第27話 捜索開始
「ミルクがいない……? どういうことだい!!」
「町で逃げ遅れた者の救助活動をしてくださっていたのは把握しておりますが……その後の動向が分からず……」
炎龍との激闘を乗り越えたアマンダとラスターの二人は、住民達が避難した町外れの平原にやって来た。
そこで男爵から聞かされたのは、ミルクの行方が分からないという情報である。
その話にまずブチギレたのが、アマンダだった。
炎龍との戦闘で全身ボロボロになり、頭から血を流しながらも一切衰えない覇気で以て詰め寄る姿は、当然ながら恐ろしい。
男爵のみならず、周囲の避難民達も震え上がる中、真っ先に彼女を止めたのがラスターだった。
「落ち着け、アマンダ。まずはその血を止めろ、そんなんじゃ話したくても誰も話せん」
「ちっ、それどころじゃないってのに、血ぐらいでいちいち面倒だね」
その場の誰もが、「血ぐらいというには大怪我過ぎないか?」と思ったが、口には出さない。
そんな空気の中で、ラスターが一歩前に出た。
「誰か、ミルクを……白髪の獣人の女の子を見ていないか? 何か知っていたら教えて欲しい。俺達の仲間なんだ、頼む」
誠心誠意頼み込むラスターだったが、人々の反応は鈍い。
何せ、今のラスターは戦闘のため、普段巻いている顔の包帯を解いているのだ。
グールかと見紛うほどに爛れた顔面が露わとなっており、更にアマンダに負けず劣らずボロボロの風貌。威圧感でいえば、今のアマンダよりも上である。
普段なら、こうして恐れられるのにも慣れているが、状況が状況だけに焦りが募った。
「あ、あの……」
「ん?」
そんな時、ラスターの足下に小さな女の子が近付いて来た。
ミルクと同年代の幼い女の子は、おっかなびっくりという様子ではあるが、精一杯の勇気を振り絞ってラスターにとある物を差し出す。
「獣人の、女の子……私、その子に助けて貰ったの。これ、その子から貰って……」
「そいつは……プルンの分裂体か!」
差し出された青い粘性体を見て、真っ先に反応したのはアマンダだった。
それを受け取る二人に、女の子は泣きそうな顔で心境を吐露する。
「お姉さん、お兄さん……あの子の仲間なんだよね? お願い、あの子を助けてあげて……! 私、まだ、名前も……お礼だって、ちゃんと出来てないの!」
「……ああ、当然だ」
「言われるまでもないよ」
名前も知らない女の子に、二人は大きく頷き返す。
そのやり取りを切っ掛けに、避難した人々の中から次々と声を上げる者が現れる。
「その子なら、俺のことも助けてくれた。足を怪我して動けなかったところにやってきて、スライムを使ってここまで運んでくれたんだ」
「私の子供も、瓦礫に押し潰されそうになってるところを、助けてくださって……!」
「最後に見た時、あの子は広場の方へ向かうと言っていた。何かあったとすれば、そこだと思う」
「俺、見たぞ! 広場の方でバリバリって、すげー雷が光ってるの!」
全体からすれば、声を上げた人は決して多くはない。
当然だ、いくらミルクがプルンの力で多くの人手を担えると言っても、やはり個人で出来ることには限度がある。
にも関わらず、その僅かな人々の声と熱量は、次々と他の避難民達にも伝播し、大きなうねりとなっていく。
「ミルクってーと、あれか。ここ数日町で見かけることが多かった、あの」
「ああ、あの子かい。覚えてるよ、うちの商品を美味しいって、とびっきり可愛い笑顔で食べてくれたんだ」
「外で掃除してたら、少し手伝ってくれたりもしたな……」
「その子、今行方不明なんだって?」
「大変じゃないか。なあ、龍の脅威は去ったんだろ? ならみんなで捜索しよう、もしかしたら、どこかで怪我をして動けなくなっているのかもしれない」
ミルクが積み上げてきたほんの些細な信頼が、この一大事の中で確かに芽吹き、人々の心を突き動かしている。
その光景に、ラスターとアマンダは苦笑を浮かべ、あるいは肩を竦めた。
「敵わないな、ミルクには」
「ああ、全くだよ」
二人は傭兵で、しかも悪名高き“紅蓮の鮮血”のメンバーだ。
詳しい者は恐怖に怯え、そうでなくともその苛烈な戦いぶりや流れてくる噂話への畏れから距離を取る。それが普通だ。
だが、ミルクはこの僅かな期間の間に、町の人々と交流し、こうして心配されるまでになっている。
ラスター達には決して真似することが出来ない、ミルクならではの素質と才能。
それは紛れもなく、今の“鮮血”にとって何よりも優先されるべき貴重な能力だった。
「廃墟になった町の捜索は、コイツらに任せようか。代わりに、アタイらはコイツの力で探してみよう」
「スライムの力?」
「ああ、さっき分裂体だって言ったろ? コイツは命令を果たすと、勝手に元の本体に戻ろうとする習性がある。今もミルクがプルンと一緒にいるかは分からないが……手掛かりとしては十分だろう」
当然、アンタも助けに行くよな? と、アマンダからの無言の圧がラスターを襲う。
そのあまりの形相に、ラスターは苦笑を浮かべる。
そして、一気に表情を引き締めると、アマンダへと大きく頷いてみせた。
「行こう。手掛かりが潰える前に、必ずミルクを助け出す。もし仮に、誰かが意図的にミルクを嵌めて傷つけたんだとしたら……」
いつも通りの澄まし顔に、激烈なまでの怒りを滾らせながら。
「“鮮血”の身内に手を出したんだ、必ず報いを受けさせてやる」
こうして、龍との戦闘でボロボロだった二人は、それを感じさせないほどの覇気と使命感を胸に、ミルクの捜索を始めるのだった。
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