第3話 アリと転校生

「どうも~。佐伯康成っす。よろしく」


 そして、朝のホームルームの時間だった。


 千影の言う通り、転校生が来るという紹介があって、入ってきたのが佐伯康成であった。


 明らかにやる気のない、所謂チャラい感じで、その少年は挨拶した。


 金髪で、なんというか……見たままガラの悪い感じであった。


「あー……、じゃあ、佐伯はあの空いている席に座ってくれ」


 教師にそう言われ、佐伯は空いている席……千影の隣に座った。


 それを、俺は少し離れた席から見ている。佐伯は千影のことをまるで品定めするかのように見ている。千影は少し戸惑っていたようだった。


 と、急に佐伯はニッコリと微笑んだ。


「よろしく。えっと……」


「あ……。薄羽千影。よろしくね」


「あ~。千影ちゃんね。よろしく」


 馴れ馴れしくそう挨拶する佐伯。俺は……苛立ちを感じていた。


 明らかに千影のことを狙っている。俺が千影のことを気にしすぎているというのではなく、間違いなく佐伯は千影を「そういう対象」としての視線で見ている。


 俺は苛立ちを抑えながら、なんとか平常心を保つことにした。


 ……それにしても、本当に現実になってしまった。朝に千影が急に言い出してきたこと、そして、バスの中で短髪の少女に言われた通りに……。


 そして、何より、佐伯は千影の隣に座った。もはやこれは、そうなってしまって仕方のないことのような気がしてきた。


 いや……俺はただ、それを見ているだけだ。干渉も最低限にしなければいけない。


 俺は今一度自分に言い聞かせる。いつのまにか授業が始まっていたが……あまり頭には入らなかった。


 そして、放課後になった。


「ねぇ、千影ちゃんの家ってどこなの?」


 佐伯が千影にそう尋ねる。


「えっと……ここからバスで少し離れた有野州村ってところだよ」


「マジ? 俺の引越し先じゃん。一緒に帰ろうよ」


 千影は少し困ったように俺のことを見た。俺は千影のことを見たが、すぐに視線を反らした。


「ほら。行こうよ。バス、来ちゃうし」


「あ……。う、うん……」


 半ば強引に佐伯に千影は連れて行かれてしまった。俺は自分の席からゆっくりと立ち上がる。


「良い判断ですね。士郎」


 と、いきなり聞こえてきた声の方に俺は顔を向ける。そこにいたのは、今朝のバスで俺に話しかけてきたショートカットの女の子だった。


「……美波」


 俺は思わず嫌そうな感じでそう呼んでしまった。


 有吉美波。有野州村の村長の孫娘である。


「カゲロウ様は流されやすいですからね。あの感じだとすぐにでもあの男の言いなりでしょう」


「……千影にその呼び方をするの、やめろって言っただろ」


 俺が少し怒りを滲み出しながらそう言っても、美波は特に気にしていないようだった。


「なぜです? 本来はそう呼ぶのが正しいのに」


「……千影は千影だろ。俺もお前も……小さい頃からずっと友達だろうが」


「友達? 士郎にとってはそうかもしれませんが、私にとってはアレはあくまで監視対象です。まぁ、それを言ってしまうと、士郎も監視対象ではあるのですが」


 俺はそれ以上は反論しなかった。美波はいつもこんな感じなのだ。


 といっても、美波を攻める気にはならない。なにせ、美波は有野州村の村長の孫娘……こんな感じでいなければならないのだ。


「バス、もう行ってしまったと思いますよ」


 そう言いながら、美波は俺のあとをついてくる。


「……じゃあ、なんで俺のあとを付いてくるんだ」


「どうせカゲロウ様はもうあの男と行ってしまったんです。たまには私と一緒に二人で帰りましょう」


 拒否する理由もなかったので、俺は仕方なく美波と一緒に村までバスに同乗することになったのであった。

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