第93話 開戦の一撃
リリアとガレルのお陰で、堂々と助けに来れるようになった私達は、帝国軍がいるっていうサーシエのど真ん中に、ブレイドラの力を借りて飛んできた。
今回は、本当に傭兵団全員。普段は拠点から動かないカリアさんまで引き連れての戦い。
こんなにたくさん、ブレイドラに乗れるのかな? って心配だったけど、アマンダさんがブレイドラの魔力で、空間収納魔法? っていうのを強引に発動させて、全員連れて来れるようにしたみたい。そのせいか、ブレイドラはヘロヘロだけど。
でもそのお陰で、クロとも無事に合流出来たし……みんなで戦うのは初めてだから、ちょっとワクワクしてるって言ったら、不謹慎かな?
でも、そう思ってるのは私だけなのか、すぐ近くにいた帝国の人(?)は、私達を見て笑い始めた。
「ふははは……! “紅蓮の鮮血”、仲間が一人出張っている以上、いずれは戦うことになるとは思っていましたが……まさか、たったそれだけの人数で、国を一つ相手取るつもりですか?」
グレゴリーさん、ネイルさん、ラスター、アマンダさん、カリアさん、グルージオ、ガバデ兄弟の三人に、コーリオ、リリア、クロ、それから私。全部で十三人。
対して、帝国の人は……ええと、数え切れないくらいたくさん。ちょっと分からない。
「ふん、戦いは数ではない、質だ!!!! 貴様らごとき、俺達だけで十分だということを教えてやろう!!!!」
「おいおい団長さんよ……簡単に言ってくれるが、本当に何とかなんのか……?」
足を引き摺りながら私達のところに来たクロを、私が慌てて介抱する。
私というか、プルンの力だけど。足に絡み付いて、傷付いた箇所を癒していく。
「そうだな、ここ最近で新入りが随分と増えたことだし、この俺自ら、大人数相手の戦い方の基本というものを教えてやろう!!!!」
クロを治してる間にも、周りにいる帝国軍がどんどん私達を取り囲み、武器を構えていく。
空の上にはブレイドラがいるけど、ここに来るまででもうヘロヘロだし、今回はこれ以上役に立たない。
自信満々なグレゴリーさんに、どうするつもりなの? という気持ちを込めて視線を送ると……ぶわっと、今まで生きてきた中で一番大きくて力強い魔力が、爆発したみたいに広がった。
「良いか、敵の数が多い時は、出し惜しみなどいらん。最初の一撃で、敵の戦意を全て折り砕け!!!!」
ごうごうと渦を巻く魔力が、グレゴリーさんの掲げた拳にどんどん集まっていく。
まるで太陽を直接見ているかのような灼熱の輝きは、眼が潰れちゃいそうなくらい痛いのに……あまりにも神々しいその光から、目を逸らせない。
「しっかりと目に焼き付けておけ、ガキ共。これが、お前達の前にいる男の力だ!!!!」
太陽が、落ちてくる。
グレゴリーさんが拳を地面に向けて振り下ろした瞬間、冗談抜きでそう錯覚した。
「《
地面が、一斉に吹き飛んだ。
私達のいる場所だけ無事なのは、グレゴリーさんがそうなるように加減したこともだけど……ネイルさんとアマンダさんが、私達を守るように結界を張って、守ってくれたことが大きいと思う。
そうじゃなかったら……少なくとも、私とリリア、それからクロは無事じゃ済まなかった。
辺り一面、焼け焦げた大地と水気が飛んだ乾いた空気しかなくなった光景を見て、私はそう思う。
「すごい……これが、グレゴリーさんの……団長の力……」
私達を取り囲んでいた帝国の人は、全員が消し飛ぶか吹き飛ぶかして、大きく数を減らしてる。
距離があったお陰で何とか無事な人達も、完全に腰が引けてて、さっきみたいな殺気は全然ない。
戦意を折り砕けって、こういうことなんだって、頭じゃなくて心で理解した。
「今の感じ、指揮官っぽいやつは逃げたかね? 流石に団長と戦えば無事じゃ済まないってことは理解してたみたいだねえ」
「当然さね、グレゴリーに勝てる人間なんざこの世にはいないさ」
「“人間は”、ですけどね……」
アマンダさん、カリアさん、ネイルさんが続けて発言し、何やら意味深なことを口にする。
人間はって、グレゴリーさんでも勝てない魔物でもいるのかな? 正直、ブレイドラよりずっと強いと思うんだけど。
そう考えていたら、私はラスターにポンと背中を押された。
「団長のところに行ってやれ。ミルクの力が必要だろうからな」
「???」
どういう意味だろう、って首を傾げながら、私はグレゴリーさんのところに行く。
なぜか、拳を振り下ろした格好のまま固まっているグレゴリーさんの顔を、下から覗き込んでみると……すごい脂汗をかきながら、苦痛を堪えるように顔を歪めていた。
「すまん、ミルク……今の一撃で、持病のぎっくり腰が……た、助けてくれ」
「…………」
ネイルさんが言ってた、団長でも勝てない人間以外の存在って……腰痛だったんだ……。
ぷるぷると震えるグレゴリーさんを見て、私はそれを理解した。
「さて、団長がこんな状態ですが、出足は好調と言えるでしょう。先程の指揮官以外にも、腕利きの人間は複数いるでしょうが、各自自己判断で戦ってください。救援が必要な場合は、無理せず即座に退くように」
「ヒャッハァーー!! ついにオレ達の力を見せ付ける時が来たぜェ!!」
「戦果一番はオラが頂くでヤンス!!」
「ウェヒヒヒ!!」
ネイルさんの話を聞いていたのか、若干怪しいガバデ兄弟がいの一番に突っ込んでいく。
それに応じて、他のみんなも動き出した。
「さて、行くか。ミルク、団長とクロのことは頼んだぞ」
「危ないと思ったら空にいるアイツに炎でも吐かせな、すぐに助けに来るからね」
「うん、ラスター、アマンダさん、行ってらっしゃい」
「俺も……行ってくる。ミルク……待っててくれ」
「私も久々に全力でやるよ!! 全部終わったら宴会だ、ミルクも楽しみにしてな!!」
「グルージオ、カリアさんも、がんばって」
そんな感じで、みんなをどんどん送り出していくと、ここに残ったのは私とグレゴリーさんとクロ、それにリリアとコーリオだけになった。
「さて、私も“数”を補う役として奮戦するとしましょう。リリア、吉報を待っていてください」
「うん……パパ、行ってらっしゃい……」
コーリオもいなくなって、あっちこっちで戦闘の音と、帝国の人達の悲鳴が響き渡る。
……戦うつもりでついてきたけど、もしかして私、いらなかったかも?
「リリア、私達はみんなが休むところを作ろっか」
「うん……頑張る……!」
戦場に来たはずなのに、なぜかのんびりとした空気の中、残った私達はいそいそとテントを張りつつ、グレゴリーさんをそこに収容するのだった。
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