第4話 ガバデ三兄弟
「はあ……どうしてこうなった……」
伯爵様のお屋敷から出たラスターは、私の手を引きながら溜め息を溢した。
本当に困り果ててるのが分かるから、余計に申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい……」
「ミルクは何も悪くない、気にするな」
「でも……」
「どうしてもって言うなら、あー、そうだな……俺達の拠点に戻ったら、家事を手伝ってくれ。戦いしか頭にない連中ばっかりだから、みんな困ってるんだ」
「あ……うんっ!」
精霊眼? っていうのを上手く使えるなら、もっと役に立てたのかもしれないけど……私には、何のことかまだよく分からない。
だから、それ以外にもお仕事があるなら、がんばって役に立ちたい。
また、ラスターに撫でて貰いたいし。
「というわけで、仲間と合流して王都に戻らなきゃならないんだが……あいつら、大丈夫だろうな……?」
「なかま?」
「ああ。俺のいる傭兵団……“紅蓮の鮮血”の仲間だよ。ただ、気を付けろよ、問題児ばっかりだからな」
「ラスターの兄貴ぃ!! 後片付け終わりやしたぜヒャッハーー!!」
ラスターと話し込んでいると、町中に響いたんじゃないかってくらい賑やかな声がどこからともなく聞こえてきた。
声のした方に振り向くと……なんだろう、すごい見た目の三人組が、こっちに向かって走ってきている。
大中小、綺麗にサイズが別れた男達。
トゲがたくさん生えた防具……防具? を肩につけてるけど、なぜか胸やお腹周りは剥き出しで、ムキムキの筋肉が隠すことなくさらけ出されている。
小さい方から順番に、ナイフ、素手、大きなハンマーと武器はそれぞれ違うけど、纏う魔力はそっくりで、もしかしたら兄弟なのかなって思った。
おっきく開いた口からは、金属の輪っかがついた舌が出てきてるけど……あんなのつけて、痛くないのかな? 耳にもいっぱい輪っかがついてるけど。
そんな彼らを見て、ラスターはそれはもう分かりやすいくらいガックリと肩を落とした。
「お前ら、少しは落ち着くってことが出来ないのか? ここは町のど真ん中だ、少しは周りの迷惑を考えろ」
「ウェヒヒヒ、何言ってんだい兄貴ィ、だから普段より大分大人しくしてんじゃねえか、なァ兄弟……!!」
「おぅよ!! オレらの本気はこんなもんじゃねえって、ラスターの兄貴はよく知ってるはずだぜイェーー!!」
「オラ達は鮮血の一番槍でヤンスからね、猪のように走り続けないと死んじまうでヤンス!」
「猪でも止まる時は止まるわ!! 全く……すまんな、ミルク。変な奴等で」
「ううん。悪い人達じゃないみたいだし……」
申し訳なさそうにするラスターに、私は気にしてないと首を横に振る。
見た目は怖い人達だけど、魔力は穏やかで怖くない。それに……。
「ラスターに、がんばったのを褒めて貰いたいって気持ちは、私にも分かるから」
この人達からラスターに向けられる魔力は、明らかに“大好き”っていう感情がこもってる。だから、きっとたくさん褒めて欲しくて派手に動いてるんだよ。
そう伝えた途端、ラスターはポカンと口を開けたまま固まり、三人の男達は目に見えて動揺し始めた。
「な、ななな、何言ってんだァこのガキは!? お、オレ達がそんな、褒めて欲しくて騒ぎ立てるようなガキに見えてんのかアァン!?」
「オラ達はただ、アレでヤンス……ただ騒ぎたいから騒いでるだけなんでヤンス!!」
「ウェヒヒヒ、つーかおめぇ……さっきラスターの兄貴が助けてたガキだな? なんでまだここにいるんだァ……?」
脅すみたいに顔を詰めて来るけど、真っ赤な顔とそれ以上に分かりやすい動揺の魔力を見れば、照れてるのは言われなくても分かる。
だから私は、そんな彼らを見て怖がるでもなく、噴き出してしまった。
「えへへ。……可愛い」
「「「か……かわ……??」」」
予想外過ぎて理解が追い付かなかったのか、三人揃って頭から湯気を出して固まっちゃった。
すると、そんな私たちを見て、ラスターが一言。
「ミルク……お前、将来は大物になりそうだな」
「???」
三人組……ガル、バル、デルって名前の彼らと合流したラスターは、“鮮血”専用だっていう馬車に私を乗せ、伯爵領を出発した。
初めて見る、大きくて立派な馬。それが三頭。
車体は金属で出来ていて、生半可な攻撃じゃビクともしないんだって。
そういったことを、御者をしているラスターの代わりに、三人……ガバデ三兄弟から聞かされた。
ガバデっていう家名を持ってるんじゃなくて、兄弟三人それぞれの頭文字を取って、チーム名にしてるみたい。
「いざって時ぁこの車体を盾にして戦えるように出来てんだ。んで、そんなクルマにすると重ぇからな、小せぇのに三頭立てってわけよ」
一番口調が荒くて、中くらいの大きさで、武器を何も持っていない炎の魔法使いが、長男のガル。
「どの馬も魔法で強化してるから、普通なら数日かかるような距離もあっという間なんでヤンス」
一番体が大きくて、語尾が特徴的なハンマー使いが、次男のバル。
「ウェヒヒヒ、代わりに車内がよく揺れるからな……物珍しいからってあまりうろちょろしないことをオススメするぜェ……?」
一番静かで、特徴的な笑い方をしてるのが、三男のデル。
みんな、鎧の形は変だし、髪型もなんかすごく尖ってるんだけど、心の内は綺麗で優しい。魔力がキラキラしてる。
「へぇ~~」
馬車のこと以外にも、私は三人から色んなことを教わった。
この国の名前。
お金の単位。
それから、私達が今向かっている王都や、傭兵団“紅蓮の鮮血”についても。
「オレ達は無法者の集まりだがよォ、それでも最低限のルールはある。“団長の言うことは素直に聞け”、“金のことは副団長に相談してから決めろ”、それから、“飯は絶対に残すな”、だ」
「分かるでヤンスか? ウチの傭兵団では、団長と副団長、それから食堂のババアにだけは絶対に逆らうなってことでヤンス!」
「んー? わかった」
ご飯を残すなんてあり得ないから、いまいちピンと来ないけど……逆らっちゃダメってことだけは、しっかり覚えておこう。
「ラスターは?」
「ウェヒヒヒ、ラスターの兄貴は、決まりなんざ関係なく、誰からも尊敬されてるぜェ……?」
「騎士崩れだっていうから、最初は気に食わなかったでヤンス。でも、実力は間違いなく団長に次ぐ上に、面倒見も良くて、オラ達みたいなバカにも優しくしてくれるでヤンス」
「いい男だぜ本当によォ。まっ、あの凶悪なツラのせいで女はいねェんだけどな! ギャハハ!」
「おい、聞こえてるぞお前ら。帰ったら覚えとけよ」
「「「すいやせん」」」
御者台と車内とを繋ぐ小窓から、ラスターの叱責が飛んでくる。
けれど、三兄弟は相変わらず楽しげに笑ってるし、ラスターも本気で怒ってるわけじゃないみたい。
「まっ、だからよ。おめェも頑張れよ」
「……? なにを?」
「言っただろ、ウチの傭兵団には逆らっちゃいけねェ相手が三人いるってよォ。つまり、ウチに居座るつもりなら、その全員を納得させなきゃダメってこった」
「特に、副団長の頭はロックリザードの体並に硬いでヤンス。お前みたいな弱っちィヤローは相応しくねぇって、すぐに追い出そうとするかもしれないでヤンス!」
ロックリザードは分からないけど、大変な相手だっていうのはよく分かった。
「ウェヒヒヒ、王都に着くまでまだ時間はある……精々、アピール出来る自分の有用性を考えておくといい。ウェヒヒヒ!」
「有用、性……」
精霊眼は珍しいって聞いたけど、これをどう役立てたらいいのか、私には全然分からない。
ご主人様のところではお仕事をしてたけど、それがどういう風に役に立ってたのか、私は知らないんだ。
「…………」
ラスターとは一緒にいたい。けど、私が役に立てるって、本当に証明出来るんだろうか。
王都に着くまでの間、私の中でそんな不安がずっとぐるぐると回っていた。
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