第4話 交流 2
ご機嫌な様子で大量のケーキの箱を抱える津浦の後ろをついて歩く。買えずに肩を落として帰って行った人達を思うと津浦の思いやりや遠慮の無さに腹立たしさを覚えた。
「それじゃあこれで……」
別れの挨拶をして部屋に戻る。靴を脱いで中に入ったときだ。
「おじゃましまぁす」
背後から呑気な声に振り向くと、津浦がニコニコと笑って立っていた。
「ほらほら、早くお茶しようよぉ」
「ちょっと……!」
追い返そうとする私を追い立ててグイグイと中に入ってくる。
結局私は図々しくローテーブルを前に座った津浦のために紅茶を淹れていた。どうも彼は人が身の回りの世話をしてくれることを当たり前だと思っているようだ。あまりにも自然にそう振る舞うので、気づけばこっちもそうするのが当たり前のように世話をしてしまうのである。
彼はいそいそとケーキの入った箱を並べていた。
「お皿とフォークです、どうぞ」
「いらなぁい」
私が食器を差し出すと、津浦はそれを断って手掴みでケーキを食べ出した。しかも一口で。つまり丸呑みだ。唖然とする私を尻目に津浦はもう一つ、またもう一つと丸呑みしていく。なるほどこの様子では確かに大量のケーキを買い占めても足りないくらいだろう。
気を取り直して私も皿にショートケーキを乗せた。フォークを刺すとスポンジの柔らかい感触が伝わってくる。口に入れればクリームの濃厚な、しかし決して甘すぎない優しい味で満たされた。
「おいしーい!」
「そうでしょー!」
しばらく二人でお茶会を楽しんだ。色々と話をしているうちに話題は新谷のことになる。私が管理人になった経緯を話せば、津浦はそういう男だからと笑った。
「笑い事じゃないですよ!」
「だってさぁ、新谷くんにしてはすることがおとなしいんだものぉ」
「おとなしくなんかないっ!」
思わずテーブルに拳を叩きつけてしまったが、津浦は気にしていないようだった。
「新谷くんはさぁ、いつも暇を持て余してる。いつだって遊び相手を探してるんだよぉ」
「それが私だって言うんですか?」
「うん」
頷いて津浦はシュークリームを頬張った。
「特に管理人さんのことは気に入っていると思うよぉ。だって遊び場が完成する前から連れてきたんだもん」
「遊び場って何のこと?」
私の質問に津浦は口を噤んだ。喋りすぎたと顔に出ている。
「……とにかく、もうちょっと待ってごらんよぉ。きっと新谷くんが刺激のある人生ってやつを体験させてくれるよぉ」
「そうでしょうか……」
「まあ人間にとってちょうどいい刺激で済むかどうかは別の話なんだけどねぇ」
「えっ⁉︎」
「管理人さん、紅茶のおかわりぃ」
「いやいや、今ものすごく不穏なこと言いましたよね!」
「早くぅ、紅茶ぁ」
「津浦さんってば!」
催促されるままに紅茶を注ぎつつもう一度聞き返すが、結局津浦はその後は満足そうにケーキを丸呑みしていくだけだった……。
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