三の浪 病の村②
②
とりあえずは手を洗う習慣? あと糞尿の処理かしら?
だったら上下水道、は作ろうと思えば作れるけれど、さすがに時間が掛かりすぎる。
「そういえばこの村、井戸はどうなってるのかしら?」
「いくつかあったよね。この家の近くにもあった気がする」
「行ってみましょうか」
という訳で、村の中をぐるり。
途中、遊んでいた子どもたちが集まってきた。彼らは畑仕事を手伝うには幼すぎるようで、この時間は遊びまわっているみたい。夕方には帰って家族の手伝いをするって言っていた。
とりあえずチョコを配っておく。
「アスト、何?」
「いやぁ?」
く、つい緩んでしまう口元が恨めしい。子どもが好きなのは否定しないけれど、そうやって
「ん? アストと遊びたい?」
ふと気が付いたら、女の子がアストをじっと見つめていたから聞いてみた。亜精霊のことは知らないようで、ちょっと変わった猫くらいに思っているのは先ほどまでの会話で分かっていることだ。
「うん!」
あら、いい笑顔。
「だって、アスト」
「まあいいけど、ってうわっ!? 尻尾はダメだって!」
おーう、他の子たちも集まってもみくちゃ。うん、さっき変な視線を向けられたし、このまま放置しよう。助けを求める声も視線も気付きません。頑張って。
アストが漸く解放されたころ、いくつかの井戸を回り終えた。アストに群がらなかった子たちが案内してくれたから、案外で早く済んだ。
井戸はどれも竪井戸で、石で回りを補強しながら垂直に掘っていった形式のもの。ゲームの影響か、よくイメージされる形だと思う。けっこう深く、釣瓶と桶を使ってくみ上げているみたい。子どもたちにとっては不人気な仕事ランキングで上位に入る位大変らしい。
んー、これは、手洗いの習慣を付けてもらうには邪魔ね。魔道具を作ってポンプ式に変えてしまおう。作り方は井戸から多重に検索していけば見つかる筈。村人たちでも管理できるものを探さないと。
勿論、村長さんに許可を取ってから。
上水はこれでいい。次は糞尿の処理。
今使われているのは所謂ぼっとん便所で、穴がいっぱいになる前にくみ上げて村の外れに纏めて埋めているらしい。饐えた匂いはこちらが主で、病人のそれはおまけだったって事みたい。
こちらの解決は簡単。多くの町で使われている方式がある。
「この辺にスライムっている?」
「すらいむ? なにそれ? 可愛い?」
「ん-、まあ、見ようによっては?」
アスト、そんな驚天動地を全力で表現した表情はしなくていいのよ? 大丈夫、アナタの方が百倍可愛いから。
それは兎も角、この辺りにはいなさそう。あとでサクッと捕まえに行こう。そうしたら、あとはそのスライムたちを各家のおトイレにぽいするだけ。勝手に分解してくれる。
どういう仕組みなのか、物質同士の結合エネルギーを吸収しているみたいで、原子レベル、下手をすれば素粒子レベルまで分解してしまうのがスライムだ。そのスピードは非常に緩やかで力もないので、子どもでも影響が出る前にするっと抜け出してしまえる。知能も殆どない、本能のみで生きている原始的な生命体だし、危険は無い、らしい。
まあ、私が村の設備に手を出すならこの程度までかしら? 野菜のお礼っていうことで。
実際に作るのは明日からね。一つ作ってみて、村長さんに許可をくれないか交渉する。
さて、日も高くなってきたし夕飯用のお肉でも狩りに行こう。これ以上村の食糧を私が食いつぶす訳にはいかない。
昼下がり、獲物の血抜きをしている間、暇なので子どもたちに読み書きを教える。青空教室だ。先生役の楽しさを覚えてしまったから、これも私の為だ。子どもたちよ、私の欲求を満たす為の生贄になりたまえー。
なんて思っていたら、いつの間にか大人たちまで混ざっている。この時間は大人も暇しているみたい。まあ全然いいのだけれど、さすがに大変。魔導で空中に文字を書けば黒板を使った授業のようにはできる。でも、一人一人を見るには私が慣れていなさすぎるのだ。
「アスト、アナタも共通文字ならわかるでしょ。手伝って」
「りょーかい。ちょっとしてみたかったんだ、先生役」
あら、楽しそう。二尾をユラユラ振っちゃって。猫が人に教えている姿は何だか微笑ましいし、そういう意味でもナイス判断だったかもしれない。目の保養だ。
しかし、これだけ学習意欲があるなら流行病の薬ぐらいは作れるようになるのでは? 用量の判断が難しい?
ん-、この世界の人間になら、安全ラインを厳しめに考えた基準の量と滋養強壮剤の併用でゴリ押せる気がする。ちょっと既存の薬を買ってきて調べてみる?
よし、そうしよう。ああ、魔道具も試作しないと。やる事がたくさんね。
日本人だった頃はやる事が多いのを煩わしく思っていたけれど、今は何だか、楽しい。やりたい事をやっているからなのかしら?
まあ、何でもいいか。この世界には、前世程しがらみも無いのだし。
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