第12話 休息
宿
「今日はお疲れ様」
看守はユウナを撫でている。
「しかし、今日は無理をさせてしまったな」
「大丈夫だよ、私もう魔力欠乏なんてならないから」
「それもそうだが、お前の魔法がまだコントロールし切れてないのに、俺が不甲斐なくて使わせてしまったからな」
「ああ、それね。私の方こそごめん。突っ込んでしまって」
「でも、それは俺を助けようと思ったからだろ。お前は悪くないよ」
ウェルツは暗い顔をするユウナを優しくなでた。
「うん! 大好き」
「大好きっておいおい」
「いいじゃん、私が好きなんだから」
「お前、俺はお前の両親を殺して、お前を牢獄に繋いだ男だぞ」
「でも、それは過去のウェルツさんじゃん」
「ん?」
「今の看守さんは違うよ。過去のウェルツさんが酷かっただけで今の看守さんは優しいじゃん。たしかに最初に聞いた時は悲しかったし、嫌いになった。でも今は好きだよ」
やれやれ調子が狂うなとウェルツは思った。今どれだけユウナにやさしくしても、過去の罪は消えない。それをウェルツはわかっている。そんな罪深い男が本当に大好きなんて言う言葉をもらっていいのだろうか、許されてもいいのだろうか。
「でも一つだけお願いがあるの」
「なんだ?」
「もっと強く撫でて」
「ああ、わかった」
そしてウェルツは頭を強く撫でる。
「ご飯だよ!」
と、だが開かれる。
「うわ、びっくりした。ノックぐらいしてよ」
「あ、ごめん。なんかいいとこだった?」
「いや、そういうわけではないが」
流石に頭をなでている時にドアが開かれては二人ともびっくりしてしまう。
「じゃあご飯食べにきてね」
「ああ、じゃあ行くか」
「待って、もう少し頭を撫でて」
「わがまま言うな、ご飯が冷めてしまうぞ」
「はーい」
そして二人はご飯を食べに行く。
「んん、今日も美味しい」
「うん、美味しい」
「なんか今日は昨日より美味しいかも」
「今日は魔法を使いまくったからだな」
実際魔力も当然だが、体力も消費する。そう言う訳で、今ユウナのおなかは完全にすいている状態なのだ。
「あー、なんかお腹減ってたなあ」
「たくさん食べろ」
「うん! お代わり!」
「早すぎないか?」
「だってお腹すいてたんだもん」
「私もいっぱい食べてもらえると嬉しいわ」
女将さんは喜ぶ。
「はあ、疲れが取れる」
「ご飯で疲れが取れるのか?」
「うん、なんかエネルギーが回復する」
「それを言うのなら体力が回復するだろ」
「そうとも言うね!」
「なんか急に大人っぽいこと言う時あるよな、お前」
「そう?」
「ああ、普段はバカなのに急に知能指数が上がらんだよ」
「バカって何よ?」
ユウナはウェルツに怒った。彼女にとって馬鹿と言う自覚はない。
「さっき魔法のコントロールがうまく行ってなかっただろ」
確かに、さっき魔法の使い方で失敗したユウナにとって文句を言う資格はない。でも、
「それはそうだけどさあ、言い方があるよね」
「すまん」
「なんでそこは素直なの!?」
「ああ、でなんでたまに大人っぽい感じの言い方をするんだ?」
「知らないよ。あ、でも完成体だからかな?」
「意外だな」
「ん?」
「その言葉嫌いなんだと思ってたんだが」
「ねえ、その完成体って何?」
背後に立っていたメリーが純粋なまなざしで聞いた。
「ああ、それはなこいつが完成体完成体だー、とか色々言いまくってるだけだ」
「何よそれ」
「失礼だなー、私は本当に完成体なんだけど」
「でも、その言葉嫌いとか言ってなかった?」
「最近、こいつあんまり言ってなかったからな、嫌いになったのかと思ってただけだ」
「私がその言葉嫌いになることはないって」
「というわけだ」
「ふーん、じゃあ私完成体って呼ぶね」
「いや、なんか他人に言われるのはなんか違うっていうか、うん、やめて」
流石にそれはユウナにとって恥ずかしすぎる。
「わがままだね、完成体」
「だからやめてって」
「なんとか言い逃れられたな」
「うん、危なかったね」
二人は小声で言う。
「さて、おかわりしてこようかな?」
「ああ、行ってこい」
「うん!」
「はあ、今日のご飯美味しかった!」
「それは良かったな」
「それでなでなでの続きをお願い!」
「分かったよ」
「ああ、気持ちいい。昨日頼んだら良かった」
「そうか、ならもっとヨシヨシしなければな」
「ありがとう!」
「ん?」
ウェルツの膝の上にはユウナが寝ていた。
「そうか、寝たのか。ヨイショっと」
ウェルツはユウナを持ち上げ、そのまま部屋まで運びベットに寝かす。
「さてと」
ウェルツは部屋から出た。
「おはよう!」
「ああおはよう」
ユウナの隣に寝ていたウェルツが返事をする。
「ねえ、今日もどっか行く?」
「ああ、今日も依頼をこなしていこう」
「うん!」
「ただ、俺も少し鍛えなきゃならないな」
「昨日ボロボロだったもんね」
「お前だって魔法のコントロールできてなかっただろ」
「最後土を上手くコントロールしたでしょ」
「ただ、その前に火災を起こして、洪水を起こしたのは誰だっけ?」
「意地悪言わないでよ」
「まあとりあえず朝ごはんを待つか」
「うん!」
「暇だな」
「うん」
「何かするか?」
「何かって何?」
「例えば本を読むとか?」
「それって面白く無くない?」
「そうか? 過去の人たちの文字が見れるんだぞ。それにお前も楽しんでたじゃないか」
「それは拘束されてたからだけだって」
本を読むなんてユウナにとってはそこまで面白くない。何しろ今は走り回るほうが楽しいのだ。
「そうか、ならお前は案があるのか?」
「それはねー。これ」
そう言ってユウナは両手を出した。
「何だそれは?」
「真似してよ」
「ああ」
そしてウェルツは両手を出す。
「それでこうするの」
ユウナは右手を斜めに出す。
「こうか?」
「うん。そしたら右手を戻して左手を斜めにする」
「ああ」
「そしたら今度は左手を戻して、両手をまっすぐ前に出す」
「ああ」
「そして手をこうやってこう」
「ああ」
ウェルツはあんまりわかってないような様子だった。
「あ、忘れてた」
ユウナは急に大きな声を出して、その声にウェルツは少しだけびくっとした。
「これこれ、それぞれの動作をする前に手をぱんっと叩くんだ」
「そうか」
「だからさ、とりあえず通しでやってみようよ。これだけだったらウェルツさんわからないだろうし」
「そうだな」
実際ウェルツにとってこの行為で何をするのか全くイメージできてないのだ。
「行くよ」
そしてユウナは始めた。ウェルツはユウナの動きに何とかついていく。
「そうそうその感じ。これを八回程度やるんだよ」
そして二人は一定の動きを繰り返す。
「なるほど、地味だがハマりそうな動きだな」
「でしょー。私これをやりたかったんだ」
「もしかしてこれって夢で見たやつか?」
「うん。完成体の実験で唯一ありがたかったやつ」
つらい思い出ばかりだったが、この異世界の知識、これだけに関してはプラスのことだ。
「そうか。もしかしてこういう遊びをもっと知ってるのか」
「うん。もちろんいろいろ知ってるよ」
「そうか。いろいろな遊びをするのが楽しみだ」
「そういえばさ、思ったんだけどこういうので、私お金稼げない?」
「ああ、そうだけど。組織をつぶすまでは我慢してくれ」
目立ってしまっては、狙われてしまう恐れがある。
「えー、もしお金稼げたらあんな面倒なことしなくていいじゃん」
「我慢しろ。それに働かない人生なんてつまらないぞ」
「私はもう十分働いたじゃん。実験に付き合ったし」
「それとはまた違った働くだ」
「なんか魔法を使ったら疲れるじゃん」
「お前は魔法を使えるからいいだろ。もっと下の平民は毎日せっせと野菜を育てて、それで微量のお金をもらえるだけだぞ。感謝しろ」
「ウェルツさんに?」
「あ、そういう話になるか」
そしてウェルツは少しばつが悪い顔をする。この文脈だと、ユウナを完成体に仕立て上げたことに感謝されることになる。
「さてとこれも飽きてきたな」
「ならスピードアップしようよ。いいでしょ」
「ああ」
ユウナは手の動きを早くする。
「早すぎるだろお前、追いつけねえよ」
「私よりも運動能力があるはずでしょ」
「そういう話じゃねえ」
ユウナは笑う。
「なんで笑ってるんだよ」
「いやー。楽しくてね」
「こんな日常が?」
「私は生まれてから人並みの生活ができなかったから、こんな他愛ないことが楽しいの」
「それはすまん」
「別に謝ってほしいわけじゃないよ。看守さんだけが悪いわけじゃないのわかってるし。でも、あの地獄から解放されて、今はこんなに笑って過ごせる。こんな幸せなことはないよ」
「お前、そんなふうに思うぐらい精神的に来てたのか」
「わ、ちょっと抱きしめないでよ」
「すまん、すまん」
「もう、ウェルツさんってば」
ユウナはウェルツをよしよしした。
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