第43話 決着

「さあ、次行くか」


 と、ウェルツがユウナに告げ、ミアの方へと行く。ユウナは体力がぎりぎりで、もう立ち上がれるかも怪しい状態だったが、アトランタの助けに入るため、ウェルツを支えるために、立ち上がろうとする。


「お前は休んどけ」

「でも、ウェルツさんもぎりぎりでしょ? 私も行くから」

「だが」

「それに私あの事なら分かり合えそうな気がするんだ」

「本当にか?」

「たぶん」


 実際、ユウナは大分無理をしていた。魔力切れの苦痛それは大変なものだ。だが、ユウナはそれには負けなかった。

 それにユウナにとって、彼女は洗脳されているだけ。それもあの優男に。だから、仲間になる余地がある。そう感じているのだ。

 ミアがこのままでいいのかと言われたら、それは確実にNOだ。ミアが、正しくないことに力を使うこと、それは看過できない。


「ねえ! あなた!」


 そして、ユウナはそんな混戦地帯に足を踏み入れ、ミアに告げた。


「何なのですか?」

「あなた、組織のことをどう感じているの?」

「そりゃあ、救世主みたいな組織なのですよ。身寄りのない私たちみたいな子どもを強くしてくれるようなところなのです。最高な環境じゃあありませんか?」

「私はそうは思わない。あなたは組織に騙されている!」

「なぜ……そう言えるのですか?」


 そう、怒りに満ちた声でミアが言った。今にもユウナに殴り掛かりそうな声だ。


「組織に私の両親は殺された! でも、私は……捨て子。そう説明させられた。それに今もう彼は死んでいる。今もう抵抗しても無駄」

「ああもう!! うるさいのです!! どいつもこいつも! くだばっちゃえなのです!」


 と、こぶしの拳圧で皆を吹き飛ばす。そのままユウナを殴りに行くが、ぎりぎりでウェルツがその拳を剣で受ける。


「私は、考えるのが嫌いなのです。だから、もう何も考えないであなたたちを倒す方がいいのです!」

「私は、あなたに材料を与えてるだけ。別に考えなくてもいいから。それに私のところについてきてくれたら、楽しいこといっぱいあるよ! 叩く意外にもさあ」


 とはいえ、数日前に戦いに飢えて痛みとしてこれ説得力があるのか? とユウナは一瞬思ったが、別にそれとこれは違う話だ。今の戦力ではミアに勝てない。そんな中、この状況で考えなければならないのは平和的解決だからだ。それに個人的信条としてミアを殺したくない。それはわがままかもしれない。ただ、彼女もただの犠牲者だ。


「だから、お願い。目を覚まして?」

「……目を覚ますって何なのですか? まるで私が間違ってるみたいじゃないですか? 私は決して間違ってないのですよ。組織も私も!」


 そして、ウェルツに対して縦横無尽にこぶしをふるいまくる。それによりウェルツは吹き飛ばされたが、即座にアトランタが援護に入り、ミアの拳を受ける。


「お前、そろそろ時間ねえぞ」

「分かってる!!」


 そう時間がないのだ。そんな中交渉するのは難しいかもしれない。ただ、


「組織はあなたのことを物としか扱ってないはず」

「そんなことないのです! あの方は私を娘のように、扱ってくれて……」

「ならなぜ! あなたは苦痛を受けてたの? それがそうだったとしたらあなたはそんな苦痛を受けなくてもょ勝った。本当にあなたを愛してるのなら、なぜ、あなたを解放しなかったの?」

「それは……」

「だからお願い目を覚まして。それに知ってる? 完成体って人格を乗っ取られるの。知らない? それにあなたはこんなところにいるべき存在じゃない。私たちと一緒に多くの人をすくわなきゃ」

「何なのですか? 私は満足しているのですよ。それに私がやろうとしているのは世界を救う事なのです!」

「わかってないのはあなたじゃん! 楽しくやろうよ。お願い」

「うるさいのです」


 埒が明かない。このままではアトランタの体力は持たない。早くしなければという焦りがユウナを襲う。


「ユウナ!」


 そこに味方によって回復薬を飲まされ回復したウェルツが現れた。


「何?」

「これを見ろ!」


 そこにあったのは完成体に関する研究データだ。それを見た瞬間ユウナはなるほどと納得した。これを見せたら確かに納得できるかもしれない。


「これを見ろ! これがやつらがやろうとしていたことだ」


 その内容には、真の完成体となるためのプロセスが書いてあった。それを見ると、ユウナのところとは若干違うみたいだった。だが、見るも恐ろしき内容だ。それはユウナの方の実験の方と共通している。これはミアもよほど酷い実験をされてきてたということがよくわかった。


「これは嘘なのです! 絶対嘘なのです!」

「嘘じゃない。本当だ。こんな目に見える証拠があるのに、まだ現実を見ないのか?」

「うう」


 明らかにそれを見た時にミアは迷いの表情を見せた。そしてそんなミアをアトランタが斬り、そのまま地面にたたきつけた。


「アトランタさん! 手荒にしないで!」

「分かってるよ!」


 そして、ミアはそのまま気絶してしまった。


「じゃあミアはこのまま連れて帰って交渉するでいい?」

「ああ、完成体はいたら連れ帰れと剣聖に言われていたからな……それでお前も完成体なのか?」

「……」

「別にお前が完成体だとしても、別に俺たちは何もしないぜ。ただ、国に伝えるだけだ」

「私は……」

「俺から先に言わせてもらっていいか? 俺は国が信用できねえ。国の内部には闇が潜んでいると思う」

「そんなことはねえ! と言うかあんたこそ何者なんだ?」


 その質問に対して答える方法がなかった。もし本当のことを言えば犯罪者だ。そもそも組織に入っていたウェルツは自身で罪を償えているのかと思った。彼がやったことは今回の件と前回のユウナを連れて逃げだしたことくらいだ……まあ戦争にも参加していたが。



「もしかして……組織の人間なのか?」

「……違う!」


 いな、違うくない。だが、ばれるのを避けるために生じた嘘だ。


「俺は彼女が道端で倒れていたのを助けただけだ」


 そう作っていた設定を言った。ばれてはならない、その一点で。

 そして、アトランタは一呼吸おいて、


「そうか。だが、納得は出来ねえ。だが、お前には組織と戦う意思があるということで納得してやる」

「ありがとう」

「おい、それを言っちゃったら、認めたことになるぞ」

「……」

「そうビビんなよ。俺はお前のことを信用する……今のうちはな」

「……ああ」

「そしてだ、ユウナお前のことも聞いておきたい」

「……」


 ユウナもユウナで自信を完成体だと認める発言をしたくはない。過去に苦しい実験をさせられた身としてはどう考えてみてもつらい。


「私は……ただの子ども」

「でもミアに完成体と言われてたじゃねえか」

「それは、たぶんあっちの勘違い!」

「ふーん。まあいいや。お前が完成体と言うことは目で見てわかるからな」


 そう聞いた途端ユウナはウェルツの顔を見る。だが、ウェルツにも何もできない。そう、恐れていたことが起きた。これではまた実験動物になってしまう。これじゃあ……


「それより、ミコト!」


 ユウナはそう言って走っていく。そうだった、勝利の余韻でここに来た目的を完全に忘れていた。


「ミコトどこ?」


 そう言って探すが、どこにも見つからない。そのたびにユウナに焦りが見える。

 まさか、もうミコトは死んでしまったのか?

 そう言ったたぐいの焦りだ。


「ミコト!!!!!!」

「お姉ちゃ……」


 その小さな声をユウナは聞き逃さなかった。

 ユウナはその声の方向に走っていく。


「ミコト!!!」


 ユウナはようやく一つの牢の中にミコトの存在を見つけた。


「ミコト大丈夫?」

「……」


 返事が来ない。先程の物も、必死で叫んだものだったのか。


 とりあえず、追いついてきたウェルツから鍵を貰い、ミコトの手枷足枷を外す。


「もう大丈夫だからね」

「……うん」


 そしてユウナはミコトを強く抱きしめた。


「お姉ちゃん。痛いよ」

「ごめん。でも、ミコトが生きててうれしかったから」

「ありがとう」


 そしてミコトもユウナを抱きしめた。

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