第33話 広がる誤解
ラスターに連れられて、私は“鮮血”のみんなが密かに仮拠点として買収したっていう、デリザイア侯爵領の廃倉庫にやって来た。
なんでも、地元でこっそりと活動している傭兵達に紹介して貰ったとかで、倉庫なのに一通りの生活物質が揃ってるのが魅力なんだって。
「ミルク……痛い目に遭わされてるんじゃないかとは心配してたけど、まさかそんなことになってたなんて……!! 安心しな、あのクズ侯爵はアタイらがブチ殺してやる」
「え、えーっと……?」
そんな仮拠点でみんなと再会した私は、ラスターの説明を聞いたアマンダさんに抱き締められていた。
二人以外にも、私のためにわざわざここまで来てくれたっていうネイルさんや、ガル達三兄弟まで怒っていて、当事者であるはずの私が一番話についていけてない。
「幸いというべきか、何をされたのかミルク自身がまだ理解出来ていないのが救いですね。それも、今だけでしょうが……」
「団長ォ!! オレァもう我慢出来ねえ!! 今すぐ殴り込みに行かせろォ!!」
そうだそうだと、バルとデルも追従してる。
それに対して呆れ顔を向けるのが、私にとって初対面となる“鮮血”の団長……グレゴリーさんだ。
「少しは落ち着けガキども!! こいつがそんな酷い目に遭ってまで集めてきた反撃のための材料を、お前達自身の手で無に帰すつもりか!!」
「「「ぐぐぐ……!!」」」
団長の一喝で、ガル達が本当に黙り込む。
私が、本当はもっと早く逃げ出せたのに、侯爵様の悪事の証拠を掴むためにわざと捕まってたという話は、もうしてある。
怒られるかと思ったんだけど、それを聞いて余計にみんな私を心配し始めたから、本当によく分からない。
「それで、お前はミルクと言ったな」
「う、うん。みんなには、お世話になってます」
ギロリと、団長の鋭い視線が私の方に向く。
すっごく怖いけど、放たれてる魔力はすごく優しい。
「よくやった。お前はお前の果たすべき役割を十全にこなしたんだ、後は任せろ」
「……ありがと」
ガシッと頭を掴まれて、そのままわしゃわしゃと撫でられる。
私の頭がすっぽり収まっちゃうくらい大きな手で揺すられて、目が回るかと思ったけど……これはこれで好き。
やっぱり、この場所は全部温かい。
「ネイル、ミルクが集めてきた証拠の精査にどれだけかかる?」
「まだ続々と集まってきていますから、予想でしかありませんが……今日中には纏めてみせましょう」
今、分裂したプルンが持ってきた証拠の書類が次々とここに運び込まれてきて、ネイルさんの臨時の作業机の上に積み上げられている。
ネイルさん自身が埋もれちゃいそうなくらいの量だけど、いつもみたいに疲れた様子はない。
これまで見たこともないくらい真剣な顔で断言するネイルさんに、団長が大きく頷く。
「よし!! ならば証拠が出揃い次第、伝手を使って西部貴族や王家に情報を流し、こちらの味方に付ける。それが成功したら、もう構うことはない。……お前達の力、変態貴族に存分に叩き込んでやれ!!」
「「「ウオォォォォ!!!!」」」
全員で雄叫びをあげ、倉庫全体がビリビリと震える。
その威圧感にぞくぞくしながら、私もがんばろう、と鼻息を荒くしていると……アマンダに、ひょいと抱き上げられた。
「ミルクは体を休めるのが仕事だよ、戦いはアタイらに任せて、取り敢えず風呂にでも入ろうか」
「え……でも……」
「さっき団長も言ったろう? アンタはもう十分仕事をした、これ以上は働きすぎってもんさ。それに……」
なんで倉庫の中にこんなものが? って言いたくなるくらいちゃんとしたお風呂に、アマンダさんと一緒に向かう。
脱衣所で私を降ろしながら、アマンダさんはにっこりと笑う。
さっきの団長とは正反対の、優しい顔の裏に激情を滾らせたその表情にビクッとなる私を、アマンダさんはそっと撫でた。
「みんな、本気になった自分をミルクにはあまり見られたくないのさ。そんなにカッコいいもんじゃないからね」
「……? みんな、カッコいいよ?」
「そう言ってくれるのはミルクだけさ」
服を脱いで、裸になったアマンダさんとお風呂に向かう。
侯爵家のお風呂を見た後だと、どうしても小さく見えるけど……こうやって、大好きな人とすぐ近くで一緒に入れるから、やっぱり私はこっちの方が良い。
寂しかった時間を埋めるように、アマンダさんの胸に頭を載せると、またゆっくりと撫でてくれる。
「それに……これは、アタイらの我が儘だけどね。やっぱり、アンタにはアタイらみたいにはなって欲しくないのさ」
「……??」
「アタイらは日陰者だからね。ミルクみたいな良い子には、真っ当な道に進んで欲しいのさ」
アマンダさんが何を言っているのか、私にはよく分からない。
分からないけど……これだけは言える。
「なら、私が……みんなのこと、お日様のところまで連れていってあげる」
みんなが今、日陰にいて、私にはそこへ来て欲しくないなら……私はみんなと一緒に日向へ行きたい。
どんなに私一人が恵まれた所にいても……みんながいなかったら寂しいだけだって、分かったから。
「だから……無理しないでね。みんながいなくなるのが、一番悲しい」
「ミルク……ああ、分かってるよ」
アマンダさんが、私をぎゅっと抱き締める。
そのまま、そっと囁くように言ってくれた。
「こんなの、アタイらにとっちゃ遠足みたいなもんさ。すぐ終わらせて帰るから、良い子で待ってな」
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