第41話 ミドレム

 その男は軽くちょび髭を生やしている二〇代後半程度の優男だった。見た目は優しそうで人畜無害な感じだ。その感じはどこかの孤児院でも経営してそうな雰囲気を感じる。


 だが、ユウナはその姿を見て畏怖した。直感でわかったのだ。こいつが組織の人間であり、この顔の裏の恐ろしい本性に一瞬で気づいたのだ。

 それこそ、組織に虐められ続けたユウナにしか気づかないような些細な怖さで、


「お前たちは許さない!!」


 と、ユウナが怒り、炎の球を男にぶつける。ものすごいスピードで。


「やだなあ。怖い怖い。まだ私は何もしていないのに……乱暴だと生きづらいですよ?」

「……そんな……優しそうなつらで彼女を、ミアをたぶらかしたというわけだよね?」


ユウナの声は、怒りに満ちた声だ。ユウナには、ミアが組織に従っているのは狂気に満ちた信仰心にしか見えていない。そう、洗脳をしているように見えるのだ。

たぶんここまでの状態になるまでには、かなりのことをされているだろう。

やはり阻止kの人間はくそだ、とユウナは再確認する。


「なんのことだろう。ミアは自身の意思で組織の味方をしてますよ。……それよりも世間話をするつもりはありません。敵は排除するだけです。さあミア! やってしまいなさい!」

「分かったのです」


 そして優男、ミドレム ラングレイに言われたことで冷静さを取り戻したミアは上手くアトランタを吹き飛ばした。


「アトランタさん!」


 ユウナは叫ぶが……


「君の味方はこの私、ミドレムだよ」


 と、言ってミドレムはユウナに向けて魔法をぶつけてくる。ユウナはその攻撃をギリギリで魔法で相殺する。


「まあ私の役目は時間稼ぎ。だけど、私は強いよ。ミアほどではないけどね」


 そんな清々しいほどの外面の厚さにユウナは流石にそろそろイライラしてきた。早くアトランタさんの助けをしなきゃ。


「ヘルズアイス!」


 と、氷の槍が飛んでくる。ユウナは今イライラしている。今、全てを吹き飛ばしたい気分だ。魔力残量なんてどうでもいい。今はこの男を殺すだけだ。


「フレイムメルストリート改!」


 と、氷を溶かし、そのままの勢いで炎の嵐がミドレムへと向かっていく。


「これは避けたとしても……避けきれなさそうだね」


 ミドレムは考察し、そのままバリアを作り出した。そのバリアを炎の嵐がバリバリと割っていくが、ミドレムの顔の直前で、勢いが止まり、消滅した。


「いくら完成体とは言え、魔力満タンの私と、すでにミアに魔力を使ってしまっている君。その差は歴然だよ。さあ、もう一発だ! ヘルズフレア!」


 業火がユウナの方へ向かっていく。


「はあ、もう面倒臭い。死んで!」


 と、氷の槍を投げるが、全く効いていない。


「……」


 どうしよう。どうしようどうしようどうしようどうしよう。ユウナの感情はその言葉で埋め尽くされた。誰もこちらに援護してくれる人はいないだろう。ミアの方はもう立て直して、アトランタさんもやられてはいない。でも、でも! もう取れる手があまりない。こうなったら……一瞬に全力をぶち込むしかない。


 そして魔力をためながら、その時を待つ。全力で放てる費を。さあ、憎悪を出すんだと、何度もユウナは心の中の自分に告げる。


「どうした? もう抵抗は終わりですか? ではこれで終わらせてあげましょう」

「奇遇だね。私もそう思ってたところ!」


 そして、ユウナは溜めていた魔力を全部ぶち込む。


「フレイムメルストリーム!!!!」


 と、魔力を絞り出した魔法をぶちかます。


「ヘルアイス」


 と、魔法のぶつかり合いを見せ、そして相殺される。


「え? 嘘……」


 その攻撃は消え、もうユウナの魔力がなくなってしまった。そしてユウナはその場で倒れようとするが、怒りと憎悪の力で再び立ち上がる。


「そう言えば、君は完成体だったね」

「うん。そうだよ」


 そして、残りほぼわずかな魔力には頼らず、魔法をよけることに専念した。その身に宿った身体能力だけでよけきる。だが、追尾型に関しては違うかった。だが、それもぎりぎりで炎の剣で受けてゆく。


「しぶといね。君は」

「うるさい!」


 と、しぶとくも粘っていく。だが、決め手がない。……せめてアトランタさんやウェルツさんが来たら何とかなるだろうが、今の自分にはどうすることもできない。粘ることしか。早くミア戦が終わったらいいのだが。





 アトランタが吹き飛ばされたころ。


「なるほど、あの方が来たら楽になったのです」


 ミアはそう言って、アトランタに止めを刺そうと向かって行く。


「さあ、消えるのです」

「くそ、俺だって、ただで死ぬわけには行かねえよ!」


 アトランタは農家の育ち、それも元、あの国の領土だった。そのため幼少期から差別を受けて育ってきた。


「あの人、敵国の人間らしいよ」

「へー、あの血を含んでいるんだ。じゃあ何をしてもいいね」

「あんたたち国の人のせいで私の夫が殺されたんだ!!」

「あんたたちが早く撤退すれば、私の娘は死ななかったんだよ!!!!」


 そんなことを言う人たちによってさまざまな暴行を受けた。アトランタはわかっている。生きてるだけ、奴隷になってないだけましだと。

 だが、少数派、マイノリティのアトランタたちには何もできなかった。


 そしてある時、アトランタが山菜を取りに出かけた時、事件が起こった。

 アトランタが帰ってきたら家が燃えていたのだ。それはアトランタたちの唯一の家だ。しかもアトランタの両親と一緒に。

 その犯人はわかっている。アトランタたちを恨んでいた人たちだろう。

 だが、何もやり返すことは出来なかった。訴えても罪にはならなかったのだ。だからと言って力で復習をすれば自分の立場が弱くなるのは明白だ。

 だからまず地位を高めようと思った。地位を高め、この国で、普通に生活するために。


 そのために戦争では祖国の人間であっても斬り殺し、その実力を国に示してきた。


 もちろん国の中で冷遇はされてきた。でも、その中で力をつけ何とか部隊長程度の力をつけてきた。


 そんな中ここで簡単に殺されるわけには行かない。


「うおおおお!!!!」


 そして何とか、剣をやみくもに突き刺す。


「死ぬわけには行かねえんだよ!」


 と、いきなり剣を突き刺した。そして、その剣は何とかミアの体に当たり,その華奢な体を傷つけ、拳の直撃をかろうじて避けた。


 そして、そのまま移動して体勢を立て直す。


「あとなあ、お前、なのですなのですうるさいぞ! キャラ付けかよ!」

「うるさいのです。これは個性と言ってほしいのですよ」

「とんだ個性だな」


 そして、何とか回復してきた他の人も加わって何とか戦いになる。しかし、あくまでも戦えるようになるだ。別に優位に立ったわけではない。

 そのことはアトランタたちにも分かっていた。だからこそ、向こうで一人孤独に戦うユウナを救助をしに行けない。その何という無力感。だが、これは仕方のないことだ。

 ウェルツは向こうで完全に伸びていて復帰は見込めない。

 そんな中八人で必死にミアを止める。


「あははは。そんなことをしても無駄なのですよ」


 そう言ってミアは全く攻撃の手を緩めない。猛攻をしのぐので九人は精いっぱいだった。


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