さと同時に、オークションの査定額を聞いてハニーにデカイ顔したダーリンは赤面した。


「ハニー。君は自分のラブが出品により削られて

 それでもなお勝負に乗ってくれたのかい?」


「私の愛の査定額がどんな金額であってもいいの。

 私はあなたに喜んでもらえるならそれでよかったの」


「ハニー、君は最高だよ」


「ダーリン……! どこが最高なのか言葉にして///」


ハニーはうっとりした目でダーリンを見つめた。

ダーリンはよどみなく答えた。




「このレアカード、今出品すれば800万以上の価値になるところさ!」

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