第38話 代表生徒

 朝のHR。


 教卓の後ろに立った教師が告げる。


「皆さん、来月には学年別トーナメント——武闘会が行われます。代表生徒はすでに選出されていますので、その発表を行いますね。我がクラスからも多くの生徒が選出されます」


 先ほどクロエから聞いた情報通りだな。


 教師はさらに説明を続ける。


「まず、オニキスさん。クロエさん。それとリオンさん。他には——」


 俺が知るシナリオ通りにメンバーが選ばれていく。


 授業で俺に負けたとはいえ、あのリオンも代表生徒に選ばれていた。


「——以上の生徒は、放課後にでも鍛錬を行ってくださいね。中途半端な状態で武闘会に出ると怪我をしますよ」


 それだけ言って教師の説明は終わった。


 リオンが俺のことを睨むように見ていることを除けば、大方問題は無かった。


 すぐに授業が行われ、意識を集中させる。




 ▼△▼




 時間は流れて放課後。


 席を立った俺の下に、クロエとクラリスがやって来る。


「オニキス様! よかったらわたくしと一緒に鍛錬しませんか?」


 クロエは開口一番にそう言った。


「クロエ嬢と一緒に?」


「お互いに代表生徒ではありますが、別に協力してはいけない——というルールはありませんもの」


「そうですね。俺としてもクロエ嬢に付き合ってもらえれば嬉しいです」


 これは俺の嘘偽りの無い本音だ。


 ダンジョン産のアイテムを渡したことで、いまのクロエは原作より強くなっている。


 元々優秀な生徒だったし、充分に鍛錬の意味がある。


「ありがとうございます、オニキス様!」


 クロエは俺が承諾すると嬉しそうに笑った。


 隣に並ぶクラリスが、ちょっとだけ羨ましそうにしている。


「クロエ様はいいですね……私も戦闘に秀でたスキルを持っていれば、オニキス様と遊べたのに」


「鍛錬は遊びじゃないよ、クラリス様」


「ええ、もちろん分かっています。言葉の綾です。ただ、それでも羨ましいという気持ちに変化はありませんが」


「それならクラリス様は、わたくしたちの戦いを見守っていてください」


「見守る?」


「はい。クラリス様は治癒スキルを持っていますからね。万が一のことを考えて近くにいてもらえると助かります」


「なるほど! そういうことならお任せください。重症でもなければ私が治します!」


 ふんす、とクロエの言葉を聞いてクラリスがやる気を出した。


 治癒スキルなら俺も使えるし別に必要は無いが……俺は何も言わない。


 クラリスの望みを突っぱねるのも後味悪いしな。


「オニキス様もそれで構いませんよね?」


「ああ。いざという時は頼みましたよ、クラリス様」


「はい!」


 彼女は満面の笑みを浮かべて答えた。


 三人で訓練場へ向かう。




 ▼△▼




 クロエ、クラリスを伴って訓練場へ足を運ぶ。


 学校施設は生徒であれば基本的に使用が自由だ。


 他にも使用している生徒の姿は見えるが、スペースは充分にある。


 倉庫から木剣を持ち出そうとしたが、それより先に声をかけられた。


「——あら、オニキス様じゃない」


「げっ。生徒会長」


 俺の前に姿を現したのは、凛としたオーラをまとう生徒会長、ノルンカティア・アグニス。


 さらりと髪をなびかせて口端をわずかに持ち上げる。


「いま、私を見て、げって顔をしたわね」


「してません」


「嘘を吐かないでちょうだい。見れば分かる。その不満そうな顔をね」


「……」


 視線を逸らすがいまさら遅かった。


 彼女は少しだけ頬を膨らませると、


「私も傷付くのよ? そういう反応されると」


「すみません。まさか会長と顔を合わせるとは思っていなくて」


「関係あるの、それ⁉」


 えぇ⁉ という衝撃を受けてノルンカティア会長は後ろに一歩下がった。


 意外と傷付きやすい人なのかな?


「ありますよ。びっくりしてつい」


「びっくりしてつい……? ま、まあいいわ。それよりいい機会だし、私と刃を交えない? オニキス様」


「ノルンカティア会長と?」


「あなたがここにいるのは、きっと今朝発表された武闘会の件でしょう?」


「ええ、まあ」


「見ての通り私も代表生徒に選ばれたの。それなら一緒に鍛錬した方がより効率的だとは思わない? ねぇ、クロエ様」


 ちらりと俺の背後にいるクロエに視線を送る会長。


 見つめられたクロエは、


「たしかに、会長ほどの相手と戦える機会はそうそうありませんね」


 と答える。


 その反応に会長は胸を張った。結構なドヤ顔だ。


「そうでしょうそうでしょうとも! だから三人で鍛錬をしましょう? 治癒スキルを持つオニキス様にクラリス様がいれば、多少の無茶もできるしね」


「多少の無茶、ねぇ」


 なんだかこの人が言うと本当に大変なことになりそうだが、会長の実力的に不足はない。


 どうせ俺はもっと強くなって武闘会でも勝利するつもりだし、彼女の提案を受け入れても構わなかった。


 今回だけの可能性もあるしな。


 クロエと相談した結果、特に異存なしという結果になる。




「分かりました。快く会長の提案を受け入れます。よろしくお願いしますね」


「ええ。こちらこそ」


 にやりと笑ったノルンカティア生徒会長。


 その瞳が、鋭く細く俺を捉える。




———————————

あとがき。


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